2.第二の居場所
トランスジェンダーではない。性的なものを否定して、ただ、男でも女でもないものに憧れる。でも、外見は周りに望まれるまま、女の子の格好をしている。
それが嫌だとも思わない。おかしいとも、思ったことはない。でも、心の中でどうこう思うこと位自由だろうって思う。
心の中では、自分は男の子で、実際には会おうはずもない、また害もない女の子にキャーキャー言われたり。男同士の友情を育んだりしたい。
だから、オンラインゲームではいつも男性キャラクターを選んだ。そんなのはよくあること、じゃない?
「放っておいてっていってんだろ」
ぼそり、と呟いてみたけど、その声には迫力の欠片もなかったし、女子そのものの高さだった。
この外見だ。自分が女にしか見えない自覚もある。それに「口の悪い女の子」は、自分の望むものではない。
女の子はかくあるべき、という理想を自分の中に持ち、女の子として暮らしていくうえで、それを守りたいと思いながら、理想の男の子をオンラインゲーム上で演じる快感。奈水流にとってそれが自分の最も快適な生活であった。
「結局、夢と現実は別だよ」
ネット上では、自由に振舞える。誰にも文句は言われないし、言わせない。
でも、実際は‥。
現実に戻ると、落胆する。自分の「現実」に落胆する。
現実社会では、自分は主人公ではない。そのことにも落胆する。
だから、実はちょっと不安だったんだ。端末で、自分が性別通り女と判定が出て、そしてそのことに自分が落胆して、大好きな、憧れていたゲーム『Souls gate』が嫌いになることが予測できて‥。
何かの間違いかもしれない。
だけど、嬉しかった。
今まで通り、ネットゲームの上では男の子として暮らしていいんだって言われた。それも、自分で作ったのではなく、第三者から与えられたアバターで。
余計に『Souls gate』が好きになった。
これから始まる、レアとしてのネット上の生活が楽しみで仕方ない。特別な男の子としての生活が。
だから、その境界を乱されるのは許せない。