ボーイミーツガール9
「ちょっとセフィラどういうつもり?それに何にその姿、漫画のキャラじゃない」
駅前の繁華街のビルの上、雨が強くなる中、雨を透過させながら駅前を見下ろしている。
強い雨と、街頭の明るさで、このビルの上は誰も見ることができない。
「こちらの方が効果的かと思いまして、さて、たぶんそろそろ来ますよ」
セフィラが駅を指さすと、妹の傘を手に持ち、自分は風速40mにも耐えられる傘を差し、空人が現れ、周りを睨みつけるようにあたりをキョロキョロ見回し、死角をつぶすように走り回ると駅員に何かを訪ね、別に場所に走り去っていく。
「空人様が出ていく前のシエラ様の言葉、空人様の心には確かに届いていました。
だから本当に頭を冷やして反省したつもりでした。でも例にもよってあの天邪鬼戻ってきての結愛さんの同情を引く境遇、空人様のことです。かわいそうというよりも、そんな境遇になっている彼女の不幸が許せず、行き場のない怒りがあったことでしょう。
そこで止めのお父様との会話です。わかっていても止められない。
自分の心と自分の言動、そこに差が生じます。そこでの結愛さんの空人様を思っての言葉、冷静のつもりなのにそうではなかった、それを一番分かっているのは空人さん自身です」
「それで何、いまさら心配になって探しに来たと、ずいぶんと余裕のない顔、」
「この雨です。かわいそうな彼女は雨に濡れて震えているんじゃないか。そう考えると我慢の限界だったんでしょう。挑発は彼を焚き付けるため、ここで見捨てるような男かと、」
「心配なら最初からそう言えばいいのに、本当に、」
「でも、それしか選べないんですよ、シエル様は言われました。空人さんは人に好かれることに慣れていないのではないかと、おそらくそれは当たっています。
恨まれて当然、自分は嫌われ者だ。だから自分には関わるな。
これは一種の賭けです。空人様の薬の効果はいつキレてもおかしくない状況、これがラストになる可能性があるだからこそ、恋人に慣れないとしても空人様自身で誰かを求めてほしい、自分を頼りにしろと、自分の意志で、まずはそこからです。
彼女であれば心から空人さんに感謝の言葉を言ってくれる可能性が高い、それは打算的でも何もない純粋な感謝。私はその言葉に賭けようと思います」
「でも、彼女はここにはいないよね」
「見つけられればそれもよし、そうでなければ私たちの出番です」
それからどれだけの時間がたっただろう町の電気は消え始め、雨足も強くなり、空人は傘をさしていてもずぶぬれ、傘をさすことを止め、必死になって彼女を探す。
こんなに探しているのに、彼女は見つからない、
どこかで悪い男にでも捕まっていないか、どこかで一人震えていないか、
空人は頭の中で不安の要素が広がっていく。自分のせいで、彼女は、
どうして俺は、こういう言い方しかできなかった。後悔が空人を押し潰しそうになる。
こんな感情を今までに感じたことはない、こんなに必死に、こんなに余裕なく、
「セフィラ、」
「まだです。まだ、早い。まだ空人さんの心は折れてはいません」
空人が自分たちを頼れば、空人は恩義に感じる、今よりずっと御しやすくなる。
「でも、こんなのよくないよ、」
シエルはセフィラの制止を振り切り、空人の前に現れる。
「なんの、用事だ?もう現れないんじゃなかったのか?」
「それは、セフィラがそういったんです。私じゃない。心配ですか結愛さんの事」
「……」
セフィラを無視し、空人は彼女を探すために歩き出す。だがすでに考え付く可能性はない。
「それは義務感からですか、自分が言ってしまったことへの後悔からですか」
「……」
「答えてください」
「……彼女の格好、きっと行く当てなんてない、たぶんお金も泊まる場所もない。最初は彼女が路頭に迷うのが気に入らないとかそういう事を考えていた。
自分のせいでここに引き寄せられて、それでこんな目にって、俺には彼女を連れ戻す責任があるって、でも今はそんなことはどうでもいい。無事でいてくれれば、それでいい。
なぁ、シエル、君は神様なんだろ、だったら彼女がどこにいるか教えてくれ、」
「だったら頭一つくらい下げたらどうですか?」
「セフィラ!」
「自分が悪かった、力を貸してくださいと」
「それでいいのか?」
「えぇ」
「セフィラ!何を言っているの!」
「いい、それくらい」
空人は地面に足をつけ、セフィラに頭を下げる。
「今まで申し訳ありませんでした。謝ってすむ事じゃないとはわかっています。でも今は俺、僕に力を貸してください。彼女を助けたいんです。その為ならなんだっ」
セフィラは容赦なく空人の頭を踏む。
「セフィラ!いい加減にしなさい!」
「おやおや、いいところじゃないですか、どうしました、シエル様、こんな機会滅多にありませんよ。彼は人類の敵、ここでこうして屈辱を味あわせることが、あなたにとっても死んでいった仲間たちの供養になるとは思いませんか?」
「セフィラ、今すぐ足をどけなさい!」
シエルは弓矢を顕現させ、セフィラに向ける。
「いい、シエルさん、それより彼女を、」
「おやおや抵抗しないのですか!」
「抵抗する?どうして?こんなことで彼女を助けられるんだろ、」
「プライドはどうしたんですか」
「悪いが、少しも傷ついていないな、これで女の子がこの雨の中、濡れて不安な夜を過ごさ中くて済むんだ、俺ってかっこいいだろ」
そういって空人は禍々しく笑う。
「ふぅ、どうやらここまでのようですね。空人様、今まであなたを試させていただいておりました、申し訳ありません。ですが、やっと素直な自分になれたじゃないですか。
あなたの彼女を思う気持ちは本物、あなたの心からの願い、おめでとうございまっ」
空人に手を差し出すセフィラに空人はグーで鉄拳を加える