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勇者稼業はブラック企業

作者: 雨空涼夏

勢いで書いたものです。ゲームの主人公とかちゃんと休ませてますか?

家までの道を全力で駆けていく姿が一つ。手にはゲームソフトが入った袋が提げられている。


「やったぞ・・・・・・!エクレアの新作のRPGが手に入った!絶対にあいつらより早くクリアしてやる!」


家に着くとダッシュで部屋に入る。携帯ゲーム機にソフトを差し込んで起動すると、壮大なBGMとともに画面が映し出される。


「すっげえ!高い金出して買ったかいがあったな!」


興奮しながらもボタンを押していると、主人公の設定画面になった。


_____



「ついに仕事するときが来たな・・・」


勇者のオーディションを受け、たった一人しかいなかったので即合格。「君の旅は決して楽ではない、心して頑張ってくれ」という面接官の意味深な言葉と共に僕は一生懸命頑張ってきた。早一年、ついに俺の初仕事だ!

確か最初は名前が決められるんだよな。俺のプレイヤーはどんな名前をつけてくれるんだろう。


_____


「名前何にしよっかなあ。変な名前にしよう!えーっと、『あべたかかず』でいいか」


僕はふと思いついたイイ男の名前を打ち込んだ。


_____


「やめろおおおおおぉぉぉぉ!」


何か嫌な感じがする。今打ち込まれ、目の前に表示されている名前に寒気を感じる。


「俺はこんな名前は嫌だ!今すぐに変えろ!」


だがゲームの中からはプレイヤーに声が届くことはない。為す術もなく決定ボタンが押されてしまった。もっと良い名前があるだろ。クソッ、こんなことなら勇者のオーディションなんて受けなきゃよかった。


「行くのだ、『あべたかかず』よ。世界を救うのだ!」


そんなウインドウが表示されて、俺は始まりの街へと転送された。

俺はまだ知らない。これからが地獄の始まりだと。


俺のプレイヤーは短くない会話イベントをさっさと済ませてくれたので、早速レベル上げへと移行することになった。RPGの基本であり、もっとも大事な行為。経験値と金を稼ぐためには避けて通れない道だ。最初に支給された所持金は500G。これで武器と防具を揃え、宿屋に戻るを繰り返していくのがセオリーだ。

だが俺の体は武器屋でも防具屋でも道具屋でもなく、薄暗い路地の壁へと向かっていく。


「ちょ、痛いって!壁に向けて走らせるんじゃねえ!」


それから、何故か俺は壁に向かって激突を繰り返していた。ゴンッ、ゴンッと鈍い音が響く。痛えなあ。いつまで続くんだろ、これ。


_____


「おっかしいな、確かここら辺に隠し通路があったはずなんだけど、どこだったけなあ」


僕は街の壁をくまなく探す。この街には隠しアイテムがあるのだ。見下ろし型のRPGなので、どこかの壁に通路が隠されているはずなのだ。記憶を頼りに『あべたかかず』を壁にぶつけていく。

_____


「はあっ、はあっ・・・・・・」


何時間経っただろうか。実際は何分も経っていないのかもしれない。全身を壁に打ち付けながら、隠し通路の中で俺は宝箱を開けた。


『やくそうを10個手に入れた!』


メッセージウインドウが表示される。こんな思いしてたったのやくそう10個かよ。確かやくそうは8G。80G得をしたことになる。まあ序盤なら80Gはでかいはずだ。我慢しよう。今度こそ俺の体は武器屋へと向かう。


「ここは武器屋だよ。何の用だい?」


武器屋厳ついおっさんが聞いてくる。武器は沢山の種類がある。ラインナップはこんな感じだ。


こんぼう 80G

どうのつるぎ 100G

しゅりけん 1つ50G

てつのつるぎ 500G

つぼ 200G

きのゆみ 1000G

ゆみや 10こ100G


・・・なんで手裏剣なんて置いてあるんだ。しかも1個とか消耗品の匂いがぷんぷんする。第一壷つぼってなんだよつぼって!叩きつけて割れば良いのかよ!俺のプレイヤーはどうのつるぎとこんぼうを買って武器屋を出た。なんかこのゲームは両手に武器を持つことが出来るらしい。そのために武器を二つ買ったようだ。

なぜ知っているのかというと、こうして移動しながらゲームのヘルプの確認をしているからだ。そのせいかさっきから人とぶつかる。正確には俺ではなくプレイヤーが俺をぶつけているのだけど。ぶつかると町の人が迷惑そうな顔をするからなんか申し訳ない。


防具屋に行くと、今度はいかに商人といった姿の人がいた。


「ここはよろず屋です。何をお求めですか?」


最初の街は品揃えがよくない。そのシステムは健在らしく、これといって強いものはなかった。かわのよろいとかわのこてを買って身につける。残った金は全て薬草に注ぎ込んだ。手持ちの薬草は23個。所持金は2G。あっと言う間に貧乏人だ。ついに街の外へ出る。


「魔物が現れた!」

「は?」


入り口を取り囲むように5体。自分より一回り大きいカエルと黒光りする巨大なGがこちらを見て戦闘態勢に入っている。いきなり戦闘イベントでしょうか。


あべたかかずはどうする?というウインドウと行動手段が表示される。攻撃の横に「めった打ち」というコマンドが見えた。気になる。俺のプレイヤーも気になったらしく、そのコマンドを選択した。


すると俺の体が跳び上がり、どうのつるぎとこんぼうでGをがむしゃらに殴り始めた。計6回殴り、31のダメージを与え、Gは液体を撒き散らしながらつぶれた。キモイ。無駄に表現がしっかりしている。すると体が動かない。何でだ?


「あべたかかずは疲れて次のターン動けない!」

「はあ!?」


文句を言っても届かない。Gの攻撃。全身にたかってきた。


『あべたかかずに6ダメージ!」


俺の精神に2160ダメージ。もう意識が飛びかかっていた。Gの攻撃が終わると次はカエル。近付くと俺をくわえ込んで丸呑みし始めた。カエルの口で粘液まみれになる。


「あべたかかずに9のダメージ!あべたかかずは死んでしまった!」


とっくに意識は飛んで、カエルの感触だけが残っている。目が覚めるとそこは教会。


「おお、勇者よ!死んでしまうとは情けない!」


うるせえ、こっちは死にたくて死んでる訳じゃねえんだよ。悪態を吐くと、体が動き出した。ああ、また始まるのか。再び街の外へ出される。しかしさっきのGどもはいなかった。負けイベントか何かだったのだろう。順調に敵を倒していくが、一つの問題が発生した。


「ああー、やくそううめー。きょうのやくそうは昨日のやくそうよりも活きがいいなー」


かれこれこの世界で1週間。薬草しか食べていない。敵を倒せば金が手に入る。その金で薬草を買い、再び戦う。そして金を手に入れ薬草を買う。宿屋なんて行く必要はないのだ。つまり体力さえ回復していれば宿屋には行かないのだ。


つまり、


宿屋行ってない歴=寝てない時間


と言うわけだ。もちろんまともな飯も食べられるわけがない。既にレベルは14、もうっとっくにダンジョンのボスを倒せるレベルだ。早く行ってくれないだろうか。眠い。でも宿屋に行かないと寝れない。母さん、勇者って、こんなにブラックだったんだね。


それから1時間後、壷でボスを撲殺し、街へ戻った。


「おお、倒してくれたか!よくやってくれたこれは褒美だ」

そう言った王様から手渡されたのは2000Gと上やくそう10個。また薬草ですよ。少しダメージを受けていた俺に、プレイヤーは上やくそうを食べさせた。こ、これは・・・・・・!


「何とも言えない苦味と腹が立つくらいのシャキシャキ感!後に残る妙なすっきりした感じが癖になるそれでいて体力はやくそうより大幅に回復する!素晴らしい!」


やくそうを食い続けたせいで少し頭のネジが外れたみたいだ。次の街へ向かうのか体は既に街の門へ向かっている。イベントでは寝られないみたいだ。勇者のオーディションに誰も来なかった理由がよくわかった。誰もやるわけ無いわ。


「どうか次の街では寝られますように・・・・・・」


勇者の俺は、今日も不眠不休でやくそうを囓りながら魔物を倒す。フカフカのベッドで安眠できる日は来るのだろうか。




読んでいただきありがとうございます。

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[良い点] たまたま目について読んでみたら朝から吹いてしまった(笑) [気になる点] 続きは?!続きはないのか?!(笑) [一言] 着眼点が凄く良かったです!
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