バットステータス2
「というか空人様、なぜそのような事ができると私たちに報告していないですか」
「意図的にできているわけじゃないし、お前たちが来て以降初めてだ」
「その魂の傷つき様、あなたが未来に干渉したことは認めましょう。で、どうでした、未来のあなたは?」
「内側から見るのと外側から見るのは少し違うな、あれは本当に俺か?」
「前にも話しましたようにあなたであってあなたではない」
「ただ、」
「ただ?」
「最後に守れと言われた。あれは俺の言葉だったような」
「守れ?何をですか?未来のあなたは自分ですべてを捨てた人ですよ。地球をですか?」
「あ、空人さんこんなところで!」
駐車場で、話している二人のもとに結愛とシエルがやってくる。
シエルは怪しい動きで、結愛を操っているようなジェスチャーをしているがあの動き自体には意味があるとは思えない。
「トイレじゃなかったんですきゃ!」
非常ドアを出て、空人に詰め寄ろうととした瞬間、一段高いコンクリートの段の上にいる結愛はシエルに思いっきり押され、結愛は抱き付くように空人に倒れ掛かる。
空人は危ないと本能的に彼女を支えようとするが、体のめまいと痛みで、支えることができず、彼女を受け止め、そのまま彼女の体を抱いて座り込んだ。
空人は何をすると二人を睨みつける。が、同時に体に触れた、結愛の女性特有の柔らかな肉体の感触に半分以上意識を奪われる、そしてこの距離、結愛の髪からはシャンプーのいい匂いがしてさらに10%近い意識を持っていかれ、彼女の吐息に残りも持っていかれる。
「どうですか?少しはめまいは収まりましたか?まぁ、もう少しで収まるでしょう」
「効果てきめんぴしゃりと魂は元の場所に、」
「何をした?という顔ですね。声が出せないでしょうから、質問は割愛させていただきます。浮ついた魂を肉体に戻す方法、それは魂に肉体を渇望させればいい。肉体に固執する事、つまりは、今私の話半分で空人様が全神経を注いでおられるそれです。
空人様、この手の物は、慣れていないせいか隠しきれていません」
空人は結愛を立たせ、気遣う言葉をかけ結愛から離れる。確かにめまいは収まってきている。視界も感覚が歪んでいない。
「まぁ、これでダメならかなり厳しいところはあったんですが、より強い、肉体への固執を呼び起こそうにも、彼女を利用して肉欲を揺るがそうにも方法がありませんので、」
「私の惚れ薬、効きませんから、それこそ妹ちゃんの身が危ない」
「やるならやると言え、危ないだろ、あと俺を何だと思っている」
空人は結愛に聞こえないように小さな声で抗議する。
「言ったらドッキリにならないでしょう。驚きも重要なファクターです。それに偉そうなことを言うのはご自分の体の変化を自制できてからおっしゃってください」
「私今初めて空人さんがノーマルな人だと理解しましたよ。そうですよね。年頃で、そういう経験ないですもんね。そりゃそうなりますよね。お姉さん安心しました」
「もう体としては成人ですよ。この程度でこの反応はまずいでしょう」
「そこはほら純なんで、私はそれでいいと思いますよ。そのうち慣れてきますし、そういうドキドキも必要です。あぁ、いいですね、なんだか私仕事をしている気が」
「お前ら、」
「魂が定位置に戻れば、魂の損傷は時間経過でなんとかなるでしょう。本来、生者の魂と肉体は不可分。元の位置に戻れば自己治癒が働きます。元々空人様の魂は常人とは桁違いの頑丈さを持っています。食べて寝てればたぶん自然に治ります」
「心が傷ついたりしても、泣いて、食べて、遊んで、寝て、要はそれと同じで治ります」
「それまで痛みは我慢してください。まじめな話、そんな感じで治りますので、結愛さんに慰めてもらえば治りが早くなりますよ。痛いよ痛いよ、いい子いいこしてと」
「お前、時々本気で性格悪いな、俺を何だと思っている変態じゃねぇぞ」
「本質的にはそんなものです。言い方が違うだけ。これ空人様がいつも言っていらっしゃるセリフです。今回はわたくしも少々頭に来ていますので、引用させてもらいました」
「……言葉って大事だな」
「そう思えるのもまた成長、それでは私共はこの辺で、また明日のお昼ごろにでも」
「え、行くの?」
「空人様の事です。私たちが見ていては余計に甘えにくいのでしょう。ですから、これは気遣いです。一日も早い回復をお祈りしております」
そういって飛んでいく、セフィラのポケットの裾から、一昨日繁華街でで配っていた、地鶏を使った料理を売りにした居酒屋のオープンチラシが、
あいつも俗っぽくなったなと空人は飛んでいく二人を見送る。
「どうしたんです。空を見て」
「いいや、別に、今日は月が出ているなって」
「そういえば、先月の今頃、お月見しましたね」
「……もう少し寒くなったら、もっと空気が澄んで星が見えるようになるから、その時は天体観測でもしようか、カップ麺とガスバーナーもって」
「いいですね。その時は宇美ちゃんも誘って3人で行きましょう」
「そう、だね」
たぶん今回、他意はないが、宇美の女子校の文化祭明けで遊びに来た直後、常に宇美の話をされて慣れていたつもりだが、どうやらまだ完全に克服していないらしい。
宇美のおまけに自分、そんなイメージに打ちのめされる。




