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Souls gate  作者: 大野 大樹
一章 救済
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1.楠君と愉快な仲間たち

「彼がこの世に生まれた経緯について‥」の一応の完結をもって、手直しをしました。

 ちょっと長いですが、「彼が‥」の中の世界観と、ここらはほぼ同じです。

 1部は柊さん暴走事件、前の話となっています。


「ピっとね。お。ヒット、レアが出た♪ 送信っと」



 ピピン

 楠のスマホから軽快な音が響く。

 だけどこれ、スマホに見えるスマホ型の最新型通信機器なのだ。(勿論、電話もできる)このスタイリッシュでコンパクトなボディに、膨大なメモリが内蔵されているとは誰も思わないだろう。

「ん~。また来たね。ユーザーIDコストト。この子も暇ね~。‥お、レアだね。ちょっと見に行ってみますか。場所は‥」

「どれ」

 レアの言葉に反応した柊が、顔を少し上げスマホを見る。

「あ、柊さん」

「‥俺も行く」

 ゆらりと立ち上がる。その様子におおよそ若者らしさはない。

 勢いがない。やる気が見えない。いや、若者か老人かそういう次元の問題ではない。それ以前に

 生気が感じられない。

 存在感がないわけでは、ない。存在感なら「視界の邪魔だな」って程度にはある。大の男が寝そべっていて存在感がないわけがない。

 部屋の片隅に、「和室コーナー。やっぱり日本人なら畳でしょう」なんて言って、一畳分の畳コーナーを作ったのは、柳さんだったはずだけど、今はもっぱら柊さんの専用スペースになっている。

 座って半畳寝て一畳で、今時の日本人は収まるものでもない。

 長身の柊さんが横になれば、普通なら畳から足が出てしまうところであろうが、柊さんは体をちょっと丸めて畳コーナーに収まっている。



 丁度、ボロい灰色の毛布が丸めて捨ててある感じ。それも、そこはかとなく禍々しいの。

 ‥デカいバスマットが正しいかな。


 体に厚みがない柊さんは、何となく全体的に貧相な感じなんだ。

「そう? 」

 楠はそんな柊をやっぱり今日も「不気味だ」と思いながら、だけど顔は変わらず愛想のいい笑顔で答える。



 楠は茶色い痩せた犬みたいな男だ。骨が浮くくらい細くって、背丈だけがひょろりと高い。

笑っていると目を開けていない様に見える程細い目を、楠は意識して開けない様にしている節さえあった。

 まるで獣みたいな、鋭い黄色の瞳。

 その目を見たものは、まるで禍々しいものを見たみたいにあからさまに目を逸らす。

 目を見開いていると「目が怖い」と恐れられ、目を細めていると「目つきが悪い」と絡まれた。

 見なかった振りされるのも、敵意丸出しの目で見られるのも、「私はそんなことしないわ」って憐みの目で見られるのも、全部同じだ。



 自分が異質なものなんだって、念を押される。知らしめされる。



 だから、なるだけ目を開かない‥開いている様に見せない様に心がけてきた。

 そうすると、自然に目を細めて微笑んでいる様な顔になる。

 それが、小器用な愛想のいい笑顔に変わったのもおかしいことでもない。

 「ここ」にいるときは、そんなことを気にする者はいないというのに、楠は今までの習慣からその目を見開くことができないでいる。

 「ここ」に来るまでの生活は思い出したくもない。

 「ここ」は居心地がいい。仲間といると安心できる。こんな生活が出来るなんて今まで思いもしなかった。


 今までの暮らしなんて捨てて惜しいものなんて、何にもない。

 だけど、「捨てなくていい」って柳さんは言うんだ。

‥柳さんは恵まれていたんだな。

そういえば、柳さんは時々実家に帰ったり、「ここ」以外の友人と出かけたりしているのを見たことがある。

まあ、秘密保持契約が守られるならば、個人のプライベートは特に制約はない。

‥でも、外出の際監視がついていることは柳さんは気付いているんだろうか。

 彼以外にそんな「異端児(かわりもの)」はここにはいない。

 皆僕と同様、他に行くところなんてない様な奴らばかりだ。

 柳さんにとって、実家や友人は捨てたくないものなんだろうが、僕は、惜しくない。名前だって、家だって、今までの生活だって、別に惜しいものなんてない。

 名前はここに来た時、変わった。正確には変えられた。

 神社によくある巨木の名前だと思うと、自分が大きくなったみたいでやけに嬉しかった。

 柊・桂・柳・梛木(なぎ)。「表」の方々と同じく植物の名前。ただ、表の方々(表の中でも、所謂本家の人たちだけらしいけど)は花木・草花であるのに対して、裏と呼ばれる僕たちは所謂「樹」の名前だった。



 西遠寺 楠



 これが僕の新しい名前。元の名前なんてもうどうでもいい。

 そして、ここにいるのが僕の、仕事仲間にして唯一の愛しい家族。

 大学生の桂ちゃん。小学生の梛木。年齢不詳の柊さんと柳さん、そして僕。(あ、別に僕が年齢不詳なわけじゃないよ)この五人でチームを組んで仕事している。

(能力者識別プログラム)『Souls gate』プログラミング企画制作部。これが、僕の職場だ。

 事務所兼寮になっているここの名前は『TAKAMAGAHARA』。名前の由来はご存じ(って言う程常識かな? )古事記とかに出て来る神様が住んでいるところ。

 ‥Souls gateが神様の出て来るゲームだから、遊び心って奴なのかな。

「ここ」の仕事は、

 人事部(別名スカウト部)

 システム管理部  『Souls gate』企画制作部

 制作部

 リサーチ部

 などがあるけど、主に「能力者」が働いているのは、先の二部門。

 僕はシステム管理部だけど、人事部とは割と一緒に仕事をすることがある。(というか、仕事の話をするのは、もっぱら責任者の伊吹さんとだけなんだけど。伊吹さんは先の(能力者の働いてる二部門ね)の責任者なんだ。後の二部門の責任者も勿論いるんだけど名前は忘れた)

 何故なら、僕がシステム管理をしている、オンラインゲーム『Souls gate』は、実は、一般人の中にいる『能力者』を発掘する能力者識別プログラムだからだ。

 そうしてスカウトされてきた能力者が仮に働いているのが、人事部。

 人事部は、将来の『裏西遠寺』の』能力者候補なんだ。

 『Souls gate』によって発掘され、人事部によって適正不適正が調査され、適正と認められた『能力者』が人事部にスカウトされ、そこで能力者となるべく研修っていうのかなを受ける。

 適正不適正って言って、‥勿論「社会人としての」適正不適正じゃ、ない。能力者としての、適正不適正だ。だから、‥人事部のメンバーはシステム管理部なんて可愛いって言えるぐらい個性的な面々が揃っている。‥ちょっと関わりあいにくいね。

 まあ、そんな特殊な事情(? )からか、能力者は全員寮にはいって住み込みで働いている。能力者以外の二部門についても、社員寮はあるんだけど、別の寮なんだ。だけど、多分一緒だったらトラブルが絶えないと思うよ。

 共通していえるのは、年齢層が若干若めなことだけど、こういう業界(一応、IT企業!)ならよくある事なんじゃないかな。



 さて、システム管理部にいる僕らが、だけど全員プログラムに明るいわけではない。ここら辺が、普通の「こういう業界」の会社と違うところだろうか。

 僕と柊さんは、企画という形で『Souls gate』制作に協力しているに過ぎなくて、実際プログラミングをしているのは、桂ちゃんと梛木。柳さんは、このチームのリーダーでチームの統括と他のチームや本家との情報交換をしている。

 まあ、なんでも屋さん的な役割なんだけど。実際よくやってくれている。僕だったら絶対出来ない。

 リーダーといっても、年齢や「能力」の多少で選ばれたのではなく、ただの適性の問題だ。

 5人の内、一番最初にこの研究所に来たのは、意外だろうが僕と柊さんだ。

 後からきた柳さんがリーダーってっておかしいかと思うんだけど、でも、実際柳さんたちがここにくるまで、別にリーダーなんていらなかったっていうのが正しいかな? 僕と柊さんと後‥運営の伊吹さん位しかいなかったわけだから。(他にもいたけど、別に会うことはなかったな)

 研究所の立ち上げメンバーって感じかな?

 年齢で言えば、柊さんより(多分)柳さんの方が若干若い(あくまで見た目)。でも、無口でコミュニケーション能力に長けていない柊さんは、リーダーには向いていない。僕もリーダーなんて無理だ。あんな個性的なメンバーまとめられる気がしない。

 企画をしている僕と柊さんだが、プログラミングについてはからっきしだ。

 僕は大学の専攻が情報学部なんだけど、もともと将来「サーチャー」を目指してたから、インターネットで検索したり、プログラムを使いこなすのはお手の物だけど、まさか制作サイドに就職するとは思っていなかった。(プログラム言語の授業なんて、ちっともわからなくてホントに困ったのに‥)

 全く分かんないってわけではないんだけど、専門じゃない。情報学部っていっても、ジャンルは多々ある。そういうのは、当たり前でしょ? (って、劣等生の言い訳かなぁ)

 ‥そういや、柊さんって何学部だったんだろ。そういう話は聞いたことがない。

 それは、まあそれとして。

 僕と柊さん・柳さんがここにいるのは、プログラム制作ではなく、ただ、僕らにしか企画出来ないから、という理由に過ぎないって話。

 能力者の中でも「能力」が高い柊さんと柳さん、そして僕は幹部と呼ばれていて、希望すればいずれは裏最遠寺の能力者として仕事をすることが出来る。

 ただ、それを希望しているのは柳さんだけで、僕と柊さんはそういうのに興味がない。柳さんは今は、出番待ちと能力を見極めるお試し期間としてここにいる。

 そういえば、僕や柊さんは人事部(今の人事部じゃなくて、西遠寺のスカウト部だ。あの頃は、西遠寺の能力者のメンバーが噂なんかを頼りにスカウトしていた)にスカウトされてここに来たけど、柳さんは希望してここに来た所謂『西遠寺信仰組』だったっけ。

 僕なんてここに来るまで西遠寺なんて知りもしなかったぞ。‥今でもあんまり知らないけど。


「楠ぃ~。俺も行く~」

 携帯ゲームをしていた梛木が、データをセーブしながら顔を上げた。

「‥一応年上なんだから、せめて楠さんって言ってよ。え、梛木も行くの? 」

「俺が行った方が都合いいよ。人相悪い大人が二人スマホ片手に街をうろうろしてたら、まるっきり不審者だよ」

 黒っぽいカラーコンタクトが入った大きな目でじっと、見上げて来る。その表情は「ふふん」と効果音が出そうなしたり顔だ。

 ‥そういう梛木だって、その表情・口調どれをとっても「年相応」という言葉はふさわしくない。おおよそ、子供っぽくない。

 外の奴らにとっては、それが余計に気に障ったであろうことが容易に想像できる。‥それが、痛々しい。

 梛木は、すごく頭がいい。勉強が出来る秀才とかそういった意味ではない。IQが高い所謂天才児だ。だから、考えることだって他の者とやっぱり違う。

 小学生にきょとんとした顔で「その考え方はちょっと非効率じゃない‥? 」と首を傾げられると、顔が赤くなる。

 梛木は、大人相手にだって容赦はない。

 論破って言う言葉があるけど、梛木のあれがまさしくそれなんだろうって思う。

 梛木は相手の一歩も二歩も先の答えを見ている。

 いつでも、いつでも。

 梛木の母親はそれに耐えられなくなった。父親は彼を見なくなった。そして、次第に彼らの愛情は彼の二つ下の妹にのみ注がれるようになった。

 そんな彼を『助けた』のは、児童相談所ではなく西遠寺だったってわけだ。

 ここにくる「能力者」は、周りの者から何らかの迫害を受けている未成年者が多いので、西遠寺と児童相談所が連絡を取り合うことも多々あるのだ。

 未成年者側に明らかに問題がある場合。保護者がその養育を放棄するのもやむを得ないと見られる身体的・精神的理由があるとき、‥というのは酷い表現だが、児童相談所から西遠寺に連絡が入る。それは、病気とかそういった問題ではない。

 変ないい方をすると、「神がかった子」「普通じゃない」そういった意味。

 児童相談所じゃ手に負えないし、扱い方が分からない。

 では、扱い方が分かるところに引き取ってもらうのが正しかろう。餅は餅屋だ。

 そうやって児童相談所から相談を受けてここにやって来た梛は、一目で「成程なあ」と思わせるものがあった。

 アンバーの輝きのない瞳は、見るからに普通じゃなかった。

 しかし、無表情で携帯ゲーム機を片手にもった小さな存在は、あまりに儚くって‥、同情したんだと思う

「僕は楠だよ。君は? 」

 と目線を合わせて小さな子供に対する口調で話しかけた僕は、梛の冷笑で撃沈した。

「変な同情するからだよ」

 柳さんが呆れた様な口調で言った。茶色く髪を染めて、ラフなTシャツにジーンズをさらりと着こなす、ちょっとチャラい今時の若者風の柳は、しかし、驚くほど感情を消すのが上手かった。



 何を考えているのか分からない。



 だから、今だって僕に忠告したんだろうけど、別に梛をおもんぱかったわけでもない。(多分)

 変な同情するから、冷笑されたんだよ。

 とその事実確認だけ。

 変な同情をしない方がいい、といっているわけでは、ない。

 ホントに、この人だけは何を考えているのか分からない。ただ、冷めているということだけは、わかる。

 まあ、実は、あんまりしゃべらない柊さんも何を考えているのか分からない。他人からの悪意には敏感な僕も、だけど、悪意以外の感情は、よくわからない。‥他人に関心がないってことかな。それも悲しいな。

 その後、あらためて「普通に」みんなで自己紹介をした。

 桂さんを見たとき、梛の表情が僅かに曇った。お母さんを思い出したのかな。だけど、それは一瞬だったし、それ以降梛が、桂さんを見て表情を変えることはなかった。

 梛曰く

「桂ちゃんは、お母さんとは全然違う」

 かららしい。

 後日偶然聞いた

「でも、女の人をみたら、ちょっと身構えてしまう。‥この人は「どの」タイプかってね‥」

 梛の顔色が一瞬曇った理由‥。

「桂ちゃんには、当たり前だけど母性は感じられないからね。桂ちゃんは、どっちかというと同僚って感じ。俺とは、そういうドライな関係で接するといいのに、やっぱ血が繋がっているとそうはいかないんだろうねえ」

 と、(やっぱり)可愛くないことを言っていた。

「母性の押し付けは、あれは頂けないね。「私はこんなに愛しているのに」で懐かない僕が悪い。だけど、「それでも私はあなたを愛しているのよ」無理してるのが、痛々しくてさ」

 痛々しいのはどっちだよ。‥だけど、梛の辛さは僕にだって少しは分かった。

 ‥家族から割れ物に触るように扱われるのって、キツイ。

 因みに、柳さんは

「柳兄ちゃんは、俺なんか可愛いって言えるくらい、冷めてるね」

 で、僕は

「懲りないお人よし」

 で、柊さんは

「柊兄ちゃんは、優しい」

 ‥まあ、梛の人物評価が正しいかどうかは、分からないわけだし。

 だけど子供は鋭いからなあ‥。

 柊さんが優しい、って、それ納得いかないなあ。

 梛がここの暮らしに慣れるのに時間はかからなかった。自分の中で折り合いをつけたというのが正しい表現なのかな。自分の生きていく場所はこれから、ここって。

 梛は誰かに懐くこともなく、「構ってくれ」的な主張をすることも、「放っておいてくれ」と拗ねることもなかった。

「愛されようと努力しなくても良くなったから、今は楽」

 ほんの何気ない様子で梛が言った言葉は、ちょっと心に刺さった。

この年でこれか‥。

 不憫な感じはしたが、僕は「普通の子供」の扱い方に明るくない。‥正直助かっている。



「何してんのさ。行くよ。ぼ~としてたらボケるよ」

 プログラムによって、「能力者」と認識されたターゲットをスカウトしてくるのは外勤の人事部の仕事なんだけど、『Souls gate』は、只今製作段階。だから、人事部にスカウトを要請する前に、僕らシステム管理部が出向いて、ターゲットを確認する必要がある。

 偶には外に出ないと、息も詰まるし。体もなまるしね。

「はいはい。今日は当たりだといいね」

 楠は、わざと大げさなため息をついた。



 ここの奴らは、優しい言葉なんて掛けてきもしないが、(そと)の奴らみたいに僕を傷つけない。放っておいてくれる。傷をなめあうこともしないが、同じ仲間の存在は、それだけで安心できる。

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