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(3)

思弁。

このような天使のような美少女が、どうして孤児になったのか、というと、実は、よくわからない。


 キギフィ自信、記憶がないのである。

 ある時、ユーゲントに、こんこんと眠る、天使のごときかわいらしい幼女がいた。キギフィであった。上等な箱に包まれ、中にはワープロ用紙が一枚。

 「ユーゲントに入隊させるべし」

 ただそれだけ。

 箱の中で眠っている幼女キギフィには、毛布がかけられていた。あとはごくふつうの洋服。

 身なりもきれいだった。虐待のあともなかった。

 意味がわからなかった。なぜこれほど私がこのことを記憶しているのか、というと、私はそれ以前から、このユーゲントにいたからだ。

 私は生まれついたときから、ユーゲントに預けられていた。あまり語りたくないが、捨て子だという。それも、不義の子で、「生まれてしまったからしょうがなしに」ということで、捨てられたらしい。

 きっと私の親は、殺人罪になるのがイヤだったから、とかなんとか、だろう、どうせそんなことでは。いつか銃弾三発くらいブチこんでやろうか。

 まあ私のことはどうでもいい。キギフィのことだ。

 その当時から、この娘は美しかった。歳を重ねていくごとに、さらに美しくなっていった。お世辞にも、美しさを与える環境ではないにも関わらず。

 

 なぜ、キギフィにそれまでの記憶がないのか、わからない。

 ユーゲント上層部は、キギフィの特別性を認識するごとに、キギフィの素性を探るよう努力はした。

 しかし、なぜか一向にキギフィの生まれに関する情報は集まらなかった。

 やがてあの子自身が言った

 「いーよー、そこまでしてもらわなくても。私は強い戦士になるから、それでいいじゃない?」

 と。

 合理性を尊ぶGMP3としたら、それを言われると、もう返す言葉がなかったらしい。

 そして、実際に、キギフィは強い戦士になっていっているーー


 生まれ、とは何だろう? 

 少なくとも、公平で、公正でないことは確かだ。フェアネス精神というものがない。「交尾」の果てに、この世に出来てしまった餓鬼は、少なくとも数年間は、その親というものの影響下にさらされる。

 まず私が、生まれ、ということで考えるのは、親の身分だの、血統だのは、その餓鬼に「確実によい影響を与えてやまない」というものではない。

 私は愛人の子であるが、遺伝的にいったら、名家のそれを「半分」は引き継いでいるではないか。実際、どこぞの王家や貴族では、「傍系」という概念がある。

 だのに捨てられたのだ。このことは、身分や血統が、「正しい親を作る」とは限らないということでもある。

 次に考えられるのは、その親の社会的立場、経済力であるが、これも同様の理屈で、「絶対的」とはいえない。名家であるならば、私のような餓鬼を食わす位の余力はあるだろう。

 それを放棄したのが、私の親だ。なにも、ニートにならせてくれ、というつもりはないのだ、私も。ただ、ふつうに育ててくれて、ふつうに大人にならせてくれたら、まあ、後年になって、多少の見返りをギフトとして果たすことを考える。それくらいのものだ。

 愛してくれ、愛してくれ、と叫ぶつもりはないのだから。

 それであっても……なかなかに「いい子」ではないだろうか? 私は。これくらい考えることは出来る。実際、このくだりの思考は、私が幼少のころに考えた理屈だ。

 でも、そうであっても、私は「いらない」らしい。

 私を子供にすれば……「飼って」おけば、それ相応の見返りは得られるだろう。そのことが予測できても、私は必要とはされなかった。

 なるほど。

 要するに、「生まれ」というものは、メリットでさえもないようだ。

 じゃあなんなのか、といったら、

 「気に入る」「気に入らない」

 の点だけではなかろうか。

 つまり、私は、すごい幼少のころから、親、そしてその周囲、というところにおいては、すごい気に入られなかった、ということだ。存在そのものが、気に食わなかった、と。

 だったら作るなや、と思うのだが。

 まあそれはそれで、いい。私の中では解決済みのことだ。私が言いたいのは、生まれというのは、不公平が原則だということ。で、一応自我が芽生えて、五体満足に動けるのだったら、自分を守るために、さまざまの手段を考える/行動に移す必要がある、ということ。

 それさえ出来ない馬鹿は、死んでもしょうがないだろう。以上のように合理的に考えて、私はユーゲントでの生活ーー過酷な競争原理にさらされた環境をよしとしている。


 ……さて、以上の論理は、私はある程度は正しいと思うのだが、ひとつ疑問が残る。

 「あのように美しい子供でさえも、気に入らない人間とは、どういう趣味なのだろう?」

 もちろん、キギフィのことである。

 ……だが、ここで、私は私自身が女であることを思い出す。

 美しさは、それだけで妬みになるのだから。 

 ……それでも、納得は、いかない。じゃあそれだけ美があるのなら、娼館にぶち込む手はあったのだ。天の美貌を娼婦に落とすのは、さぞ気持ちがよいだろう。

 ……なのに、ユーゲント。戦闘機械として、育成させよ、と「強く」あの子の親は希望した。

 ……その、判断と、意志が、わからない。


 こういうことを考えるたびに、私は最終的な結論、にして、根元的な疑問に立ち戻る。

 「私たちは、生まれてきてよかったのだろうか」

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