3.敵
街中で、スマホを僕に向けて来られることがある。そういう無神経で、非常識な奴は本当に腹が立つ。人ごみに紛れて、だけど、僕はそういうの割とわかる方なんだ。「あ、あいつだな」って。
これは、『Souls gate』の「赤外線通信許可」機能のせいだ。
『Souls gate』では、自分以外のプレーヤーとお友達登録して、そのアバターで「my八卦表」を完成させることが出来る。友達登録したプレーヤーの属性とレベルはmy八卦表に登録される。そうして八つの異なる卦を集めて八卦を完成させたら、自分の性質関係なく「技」として、その八卦表を使うことが出来る。それによって、技が六十四通りに増えるんだ。だから、どうしても自分のmy八卦表の卦を八個揃えたい。
同じ時間にログインしてタッグを組まない限り、にアバターは出ないし、バトルに勝っても使用した(借りた)卦のレベルは上がらない。だけど、自分の卦のレベルは上がる。タッグを組んで、そのメンバーでクエストに挑み、バトルに勝った場合には、メンバー全員のレベルが上がる。技の威力は、レベルによって違うから、レベルを上げればそれだけ有利にゲームを進められる。
お友達登録だけの「仲間」なら、gate掲示板(アバターの交流の場だ)で、随時交流募集が出ている。「一緒にタッグを組む仲間募集。夜十時集合」とか、「〇以上のランクの〇の卦募集。登録だけで結構です」とか。その際、依頼だったら、ゲーム内で使われている通貨が使われ、募集だったら、「条件が合えば合流」で話が進む。そんな風に集まった(集めた)メンバーでmy八卦表を完成させるのだ。依頼だけで自分の理想のmy八卦表をつくる。(といっても、自分の卦のところは、変えられないんだけどね)そんな奴らは、結構いるらしい。
基本的に、タッグを組んたアバター同士でクエストに挑戦した場合、八卦表内のランクのバランスは最初にいい状態ならば、そのままの状態でランクアップするし、いい状態の八卦表はランクアップが早い。
だから、ずば抜けて高いランクのアバターをゲストに迎えればいいってわけでもない。だから、ボッチプレーヤーで自分のランクだけ上がるプレーヤーは、ランクアップの度にメンバーを変えたりするらしい。
より理想的なmy八卦表をつくるため、だ。
マニュアルなんかも結構出ているが、それらはみんな「俺が試したらこのバランスが良かったよ」とかいう体験で、それが「best」てわけではない。要は、試した数だけ答えがあるってことだね。
でも、アバターの依頼は「試しに」って言うには、費用が掛かる。で、奴らの選択肢の一つがこれだ。赤外線通信許可をオンにしている人のアバターに一方的に接触する。
お友達申請をする。
バトルを申し込む。
別に、姿を現す必要はない。「赤外線通信許可」のユーザー同士がすれ違っただけで、赤外線が反応するだけで、いい。自分の画面に「新しいアバターが通信を希望しています」ってでる。「OK」なら、「Yes」を選択する。
「お友達になりますか? 」か、「バトルを申し込まれています」にまた、「Yes」か「no」か。
通信する相手は、アバターでいい。別に本当のユーザーの顔なんてどうでも。
あいつ、あんなアバターだけど実際はあんなじゃん。
そういうことはあり得るけど、でも、それはネットワークゲームの世界だったら「言わないでいいこと」じゃない? お約束って奴だよ。だから、お行儀のいいユーザーはそんなこと追求しない。まあ、人間関係を築くが苦手な、もしくは興味がないコミュ障やらも多いのが現実だしね。
僕にとって、「このアバターの実際の顔は、これ」「偉そうなこと言ってるけど、実際は女じゃん」って「管理」してる奴なんか、マナー違反ヤロウで、敵でしかない。
だから、こっそりスマホを向けられると、怒りが爆発しそうになる。
「管理」目的の奴、通信目的の奴。
僕のアバターと通信して、バトルを挑もうとしてるんだ。お友達申請もあろうが、友達になりたいなら、正面から願い出るべきだろう。(※緊張してそんなこと出来ないヘタレの事なぞ考えられない、筋肉脳なんだからしょうがない)だから多分、バトルの申し出だ。
女だからって、侮って「こいつになら勝てる」って奴だ。
バトルに勝てば、自分のアバターのレベルも上がるし。アイテムも奪えるし、賞金も出るし。
だが、僕のアバターは生憎そんじょそこらのタツノオトシゴじゃない。残念だったな。他を当たれ。(しかも、ちょっと中二。容姿以外色々と残念な女子、それが奈水流だった)
だが、勿論僕はネット上以外で姿を晒す気はさらさらない。「赤外線通信許可」を「ON」になんてしていないし、ブロックだって、即効「ブロックレベル高」をした。抜かりはない。
だって、気持ち悪いじゃん! 顔も見せない相手とか。正々堂々と来ないやつとか、もうホント問題外だよ。そういう経験は今までにないけど、「あるらしい」とテレビの特番で見た。
それまでは、「赤外線通信許可」なんて、「ON」にする奴いないって思ってたんだけど、その特番で「赤外線通信許可合コン」なるものを見て、驚愕した。
つまり、その合コンの間だけ期間限定で、「赤外線通信許可」を「ON」にする。そして、アバターを話題に合コンする。というものらしい。合コンだから、相手の顔も見れるし、趣味も合うし最高! と、このごろ人気らしい。
‥世も末だ。
因みに、「赤外線通信許可イベント」ってのもある。これは、イベント会場に入る際、身元保証書の提示や金銭関係のトラブルの禁止等の注意事項に署名したユーザーだけがイベント会場で交流するもので、この場はネットワークゲームマナーに従い、お互いの顔を見ないのが暗黙の了解なのも頷ける。(勿論、そこで盛り上がって友達になる人たちもいるらしいが、そもそもそんな人間関係が築けるような人間はあんまり来ない。それに、自分がそうであっても、相手は顔を晒すのを良しとしない人かもしれないわけだしね。見極めは難しいよ)
同じ会場にいて、お互い顔を見ることもなく、スマホをいじっている光景は、ちょっと凄惨だった。
これも、その特番情報。
まあ、どっちも僕は興味ないし、関係ない。
そう。関係ないって言えるんだ。これなんか平和なもの。「赤外線通信許可」さえ出さなかったら、シャットアウトできるんだから。
それより怖いのが『souls catch』だ。
『souls catch』とは、『Souls gate』専用のカメラみたいなものだ。ネット空間で使えるカメラみたいなもんなんだけど、赤外線通信許可を出しているアバターだったら、アバターの写真を撮ることが出来る。その際、相手のアバターに「撮影を許可しますか? 」という表示が出る。相手が許可すれば撮影でき、撮影者はその写真を掲示板に投稿することができる。「街ですれ違った可愛い子」とか「イケメン発見! 」とか(アバターだけど)そして、その写真の閲覧数が多いと、ゲーム『Souls gate』内で使える武器やらアイテムを貰えたりするのだ。それも、投稿者と「モデル」両方に、だ。
『souls catch』は、勝手に映すというような違法行為は認めていなくて、許可が得られた場合の撮影や、友達同士撮りっこしたりして楽しむアプリだと繰り返し伝えている。catch伝言板がメインだということも。
だけど、どこでもマナーが悪い奴ってのはいるわけで。
そう、勝手に映す違法行為は、エスカレートするってことは容易に想像できることだった。
改造された『souls catch』は、まさに狩りだ。『Souls gate』が「赤外線通信許可」にしている人のみとしか通信出来ないのに対して、『souls catch』は、一方的にアバターを撮っていける。自分勝手な、「知りたいという要望」を叶えることが出来る。(それにも対応しているのが、レアのみが選択できる、ブロックレベル高だ! 最高だね)皆つければいいというが、これを付けると、他のアバターとの交流が凄く難しくなるんだ。操作も若干遅くなるし。まだまだ改良されていくだろう。
ともかく、『souls catch』の話だ。
何度か社会現象になって、何度も『souls catch』廃止令が出て、その都度ユーザーの嘆願があって、会社側も何度も改造されない様に改良を繰り返して、いまだにある。
一部のマナー違反者の為に大変だ。
でも、餌(閲覧数が増えることによって貰えるアイテムとかいった特典)をぶら下げてるんだ。それは、『souls catch』も悪いんじゃないかなあ。
僕は、ネット上での平和を守りたいだけ。
仮の姿でバトルして、ネット上だけの交流ごっこして。
それが楽しいだけでいい。
僕の第二の居場所を他人に乱されるなんて冗談じゃないだ。