ボーイミーツガール6
「玄関も空いてるし、家の電気もつけっぱなし、風上さーん、いらっしゃいませんか?」
シエルがそっと扉を開け玄関を覗くと年は空人と同じくらいか、大きな登山用のバックパックを背負った髪の乱れた女性が家の中を見回し、何度も風上の名を叫ぶ。
「留守、なのかな、でも電気ついてるし、少し待ってみようかな、行くところ他にないし、でもどうしよう、今日戻ってこなかったら、もうお金もほとんどないし、最悪今日も公園かな、でも、駅のロータリーの方が綺麗だったし、」
彼女はそっとドアを閉めると玄関の前に座り、バックパックを下すとそれに抱き付くような格好で足の疲れを取る。
家の前を通りかかかった人は突然彼女から挨拶されると、驚きながら怪訝な表情で彼女を見つめ、挨拶を返し、そそくさとその場を離れる。
「どちら様でしょうか?」
「さぁ、浮浪者、にしては若いし、ぽくないし、家出にしてはしっかりとした荷物ね」
「いやいや、空人様の苗字を呼んでいた時点でお知り合いでしょう。ただ関係図にはいらっしゃいませんでしたので空人様のお知り合いではないでしょう。ご両親か、妹君か、」
「もしかして彼女のも薬のせいで?」
「可能性はありますね、というより、連絡もなしにですから、かなり、」
「だとしたらまずいじゃん、今最高に機嫌悪いのに薬の効果で来たってなると火に油を注ぐだけ、どうしよう」
「どうしようと言われましても、ですが、空人様は今出られたばかり、空人様の散歩はいつも、色々考え事をされて長いですから、それまでには諦められるでしょう」
「そうよね、そうだよね」
そして1時間40分後
「あの、すみません。あの、」
「ん!?あ、あぁ、私寝てました。ごめんなさいつい。えっと、」
彼女は空人に起こされると、空人の顔を見つめる、一方空人はカーテンの隙間からどうしようと青ざめた顔で様子をうかがうシエルを見つめ、この状況の原因がシエルに向けてため息をつき、仕方なしに彼女に視線を戻す。
「あの、すみません。風上さん宅はこちらでよろしかったでしょうか」
「そこに書いてあるでしょ、うちの家に何か用事ですか?用事がないならどいていただきたいんですけど」
空人はいつもの様にそっけない態度で彼女に接する。
「あぁ、これそうですか、ここに名前が書いてあるんですね。あぁ、すみません、見落としてました。でもよかったじゃあ、合ってたんだ。いやー地図を読むのは得意なんですけど、初めての場所で、同じような家ばっかりだとどうしても不安で、」
「そんなことはどうでもいいです聞いていません、それより、うちに何か用ですか」
「……」
「なんですか、用があるなら早く言っていただきたいんですけど。見るからに不審者風な人が家の前にじっといられると迷惑なんで」
「不審者?私がですか?そうですかね、私なりにちゃんとした格好してるつもりですよ。それに服も3日くらい前に洗いましたし、髪も今日の朝公園で洗いました、お風呂だって一昨日入ってますし、あ、それとも、」
「身体の衛生上の問題の話をしているんじゃありません。それよりも、あなたが誰で、何の用事かそれを話してほしいと言っているんです」
「あぁ、そうなんですか、すみません。えっと私は桜坂結愛といいます。今年20になります。桜坂明彦ってご存じありません」
「存じません。というより、」
この人が二十歳?絶対年下だと思ったのに、
「何でしょうか」
「いえ、何でもありません。続けてください」
「はい、えっとお父さんの桜坂明彦は、フリーライターをしていました」
「フリーライター、ということは父親か母親の知り合いですか?残念ですけど今は二人とも迂闊な行動が原因で、海外で捕まり、拘留されています。帰国は未定です」
「え!そうなんですか!あ、私、余計なことを聞いちゃいましたか!すみません、心配ですよね。ごめんなさい」
「いえ、別に、自業自得ですから、それより、あなたは何の用でここに来たのかを」。
「あ、えっと、そんな大変な時に、こういうのもすごくはばかられるので、」
「いいですから、言ってください」
「はぁ、えっと、実は2年前から父が病気で入院していたんですが、先日亡くなりまして、
父は天涯孤独で、離婚した母もどこにいるか行方知れず。父は生前、何かあった時は風上心さんを訪ねる様にと言われていまして。それで、ですね、本当はそんなつもりはなかったのですが、父が死んで、入院中の治療費とか、葬式費用、それらの借金で家や家財道具が全部なくなりまして、大変申し訳ないのですか、風上心さんに仕事が決まる間だけでもお世話になれないかと思ってここまで来たのですか」




