天使捕獲作戦4
「嘘でしょ!ちょっと!」
シエルは全力で空人を追う、このままでは全てが終わる、そんなことを考える間もなく、目の前で人が死のうとするなら彼女は本能的に助けに行く、全力で、何の迷いもなく、
「あぁ、嘘だよ。死ぬならもっと苦痛を味わうやり方で、それが死ぬ覚悟だ」
水面を飛ぶ蝶が、肉食魚に捉えるように、シエルの想定よりもはるか接近した距離で空人は待ち構えていた。その表情は勝利を確信し笑っている。だが、その笑顔、今まで観察してきた中で一番大きく表情が変化している。彼はこの状況を楽しんでいる?いやこちらを手玉に取ったことに対する快感なのか、少なくともこの男は、家族の電話でも、友達と一緒にいる時でも、笑わなかった。なのに……シエルに悪魔という言葉がよぎった。
空人が飛び降りたように見せかけているが実際は一段下がっているだけ、だからこちら側には柵は低かった。冷静になれば分かった事だ、だが、唐突の事による動揺、
そして何より本当にやりかねない空人の瞳がその思考を奪った。
空人はシエルの腕をつかみ引き寄せると逃がさないようにと、引きずり込むと、素早く夜以後に周り、首に素早く手を回し、足で彼女の翼を踏みつける。
彼女が痛みで声を上げるが、空人は一切力を弱めることはない。
「残念だが、お前たちは俺にとって敵だ、加減するつもりはないぞ」
シエルを引きずり壁を背後に、セフィラを睨みつける。
何をしてくるのか分からない、空人も余裕があるわけではない。加減をすることも無駄な時間をかけるわけにもいかない。
「いいか端的にいう。まずは理由を話せ、俺を殺す事が目的でないのならお互いに譲歩の可能性がある」
「それを受け入れるためにはまずはシエル様を離してください。物の言い方には難があるとはわかっていましたが、女性相手に暴力をふるう方だとは思っていませんでしたよ」
「俺には性別は意味はない。お前たちが俺より強い可能性が高く、敵である以上な」
「……ではお伺いします。どうすればあなたの敵ではないと証明できますか?ここで私がいくら言葉巧みに話したとこで、それを事実とする根拠はありません。それを成すのが信頼です。ですがあなたは私たちのことを一切信用していない。まぁ、私たちに限ったことではありませんが、そんなあなたにどのように敵でないと証明すればよいでしょうか」
「会話の内容を聞いて判断する」
「……はっきり申し上げておきます。今すぐシエル様から離れろ。俺は女性の悲鳴を聞いても心ひとつ傷めないようなクズ野郎に譲歩する気はない。ぶっ殺すぞ」
「……OK。悪かったな。解放する。だが、約束を守れよ」
セフィラの怒りそれは本物だった、今までのような見下した雰囲気はなく、心からの言葉。
だからこそだ、その怒りに空人は敬意を表した。
「あなたねぇ!!」
「挑発したのはそっちだ。さてどうする?約束は守ってもらえるのか」
「シエル様、予定変更と、行きましょう、本来であれば彼には情報を渡すべきではない、そうする事で未来を早める事になる可能性が高いですが、事ここに至っては、いまさら隠し通しても無意味でしょう、ならばリスクを背負って、彼に事実を伝え、彼にも協力してもらいましょう。知ることで変わる可能性だってあるかもしれません」
「わかった、セフィラがそういうなら、でも、」
シエルは誇りある羽を踏まれたことがおさまりがつかず思いっきり、空人の顔面を殴打しようと平手を振るが、空人はそうすることは分かっていると当然のようにガードする。
「素直に叩かれなさい」
「断る、理由がない。それに反撃されなかっただけでもありがたく思え、」
「ふざけん、な。よっし!!」
今度は反対側の手で空人をたたき張り飛ばす。空人はその力に吹き飛ばされ地面に転がる。
「この最低男!キューピッドをなめんな」
「大した力だ、やっぱり俺の読みは間違っていなかった。さて、これで満足か」
空人は立ち上がり、口からの流血を無視し、先にわずかな服の汚れを払う。
「あなた、分かってて、」
「収まりがつかないんだろ、感情一つ処理できず、暴力で感情の処理を行うとは、だが、力の加減は考慮に入れるべきだったな、構えてなければ不意の角度だ。首がやばかったぞ」
「何なのあんた」
「この頃からその片鱗は十分ですね。自分自身にも固執しない。ただ己が己であればいい。その為に自分が死のうが、消えてなくなろうが、」
「無理してまで生きようとも思わないしな。で、ところであんたキューピットか?
やっぱりあれか、目玉焼きにはマヨネーズか?」