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悪夢

その日の放課後、皆部活や帰宅する中、空人は一人教室で生徒会の返答を待って行った。

できれば早く許可をもらって、製麺所に決定したことを伝えたい。それが無理を言って安くしてもらったせめてもの礼儀だ。通常の仕事に負担をかけるわけにはいかない。

できるだけ前もって伝えるべきだ。

だが、生徒会からの呼び出しはなく、空人はうとうとと、眠りに落ちる。

空人が次にはっきり意識したのは白黒の世界、久しぶりに見る夢、未来の景色。

「ここは世界樹の上、やっとか、でもいきなりだな」

世界樹の上、相も変わらず世界を見下ろしている。シエルたちが現れる前によく見ていた夢。未来の自分が見た風景。だが、二人に出会ってからは見ることが少なくなっていった。

これはこの機会は千載一遇。この時を待っていた。

空人としては未来を知った以上同じ道をたどるつもりはない、にも関わらず未来は変わっていない。未来を知った今ならこの世界で得られる情報をあるはずだ。

空人は体の自由の利かない夢の世界で、無理やり動こうとする、動け、金縛りから解く要領で、脳は覚醒しているが、体が眠ったまま、その体を無理やり動かすように、

意識をはっきりと持て、これは俺の体、俺の意志で自由にできないわけがない。

「動け!!」

心で、体を意識し、無理やり引きちぎるように、狂気にも近しい強い意志で念じる。

常軌を逸したその強い意志が一方的な未来と過去の因果を反転させた。

一瞬の閃光の後、今まで以上に何かに包まれているような不思議な感覚、ノイズ交じりの白黒の世界、だが、ここはさっきの世界樹の上、そして目の前にいるのは

『ダ、レダ……マエハ』

目の前にいるおっさんが自分だ、容姿から察することは難しいが、そうだと決めつける。

「俺はお前だ、過去のお前、風上空人だ。時間がないような気がする

端的聞く、どうして俺はお前のようになった」

『……ニヲ……ンダ』

「何を言っている。断片的で聞こえない、読唇術は持ち合わせていない。と俺に説明しても意味はないか。いいか、俺はこの未来を変えるつもりだ。俺には助けたい人がいる。

好きな人もいる、その人たちのためにもこの未来を否定する。その為の情報をよこせ」

一方的な要求、目の前にいる未来の空人は手を構えると世界樹の葉が舞い、剣を形成する。

それは自分が昔ノートに書いた会心の出来の無駄な装飾品だらけのドラゴンを模したゲーム中に出てきた最強の刀の想像図。やはりこいつが自分で間違いない。

『ハイジョ……チツジョヲ……』

「言葉は通じず、なるほどイカれているとは聞いていたが、こういうイカレ方ね。

確かに、自ら人の知性を拒否するなど俺ではないな。とはいえ言葉は理解できているようだな、刀を収めろ、いいか、俺がお前を殺しても、未来は変わらない。だから俺はお前と戦う理由はない。逆にお前は俺を殺せば、過去の自分を殺すこと、そうなればお前はいなくなる。お前が俺を殺せない理由は十分だ。何なら試してみるか?」

空人は余裕を見せて目の前の自分に近寄り、刀の刃先を自分自身の喉元に突き立てる。

「やってみろよ!あ!無価値な俺が消えるだけで世界は平和だ!やれよ、さぁ!」

嘘ではない、これは間違いなく過去の自分だ。そう悟ったのか、剣を葉っぱに戻す。

その瞬間を待っていたのか、空人は気に入らないという理由でもう一人の自分に拳を叩き込もうとする。が、あっさりとかわされ、逆にボディーに一撃を食らう。

すさまじい痛みが体を襲い、体が宙に浮く、それだけではない。下半身が、いや胸から下がほとんどなくなっている。ただの予備動作のない打撃で、車にはねられる以上の威力。

「マジかよ」

遥上まで吹き飛ばされ、打撃が位置エネルギーに変換を終えると、そのまま重力に引っ張られ、落ちていく。その際も空人は消えゆく一瞬たりとも未来の自分から目を離さない。

『シンパイスルナ、タダノイシキタイ、シニハシナイ。イマハタダマテ、ウツワヨ、』

器、つまりはあれは自分じゃない。

「ざけんなよ。俺はシエルさん、結愛のためのにも世界を滅ぼしてたまるかよ!」

基太一からもさらに落下していく、その様子を世界樹の隙間からもう一人の自分が落ちていく様を見下す。そして視線を自分から外し、枝陰に消えようとするとき、未来の自分は固まり、何かを呟いた。言葉は聞こえない。

唇からも読み取れない。だが、脳内で直感的に感じた。

『マ、モ、レ』

空人はそのまま落下し、地面に落下し痛みではない、脳に直接響くような衝撃を受けた

「っ!!はぁはぁはぁ、っ痛、マジかよ」


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