ボーイミーツガール7
「相続放棄は?」
「はい?」
「ですから相続放棄手続きはしたんですか?」
「相続放棄?って何ですか?」
「借金も含め、親の名義で行われたものはすべて遺産となります。両親が死んだ場合相続放棄を行えば、子であるものにその財産も受け継ぐ事はできませんが借金も返済する義務はなくなります。その感じからいくと財産はなさそうですからちゃんと相続放棄手続きはされたんですか」
今言う論点はそこじゃないでしょ。この思考回路にシエルは飽きれるように呟く。
「あ、えっと、もろもろの手続きは、病院の紹介で市役所に相談に行ったときにお葬式のやり方から何から市民課と国保医療課の方々が色々よくしてくれまして、よくわかりませんけど、借金は気にしなくていいと言われまして、ですがこれ以上市役所の方にご迷惑をかけるわけにもいかず、」
「それは迷惑ではなくその人たちも仕事です」
「そう、ですね、すみません」
「……とりあえず、あなたの身元の真偽が本当かどうか確かめるためにもまずは、両親に確認をとってみます。少し待ってもらっていいですか」
空人は彼女の目の前で大きくため息をつく、別にそれは悪意があったわけではない、配慮がないだけの事、空人は新聞会社に連絡を取り、急ぎで両親に連絡を取りたいと高圧的かつ、年齢差を考慮しない相手を馬鹿にしたような理屈を並べる態度で臨み、恫喝に成功し、いったん電話を切り、30分後、空人の家の電話が鳴る。
電話に出た父親は無邪気に空人が電話したことを喜び、元気かどうかを繰り返し聞くため、だんだんとイライラし始め、本題に移るころには明らかに不機嫌な態度になっていた。
空人は要点を並べ、事実と対応を確認したいのだが、そんなことなど少しも気に留めず、結愛の父親が亡くなったことに対する感傷と結愛がどういう子かを訪ね話が遅々として進まない、あげく、空人の話をロクに聞いていないのか、困っているなら助けてあげてくれ、とりあえずなんとかなるだろうと楽観的に彼女を受け入れる。
「いいか、そんな大切な事を軽く考えるな、いいか、人ひとりを預かるのに、そんなんでどうする!可哀想だとか一時的な感情だけでで物を言うな、いつも家にいない、何の責任もモテないくせに、あんたはいつだってそうだ!軽く引き受けていつも誰が後処理をしていると思ってんだ!宇美の高校入試試験の時も、」
空人にスイッチが入ると、結愛は勝手に家に上がり、電話を切る
「何を!」
感情そのままに彼女の行動に起ころうとする空人であったが、うつむき表情こそ見えないが震えるその手が、彼女の恐怖心を現し、それ以上の言葉を遮った。
「もう、いいです、すみません」
「もういいって、良くない、」
「すみません、私が突然来たせいで、こんなことに、私は大丈夫です。もう大人ですし、一人で何とかします。実は他にも当てがあるんです。だからやっぱりいいです」
「嘘ですね。俺に通じると思ってるんですか、兎に角もう少し待っていてください。いいですか、あなたをここに置くことを抗議している訳ではなく俺の父親のいい加減さに腹が立っているだけです」
「あの、よくないです。自分のお父さんのことを父親だなんて、それに言葉遣いも、ご両親とは仲良くされてください」
「無理です。俺はあれと母親には敬意なんてありません。好き勝手にやって、いつも自分の都合のいいことばかり、俺は別にいい、元々あれらには何も期待なんかしていない。でも俺の妹はいつも約束を破られた、あいつらのいい加減さのせいで、何度も。
あなたのことに関してもです。責任と覚悟を持て、自分が友人と約束したのならそれを果たせと、約束ひとつ守る気もない、戸籍上は父親ですが、あなたの言うのは一般的な尊敬や敬意、悪いですが俺は一切持ち合わせていません」
「そういう言い方しないでください。そう、怒らないで、」
「俺は怒ってはいません」
「怒ってますよ。空人さんのお父さん、素敵な人ですよ。写真を見てればわかります。
自慢のお父さんです。お母さんだってそうです。心に訴えかける文章。
ちゃんと見たことありますかご両親のされていること」
「別に興味はありません」
「あれ、きっと空人さんに向けられたメッセージですよ。いつだって子供たちにより良い世界を作るために、危険な場所にも行って、普通は報じられない本当のことを伝えようとしておられます。だから私のお父さんは、空人さんのご両親を尊敬できる人だって、
後でちゃんと電話かけてください、言い過ぎたって、だめですよ。空人さん、そんなにカリカリしてちゃ、眉間のしわ取れなくなりますよ」
「余計なお世話です。俺はこれが普通なんです」
「ふふ、そうですか、あの、水筒にお水だけもらっても」




