挑発6
「普通どんなに長く生きても、1枚。最低限の事が記載されている者でこれよ」
「えー、風上空人。取扱難易度:不可(要危険物取扱免許。第一種対精神攻撃耐性)、
ワンポイント、関わり合いにならないようにしましょう」
今度は仁と長治が必死に笑いをこらえる。よくわかっているまさにその通りと、
「概要、親密になる事は放棄し、自らの身を守る事を最優先に考えましょう。
良くも悪くも、彼は他の人と見えている世界も、思考回路も異なります。
またどうしても付き合いを持つ場合、以下の点を忘れないようにしましょう。
特記事項1、彼は時間の奴隷です。時間だけは厳守しましょう。
無人島で、一人で生きていたとしても毎日定時に起き、決まったルールで行動しますその秩序が揺らぐことはありません。
彼の行動単位は秒で構成され、1秒でも遅刻とみなされます。
そもそも他人に合わせることの少ない彼と約束をすることは難しいですが、約束ができるということは信頼の証、厳守しましょう。
同一惑星上で、恒河沙が一、彼が約束の時間に現れない場合、まずは時計の故障、磁場や重力の異常を疑いましょう。3つ以上の検証方法でそれが正しいと判断された場合、次に彼の死亡を疑いましょう。生きている限りどんな重症でも、物理的に移動が可能であれば、約束した以上彼は時間通りに現れます。それもない場合は、遅刻ということになります。
特記事項2、特別というものが存在しません
世界中のすべてが自分も含め等価値であり無価値でありかけがえない命と考えています
心の救いを求めることもなければ、他社の思想を理解こそすれ共感することはありません。
利害関係こそが最もシンプルかつ合理的な関係性だと理解しています。
同時に彼の心に響く言葉は彼納得のいく理屈を備えたものであり、感情論はあくまでそういう思想があるという事に留められ、どんな言葉でも彼の心を揺らすことはできません。
特別な存在になりたいのであれば、まずは自分の有能さを示すことが有効です。
その為にはまずは彼の不得手な分野のほうがより簡単に、証明できます。
数値化できる指標を示し、積極的に自己をアピールしましょう」
「企業の面接のアドバイスかこれは」
「えー少し飛ばしまして、特記事項13、1か0だけで構成された世界です。
曖昧は存在しないものと考えてください。どんな複雑に見える問題も、感情論を排除し、各段階で物事を分化して考える彼にとって物事は1か0しか存在しません。曖昧な回答は嫌われ、責任の放棄とみなされ、彼の都合のよいように解釈されます。また信じると事は体のいい責任放棄とみなされます。分からない、迷っている場合でも、曖昧な回答は避けましょう。往々にして自分の望まない結果をもたらすことになります。
特記事項44、一人で完成された世界です。孤独を寂しいとも考えることもありません。
自分の時間を他人のために使うことほど無駄なことはないと考えています。
自分以外の人間には興味がないため、何を言っても傷つくことはありません。
特記事項55、法は守りましょう。
自分の正義が最優先事項であり、犯罪に手を染めるという事もそれに反します。
故に反社会的な言動こそ見られても、犯罪に手を染める事はありません。
ただし、それは反社会的行動を取る者の排除に関しては通用しません。
違法行為を行った場合は身内であろうが容赦はありません。彼に犯罪を目撃された場合速やかに法の裁きを受けましょう、それが自らの身を守ることにつながります。
などなど、最低限注意すべきことだけで、100を超えています」
「これは想像以上に引くな」
「もう手遅れのようじゃな」
「お前どれだけ面倒くさいんだよ。というかお前、取扱難易度不可ってなんだよ。
最強のメンヘラとかか、犯罪者クラスじゃねぇのか」
仁はゴミを見るような眼で、いや憐れむかの如く、空人をののしる