挑発2
「で、これがあるからなんだっていうんだ?」
夢で見た木。間違いない。
「全ての命を司る世界樹。知恵の最終形。本来であれば人類、またはそれに類する知的生命体が、星の海を越え、宇宙を命で満たし、個を超越した後に、たどり着くべき姿です。
形ある世界から形無き世界へ。宇宙が終わろうとも、神という概念に近しいものにまで進化した命は時間も空間も超越する。これが無機物から有機物へ、命の進化の目的。
彼は不完全ではありますが、たった一人でそれに近づき、現に人であることを完全に超えてしまった。そんな彼に今の人類が勝てる術などありません」
「端的にいますと、空人様はこの木の力を使い、人類の生殖機能を奪い、人以外の命の進化の可能性を塗りつぶしました。今ある世界よりも成長する事がないようにしたのです」
「この星はいうなれば命を生み出す種。やがて芽を出し。胚乳ともいうべきこの星の命を使って、命はこの宇宙に広がっていく。空人はそれを未来永劫起こらなくした」
「宇宙の外側は存在しないそれはこの時代でも定説です。それはこの宇宙が広がる速度が。どれだけ進化しても、どれだけ速く移動できるようになったとしても、人がその外側にたどり着くことができないし、認識することもできない。見る事も行く事も決してできないものは存在しないも同じ。そして同時にその範囲に存在している、有機体の命はこの地球しかありません。つまりは、この星の命が宇宙にその生活範囲を広げることを奪うことで、空人様はこの宇宙の未来を奪ったのです。無機物から有機物へ、星の意志から無数の有限の命の意志へ、そして究極の意志へ、それはこの宇宙が生まれた時からの進化の形」
「彼はそれを奪った。その為に犠牲になる者たちの声に耳を閉じる事ができずにね
人類は進化の過程で、命を奪い、種を滅ぼし、多くのこの星の環境を作り替え、星の命を吸い上げた。でもそれは人が進化するために仕方のない事、そうする事で人は進化していく、ううん、別に今ある世界に人が適合しただけで、例えば、鳥や、魚、虫がこの星の主導権を握り、知的生命体に進化しても同じ結論に至る。
そうしてやがて母星から、より良い環境、より良い資源を求めて星の海を渡り始める」
「そうして抜け殻となったこの星は死んでいく。火星や月みたいにか」
「なるべき姿は少し違いますがそうです。それがこの星の本来の役割です。ですが、風上空人、あなたはそれを受け入れられず、星と共謀しそういう未来をすべて潰した存在です」
「ふーん、まぁ、簡単にいうとこいつが人類の敵だってことか」
「そう簡単にそれで納得するな、ありえないな」
「今はそう思っていてもいずれはそうなります。いいですかあなたは目の前で大人たちにいじめられて泣いている子供がいたらどうしますか?その子供の親は犯罪者で、警察もそのことを見逃しています。あなたならどうしますか」
「決まっているだろ、選択の余地はない」
「ですよね」
「だが、それは俺に限ったことではない」
「そうです。でも普通はそれが人や、愛玩動物までです。ですが空人様は、全ての命の声が聞こえるようになり、見えない範囲の命の声も聞こえるようになります。
そして、それを守るためにと過ちを犯す。守るために自分の心さえも放棄します。
それは助けたいという優しさから始まるもの。ですがその優しさが、人類の敵となる。
守るだけでは守り切れない、悪意の芽を摘む、悲しみを増やさない為に幸福を放棄する。
押しつぶされそうな悲しみを、絶望に等しい己の無力も、あなたは受け入れ、前に進みます。今のあなたは関係ありません、力を手にした時点で、この世界の未来は決まるんです」
「あなたの狂気が人の超えてはいけない一線を越えた。壊れているのよ、未来のあなたは」
「ですが、安心してください。そうならないために、私たちが来ました。世界樹から生み出されたとはいえ、私たちのような存在は個別の意志を持った時点で、全てが空人様の目指すものに全面的に賛同するわけではない。
未来の世界で私たちは仁様や長治様と一緒に空人様に対抗した。
ですが、空人様の力はあまりに強大で、私たちはどうしても勝つ事ができなかった。
だからこそ、禁忌を犯し、私たちはこの時代にやって来た。
どんなにそんな未来を理解していても、それが過ちだと否定しても、自分にそれができて、助けを求める声がある以上、決して空人様は違う道を辿らない。
だからこそあなたはあぁなった、あそこまで一人で進めた。
その為に私たちのすべき事、それは風上空人に彼女を作る事」