挑発1
「その話を信じろとでも?」
仁は、自分の死から繋がる人類の最後と、未来での空人の悪行を聞ききながら、
途中で飽きて、勝手に自分の分だけのお茶を用意し座りなおす。
「そう、ですね。ですが、全ては嘘偽りなく、後は信じていただくしか」
「普通よくある例えば宝くじの当選番号とか競馬の当たる者だとかを言い当てるとか」
「残念ですがそのような事は、私たちは全知全能ではありません。
ずっと先の未来で起きた事はある程度見聞きした範囲でお話しすることはできますが、私たちが顕現する前のそのような些末な過去のことは分かりかねます」
「その癖、やたらと俺のことについては詳しそうだったな」
「それはあなたが未来でそれだけ特別だからです。わかる限りは過去の事も調べつくしていますから、そうですね、改めて、私たちが何者かをお話ししましょう。
私はクピト=クエン=シエル。愛を司る神、のなりそこないとでも言いましょう。そして、」
「私はダアト=セフィラ、知識を司る世界樹の一部です」
「神様に世界樹、まるでファンタジーじゃな。しかし、カラスなのに木、」
「形は問題ではありません、世界樹は確かに木の形をしていますが、それも本質ではなく、世界樹は生命の集合体、物質世界から解き放たれた命です。
世界樹は遥か過去より存在し、本来は遥か未来で生まれいずる。元々私たちはこの世界にも存在します。ですが認識されず、まだその形を成してはいない。
見るものに、求めるものに合わせてその姿を変え、意識の中にだけ存在する。それが本来の私たちです。ですが、今から20年後、私たちはこのような形で世界に生み出されました。意志を持ち、形を持ち一つの生命体に近い形で、その原因がそこにいる風上空人。
彼が私たちの領域を認識し、確かな意思をもって介入してきた。
それは本来であればずっと先の未来で起こる事、しかも一人の人間ではなく、多くの人間が、進化の先に起こるはずの出来事でした」
「よく言っている意味が分からないんだが」
「今から2年程度のち、風上空人さんは世界の表舞台から消えてなくなります。その後どのような経緯をたどったか私たちも調べることができませんでした。ですが、そこから18年間、彼は何らかの方法で人の一線を越え、この星の真理にたどり着きます。
星の意志を解し、万物の声を聴き、そして星の意志の表現者となった」
「そうする事で私たちたちは認識され、こうしてこの姿に固定された」
「言うなれば、今の私たちの生みの親は彼という事になります。
彼は、星の意志の代行者を謳い人類に向けて宣戦布告を仕掛けてきます。
彼の目的は人類の滅亡。いいえ、正確にいうと多くの命の救済でしょうか。
彼は人とそれ以外の命を区別せず。それ以外の命を守るために、人類に無理難題を押し付けてきます。文明の放棄、人口抑制、戦争の即時中止、そして自らが敷いた法の下での、規制と抑制の秩序ある暮らし、当然そのようなことを受け入れられるわけがありません。皆頭のおかしな人間の妄言だと甘く見て、相手にしていませんでした。
ですが、これを」
そういってシエルは不鮮明な一枚の写真のようなものを差し出す。
「この世界に来るにあたって物を持ち込むことはできません。ですからこの世界で私たちを通して撮影したものになります」
「ピントを合わせて取れ、これは柱か何かか?」
海の上にうっすらと大きな柱のようなものが見える。
「これがその世界樹、の幼木です。私たちのいた世界ではこの木の根が世界を覆い、その幹が雲を貫き、枝葉は大陸から太陽を奪います。
この時代にはまだ存在していませんが、未来に存在しているます。そしてその事実が非現実な莫大なエネルギーとなり、不可逆であるはずの時の流れに逆らい、この時代にこうして影響を及ぼしています。だからこそ私たちはここに来れた。この木が写る限り、この世界は私たちのいた未来に向かっているという事です」