●謎(1)
「ほうき星町英雄譚」に出てくる超絶美少女・キギフィ・シロップの半生です。
ですが、「ほうき星町英雄譚」「twitter詩小説「レッズ・エララ神話体系」」をお読みでなくても、ぜんぜん、ぜんぜん問題ない話の造りになっております。
むしろこのお話から読んでいただいたほうが、上の二つの、わけわからない構造の連作よりも、ずっとずっとわかりやすいかもしれません。
なお、この小説は、「ほうき星町英雄譚」みたいな、ゆかい小説ではなく、一貫してシリアスバトル&ハードボイルド・心理ミステリタッチでお送りします。
天はいったい、いくつ才能ってものをあの娘に与えれば気が済むのか、気が知れない。
美点を数えれば数限りなく。
反面、分かりやすい欠点は「底が知れない」ということぐらいだろうか。
だがそれも、あの美貌の前には、「ミステリアス」の言葉で片づけられる。
……ちょっと違うかもしれない。
どっちかといえば、天然なのだ。あの娘は。
たとえば……
「はいはいバシッとなー、っと」
こうやって、目の前のゾンビに、ためらいなく、愛用の槍をぶっ刺すところなんか。
その速度、私が「次の目標」として視認していた、それはそれは汚らしく、臭く、しかしどことなく「欲」みたいなものでもって動いている、生きた死人……まあようするにゾンビである。
ともかくも、私が「さあ次!」と思っているにも関わらず、あの娘は「ずっと前から知っていたよ」とでもいわんばかりに、槍をぶっ刺す!
それが、非常にのんきな声とともに、背後から弾丸のように突進してきて、刹那、暴風のような殺気と、烈風のような勢い(ベクトル)が、私を通り過ぎた……と思ったら、次の瞬間は、ゾンビは見るも無惨なスプラッタである(もともとスプラッタな絵面だけど)。
なにせ顔……しかも鼻から槍が向こうに向けて貫通しているのだから。
そこから、非常に臭い血の臭いが、あたりに充満する。腐った臭いだ。夏の終わりに路上に放置されたトマトよりも、もっとひどい何かだ。
……そこまでが、この娘……特殊部隊「GMP3」育成機関の筆頭……後の本隊昇格候補生の中でも、最右翼として目されている、「キギフィ」というコードネームの子だ。この子が行った、一連の攻撃行為だ。
私は、見惚れていたことを、白状しよう。だが私とて、ユーゲントの中で、まあ平凡とはいえ、教育を受けた身であり、実際、今は訓練戦闘の一環である。
あるとはいっても、実際に「ゾンビの手に落ちた、森の中の村を奪還する」という、正式ミッションなのだが。
私は両手に携えた二丁拳銃でもって、絶命は確実と目される--この子がそれを外すことなど考えられない--ゾンビを、念のため動けなくさせるために、四肢にそれぞれ一発づつ、9パラの弾丸(ハンドガン用、9mmパラベラム弾丸)をぶち込む。
これもまた、「マン・ストッピング(対人制圧)」の基本--我ら特殊部隊における、エクストリーム戦闘技術の一環である。
「あんがとっ」
彼女の口元は、バンダナで覆っている。黒い迷彩色のバンダナ。サバイバル・ウェアのひとつだ。
でもそんな、「美」のかけらもない様相から、どうしてこんなに、明るい瞳が、キラキラ輝いているんだろう。
血にくすんでいるはずの彼女の金髪……昔から、いついかなるときでも、ゆるやかにウェーブしている長い髪は、どうしてこんな夜更けでも、輝いているように見えるんだろう。
「ふうっ」
彼女は、口元のバンダナを一度解き、それで顔をさっとぬぐう。
後ろでゆるやかにまとめられた長い金髪が、それにともなって揺れる。
……天使みたい。
それは、間違った形容だっていうことは、私自身がよく知っている。
ここは戦場だ。しかもゾンビ相手だ。さらには、この村を「正しく救う」ことなんて、最初からミッションには盛り込まれていない……つまり、生存者の多寡に関わらず、この村は焼き討ちすることが、盛り込み済みのミッションなのだ。そうでないと「殺菌消毒」できない。
私たちユーゲントは、そのコマ。
そして、この戦も、授業の一環。
大儀といえば、それくらいのもの。
なのに……
なのに。
私と彼女、
彼我の距離をふまえて、彼女に対するある程度の嫉妬をもふまえて、なお、
彼女は、天使のように美しかった。
今回は、この人の視点ですが、この小説は、視点を次々に変えていきます。
とはいっても、まだこの人の視点は続きますが……