エピローグ
暗黒の中世は幕を閉じ、世界は産業革命により、様々な文明の利器が溢れていた。近代的な街並みが並び、電気や石炭を動力にして動く機械が人々の心を掴んでいた。
そんな新しい時代の中、蒸気機関車に乗って旅をする二人の少女がいた。
「ノエル、町が見えましたよ!」
金髪の少女が窓から顔を出して指をさしてはしゃぐ。
「もう、コーデリアは百年以上経っても子供なんだから……」
銀髪の少女は新聞を読みながら、金髪の少女を窘めた。
「それにしても、すごいですね。蒸気機関車というのは。馬車で移動していた頃よりずっと速いです」
「それはそうでしょう。産業革命なんだから。もう魔女狩りなんて愚かな事は起こらない。これからは科学技術の時代になるのよ」
「以前に比べて生きやすくなるといいのですが……」
「大丈夫でしょう。これから始まる時代はオカルトと真逆の時代だから、私達ヴァンパイアの存在も科学者たちが否定してくれるわ」
「……だといいんですけどね」
『フオォォォ――ン』
機関車の汽笛が鳴る。
『ガタンゴトン、ガタンゴトン、シュッシュッシュッシュ―――』
小刻みなリズムを奏でながら機関車は走っていく。
彼女達ヴァンパイアは生き続ける。なぜなら不死者だから。
宗教が支配する時代も科学が支配する時代も本質は変わらない。一つの固定観念に縛られて、それで計れないモノを否定する。しかし、オカルトとみなされる存在を否定する科学者の存在はヴァンパイアにとってはありがたかった。
「もうすぐ着くわよ。コーデリア。準備なさいな」
「いい町だといいですね!」
窓から顔を離したコーデリアはハイテンションで次の町に夢を膨らませる。
そんな彼女を愛おしく思ったノエルがコーデリアにそっと口付けをした。
「私にとっては、どの町もいい町よ。だって貴女が隣にいるのですもの」
「ノエル。―――私も同じ気持ちですよ」
コーデリアはノエルの横に座りなおし、その手をギュっと握った。
互いに見つめなおす。
何百年経っても、二人の想いが変わることはない。
太陽が輝き続けるように。
海が干上がる事が無いように。
二人は新聞で顔を隠して、もう一度唇を重ねた。