君の為にと願いて求めて
「おはようございます、少しは具合よくなりました?
頭には濡れタオルが、いつのまにか寝ていた空人の横には結愛がベッドに寄り掛かるように座っている。
「結愛さん徹夜で?」
「結構、うなされてましたよ。大丈夫ですか?やっぱり病院に行きましょうか」
「……いや、大丈夫」
体の痛みが引いている。
「また、強がりじゃないでしょうね」
「……」
「やっぱり、」
「いや、そうじゃなくて、大丈夫じゃないって嘘をつけばよかったなって」
「嘘つくの、嫌いでしょうし、急に弱気になって、やっぱり具合が」
「だってそうすれば結愛さん、仕事や休んでくれて、俺も学校サボって、一緒にいられるかなって」
真顔で、素直な自分の気持ちを口にすると、結愛は空人のおでこに手を当てる
「熱は、ない気がしますね」
「本気だから、もういちいち隠すようなことはないかなって、ねぇ結愛さん、今日は仕事をさぼって一緒に俺とデートしましょう、今度こそ惚れさせて見せますから」
「私は、責任感の強い空人さんが好きなんです。学生の本分は学業。それをさぼるような空人さんは嫌いです」
「よし、それじゃ、今日も学校行きますか」
「はい、それでこそです。私も居眠りしないように気を付けないと」
「すみま、ありがとうございます。おかげで元気100倍です」
「いいえ、どういたしまして」
「朝、コーヒー濃いめで」
「えぇ、お願いします。あ、」
「ミルクもたっぷり、目玉焼きは半熟ケチャップで、ですね」
「はい、お願いします」
結愛は目を覚ますためにもシャワーを浴びる間に、空人は朝食の準備をする。
真剣な表情で、火加減を調整しながら、目玉焼きと睨めっこしている。
「信じられませんね、一日で魂が元に戻っている」
「おはよう」
「……おはようございます」
空人が時間の無駄と称する挨拶をしてくるなんて、セフィラは驚き反応が遅れる。
「今日はシエルさんは一緒じゃないのか?」
「二日酔いです」
「酒飲むなよ。いいのかよ」
「お酒は神聖なものとして用意られることがあります、むしろ禁忌は肉の方ですかね」
「セフィラ、置いてかないでよ、あー、もー超ー頭痛い、飛んでたら余計くらくらくる」「休んでていいですよと申し上げたはずです」
「そういうわけにはいかないでしょ、私だって空人さんの事は心配してるんだから、」
「おはようございます、心配の割には、昨夜はずいぶんとお楽しみだったようですね」
「……お、おはようございます。……どうかしたの?」
セフィラとまったく同じ反応をし、小声でセフィラに状況の確認をする。
「また、最初と同じで病気で距離が縮まりましたか?」
「改めてフラれた。かな、どうしても男の人を恋愛対象には見れないって」
「話したんですか!彼女に彼女の性癖の事」
「あぁ、ついな」
「ついって、よかったんですか?」
「どうだろうな、ただ、今まで以上に吹っ切れたところはある、よっし完成」
空人は火を止め皿に移すと、目玉焼きにケチャップでハートを書く、
「空人様、さすがにこれはドン引きですよ」
「いいんだよ、今日だけはな」
「あーも-ほんと頭痛い、あ、そうだ確か結愛さんのカクテルが冷蔵庫に、もうこの際あれで迎え酒を」
シエルが冷蔵庫に近づこうとすると、シエルの前髪が揺れる距離に包丁が通過する。
「結愛さんの物を盗んでみろ、殺すぞ」
「ちょっと!マジで危ないでしょ。死にはしないけど、今はお酒飲むために実体化してるんだから、怪我したらどうするの」
「盗人猛々しい」
「やりすぎだって言ってるの!口で言えばわかるんだから!」
「いいじゃないか、直撃しない自信はあった。ほら」
そういってシエルに椀を差し出す。
「な、なによ、味噌汁?」
「二日酔いに効く、らしい。昔母親が父親に言っていた記憶がある」
「迷信でしょ」
「二日酔いの原因は、アルコールの過度の摂取により肝臓の解毒機能が追いついていないことに起因する。アルコールの分解が終わらず、血中に人体に有害なアセトアルデヒドが存在することによって引き起こされ、改善のためには血中のアセトアルデヒドを除去することによって改善される。その為の肝機能を高める方法として、豆腐や味噌に含まれる良質なたんぱく質や塩分の摂取を行う事も一つの手だ。そのほかにもレバーやシジミ、豚肉なども、」
「分かりました、分かりましたから、」
「もっとも、キューピッドに聞くかは知らんがな」
「……いただきます」
シエルは空人から椀を受け取ると、箸を使わずそのまま音を立てて流し込む、セフィラはその品のない食べ方に思わずため息をこぼし、空人はそんな結愛を無視し、真剣な表情度、今度は結愛に適量なご飯を装い、形を整える。
「……おいしい」
「当たり前だ、俺が作っているんだ、いりこも頭と内臓を取り除いている」
「違うそうじゃないんです。この料理、温かい」
「お前は馬鹿か」
「空人さん!やればできるじゃないですか、こうですよ、料理に愛情を込めるって」
「お、おう」
「空人さん、何があったか、説明を求めます」
廊下から足音が聞こえてくる。
「わかった、でもそれは、」
「すみません。今上がりました。あ、もうできてるんですね」
「通学路で話すよ、今は邪魔してくれるな」
空人は料理を乗せたトレーを両手に持ち笑う。
こんなに幸せそうに、これこそがセフィラのみたかったもの、
未来の空人は結局最後まで見せなかった表情だ。
これが人間としての風上空人の幸せだ。
二人が食事をする中、セフィラとシエルはそっと出ていく、
「シエル様、私、この時代に来られてよかったと思います」
「そうだね。たとえもうすぐ消えることになっても、後悔はしないかも」
「消えたりしません。悲劇の未来は拒絶します。私はこの時代で生きていたい。
悲劇も不条理な絶望も含め、数多の感情に満たされる。私はこの世界が好きです。
私、空人様に賭けてみようと思います」
「賭ける?」
「もういろいろアドバイスをするのはやめにします。空人様の思うが儘、今の空人様であれば希望があります」
「確かに、そうしたいのはやまやまだけど、」
シエルは空を見上げる。
「世界樹は消えてはいない、それどころか、だんだんと鮮明になってきている、未来よりもずっと早く、確実に」
「今の空人様から未来の空人様を想像できますか?」
「それは、」
「もし、結愛様とうまくいかなかったとして、空人様はあぁ、なりますか?誰とも分かり合おうとせず、すべて超えて人を超えて、世界を、星を救おうなどと、永遠の静寂を求めようなどと」
「でも、それは今の空人さんじゃないし、」
「ですがその根底にあるのは空人様です。少なからずその意思に同調した。違いますか」
「もう一度、考えてみましょう。空人様があぁなった理由が本当に孤独の絶望からくるものなのか」




