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 ヒュイッ、と、空気を柔らかく裂く音がする。

 次の瞬間、ヴォッ、と、何らかのガスめいた、空気に炎が着火する音がする。


 もうおわかりだろう。

 我がユーゲント研修部隊の別動隊が、このあたりの民家--無人の、ゾンビに侵略された民家--に、一斉に炎を放った音だ。

 

 私たちの五感は、一般人のそれよりも、大幅に強化されている。

 いついかなる場合においても、センサーとしての五感は、戦場で生き抜くスキルとして、多大なる情報を与える。むしろ、サイバーグラスや電磁スコープで得られる情報よりも、GMP3隊員は「直感」を重視せよ、と教えられるくらいだ。

 人間性を「使え」とは、そういう意味である。

 戦闘に私情とか、大義とかを持ち込む意味ではない。……私は、そう解釈している。

 どうもGMP3の教えは、厳格なのか、そうでないのかよくわからない。だが、そこからなにも「教訓を引き出せない」者は、自然と、脱落していくものだ、というのを、「感じ」として、受け取る。


 ともかくも、私とキギフィは、任務の8割が終わったことを確認しあう。

 

 「今回はこんなとこかな?」

 「気をゆるめないこと」

 「はーいはいはい」

 「はい、は、一回」


 まったくこのは……



 ともかくも、ミッションが終わったことは、無事に喜ぶ。

 確かに、手段は、非人道的かもしれない。


 今回のミッションは、ゾンビの手に落ちた村を、周辺地域から、「無事に隔離」「それ以上の侵略を防ぐ」ことを目的としたものだった。


 中級程度の吸血鬼の仕業らしい。はた迷惑

な。吸血鬼と人間とは、過去に協定が結ばれているはずで、このようなことをしでかしている時点で、立派な犯罪である。

 おおかた、自尊心の問題だろう。

 中級とはそんなものだ。

 自分の能力がさほど高くないと知っているから、より弱いものを蹂躙する楽な方法を選ぶ。

 クンフー・トレーニングという考えは、それらノータリンどもにはない。ただ、己の示威にして自慰をするのみだ。

 そう、示威にして、自慰。

 そのような中級どもの若き猛りは、おおかたにおいて、上級ども、貴族階級の吸血鬼には、侮蔑対象である。であるがこそよけいに、奴らはこのような行為に走る。無限の恨み辛み……ルサンチマンによって。


 だが、それは、人間とどう違いがあるだろう? 

 人間だって同じだ。仕事の終わりに……連れ添って女を食い物にするのとか、家庭にかえって、ドメスティックなバイオレンスをする。

 今回、私たちは、そういう「エゴの固まり」を、この世から消した。

 ついでに、「もう救われない者たち」も、消した。


 そう、吸血鬼が手ゴマとしてゾンビ化させた、下劣不死者ゾンビたち。それは、この村を媒介にして、勢力を蓄えようとしていた。自らの同胞ーーもともとの、家族や隣人を手にかけることによって。


 で、見事、手に掛かって、この村は、全員がゾンビになったわけだ。

 そんな村を救うよりはーー浄化したほうが、効率的なのは、火を見るより明らかだ。


 そう、背後でごうごうと燃えている炎……不浄なる者のため池と化してしまった、この村。空気感染だけでも、不衛生になってしまったこの村。ゾンビの大量の死体。

 燃やして殺菌消毒するしかない。

 あとのことは、この村の近隣住民がどうにかする。


 そんな、ミッションだった。

 ランクとしては、Bの上、といったところ。

 対戦相手のレベルというよりは、ゾンビ/汚濁感染の対処療法を学ぶ、という意味で、

ランクは「まあまあやっかい」のところなのだ。


 正義かどうかは知らない。それは私たちが決めることではなく、依頼主ーーこのあたりの村部落連合が決めることだ。そしてそれは国によって承認された。

 実際、彼らは「決断」したわけだ。私たち「特殊部隊」が、それを覆して、なんになる?


 そういったセンチメンタリズムは、私にも、この前をいくキギフィにも、ない。

 ただ、仕事を終えただけだ。


 そんなことを、なんとはなしに思いながら、合流地点へと向かう……と。


 物陰に、なにやら動く陰が見えた。

 とはいっても、ここから100mは離れている。

 

 「どーするよ、いいんちょ」

 「あなた、気づいていたの!? だったら報告しなさい!」

 「いや、だってさー……」


 口ごもるキギフィ。

 はて……この娘にしては、歯切れが悪い。


 して。

 そこにいたのは、左腕からざっくりと斬られ、血みどろになっている、幼女の姿であった。

タイトル省略しました(「●謎」)

黒丸(「●」)は、新章であることを示す記号です。

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