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ナガラ

 亜里沙と二人で散歩をしていた時だ。気が付くとそこは、黄金美区からちょっと離れた西南区だった。

 西南区は黄金美区と違って治安が良く、ヤンキーが集まるところもなく、暴走族がぶんぶん走る様子もない。

 まぁ、落ち着ける場所と言えば簡単だな。


 それにしても静かだ。住宅地が豊富なココは、朝の鳥の鳴き声が聞こえれば、夜の川の流れ音も聞こえる。

 いわばここは平和な住宅街だ。


 そして、俺達がいるところは西南区の、西南高校前だ。


 西南高校は俺も一度、ある都合により一時的に入学したことがある。まぁ、ちょっとうるさいが、荒れた奴はホントに少ない。しかし、だからと言ってエリートが集まる進学校という訳でもない。本当に普通の高校だ。


「確かお前もここに一時入学したよな」

「あぁ…うん」


 意味不明な会話を淡々と続ける。


 実際俺は黄金美区にある黄金美工業高校で中退した人間だが、別に西南高校に転校したという事情ではない。もっと複雑な事情だ。


 西南高校校門前、そこには一人の男がタバコを吸いながらその校舎をボーっと眺めていた。


 ……長柄だ。


「おい、ここで何やってんだよお前」

 すると長柄はコッチを振り向き煙もコッチへ向けてふいた。

「…………佳志か」

「今日は金髪のお連れさんはいねーのかー?」

「ふん。神谷は別に俺が望んでツルんでる仲じゃない。色々都合があって仕方なく相手してるだけだ」

 目を逸らし、片腹痛いかのようにニヤリと嫌な笑みをかざしながらそう言った。

 亜里沙が俺の横に立ち止った。

「アンタ、何者なの?」

 突然、不自然な質問を問いかける。何者って………俺も一度しか会ってないから分からんけど、コイツは暗くて危ない奴としか……。

「佳志、その女誰だ?」

「俺の……友達だよ。ちょっと気が強くて乱暴だけどそこらへんは目をつむってくれ――いてぇ!」

 またもや強烈なチョップが彼女からかかった。


 何だよ……事実やんけ……。

「私の質問に答えて。アンタ何者なの?」

「…………黄金美区にいる不良共を狩りする、単なる狩人だ」

「は? 狩人? アンタ独りで?」

「そうだ。この町は俺がいない間に腐り過ぎている。だから元通りにさせるんだよ」

 コイツも一度黄金美区をでた事があるのか……。


 でも、そんなに狩りをするってことは……噂も尋常じゃないはずだよな。

 一回志藤とかに事情徴収をしてみるか。


「ところで長柄、お前何でこんな所にいるんだ?」

「西南高校………お前は知ってるのか知らないのかは知らないが、ここにもどうしようもないバカがいる。最近は時々俺にもたかってくる西南の連中もいる……」

「何だと? お前絡まれたのか?」

「ふん……所詮西南。十人の連中から金をよこせだとか言われたが、あの征服を見た瞬間気取ってる感満載だったから腹立って皆殺しにしてやったよ……。この手で」

 そして両手を見つめるかのように冷酷な感情を表した。コイツは本当に危険な奴だな……。

「長柄……だったわね。アンタどこに住んでる訳?」

「悪いがそれは言えないな。こっちにも都合があるんだ」

 何か隠してる……と亜里沙は確信したような顔をした。


 亜里沙も何を考えてるんだ? 長柄に興味を持ったってことだよな? 他人にこんな質問するってことは。

「成田春樹って奴知ってるか?」

 急に長柄が聞き覚えのない名前を聞いた。

「誰だそいつ? ヤバいのか?」

「西南高校の番長的存在だ。俺も道端で見かけたことがあるが、赤のモヒカンにハートのチェーンピアスを左耳にかけている。特徴的だから一目ですぐ分かる」

「でも……そいつがどうしたんだよ? お前やるのか?」

「片腹痛いわ。そいつは確かに喧嘩は強いという噂だ。まぁ、あくまで西南区の間ではな。だが俺はそういう井の中の蛙を見てると腹の虫がおさまらない」

「結局やるんじゃん……」

「とりあえず、1つだけ言うと、黄金美町の中で一番喧嘩が強いのは佳志、お前だ」

「はぁ……またそれか……」

 くだらないと思い、ため息を吐いた。

「だが今のお前はどう見ても喧嘩はしない。弱いんじゃない。強いからしない。少なくとも俺はそう思ってる。だが俺は諦めない」

 そう言って、長柄は立ち去った。


 亜里沙は長柄を見届けるかのようにジッと見ていた。

「お前……アイツの事気になるのか……?」

「あの男はね、私も一度見た事あるの」

「はぁ!?」

 あまりに意外な発言をされ、ブー! と吐いてしまった。

「何だよ! それ早く言ってくれよ!」

「いや……うろ覚えだったから確信してから言おうと思ってたんだけどね。やっぱり……ね。長柄はアンタに速攻で喧嘩に負けたけど、とんでもない猛者って言われてるわ」

「な……何でだよ? まぁ、何かそんな様なオーラは放ってるけどさ…」

「そう、そのオーラよ。皆あの、何をしでかすか分からない狂気、負のオーラで怯えてるからいつも負けるのよ」

「ちょっと待って……もうちょっと分かりやすく言ってくれないか?」

「つまり、実際の喧嘩は普通の人と変わらないけど、あの髪、あの顔、あの格好、そして……あの服の中にあるもの」

「服の中にあるもの?」

 亜里沙は左の袖をめくって腕にツンツンと合図をする。


 ……それってまさか……。


「アイツ、刺青でもしてんの?」

「その通り、左腕にトライバルのタトゥーが刻まれてるわ。シールじゃない。彫ったのよ」

「マジかよ……何だよそれ」

「分からないけど………少なくとも脅し目当てで彫ったものじゃないと思うわ。何か事情があって……」

「ふーん……なるほどねぇ……。夏の時だと必ずみえちまうからな……」

「見えないわ。むしろ彼は隠そうと必死になってる一方。真夏日でも長袖のシャツ一本で我慢してるわ」

「お前よくそこまで調べてたな……」

「あの人、夜中に一度黄金美区全体のチーム一斉に喧嘩を売って勝ったからね……」

 またもやブーと吐いてしまった。


「え……何そのヤンキー漫画みたいなストーリー? 独りでやった訳?」

「うん。彼に友達はいないと思うからね……」

 とてもじゃないけどそればかりは信じられん……。黄金美区全体って……。


 ドラスト、GSF集団、メイルバール、バラード、黄金美連合、レトロミア……。


 いやいや……俺じゃできん。やっぱアイツ俺よりも強いわ。さすが狩人だな……。

「話によると、最初はレトロミアっていう暴走族の溜り場にカチコミに行って、バイクで攻める連中全員をシバキ倒して、挙げ句に総長もその勢いに負けて頭が割れるまでボコボコにした……。

 それからたまたまタムロって歩いてたドラストの連中に長柄は目を向け、正面から思い切り前蹴りを食らわして、即全滅。志藤っていう男もそこに紛れてのびてたらしいわ……。

 それから……、反対方向に偶然メイルバールとGSF集団が喧嘩をしていた時に、間を挟んで両方ともに構えたわ」

「はぁ!? 二つのチームに喧嘩売って、また更に強敵が集うチームにも喧嘩売るか普通!?」

「それが……長柄なのよねー……。あれこそ本当の馬鹿よ。どうやらその時既に長柄はアバラとアゴが脱臼してた感じだったらしいけど、それでも相手が何だろうが立ち向かう一心だった……って感じだったかもね」

「……で、メイルとGSFと構えてどうなったの?」

 段々奴の凄まじさと根性、無の度胸の冷酷無情っぷりが真面に伝わってきた……。

「さすがにあの二チームは筋肉質な男たちが多かったから、リンチにされそうにもなったらしいけれど、無我夢中になってその辺の鉄パイプや角材でなぎ払って最終的には全滅してしまったらしいわ……。

 その後……」

「ちょっと待て! まだ続きがあんのか!?」

「あるわよ……。あとちょっとだけどね。


 その後、バラードの連中がその抗争に駆けつけたけれど、どうやらバラードの連中と長柄は顔見知りだったらしくて、当時そこのリーダーとタイマンをしたらしいわ」

「はぁ………何かやっと真面な展開になってきたな……」

「その時長柄はアバラとアゴを脱臼、二チームのリンチでできた頭の傷、ローキックで負傷した太ももも打撲寸前だったらしいけど、やっぱりバカだからその現状は全く無視。ためらいもなくタイマンを受けたわ」

「凄いな。俺ができたらその後病院送りだぞ。ていうかもうそれ病院行くべきだろ。精神科も含めて」

 そのセリフに亜里沙はスルーして話を続けた。

「長柄は…………最後の力を振り絞ったのか知らないけれど、延髄切りというプロレスの技を先手にして勝負は2秒も経たずに終わったわ」

「つまり………長柄は黄金美のほとんどのチームを……しばいたって訳……か?」

「そういう事になってしまう……よね」

 ………………今の話でアイツと言う人間をよく分かった。


 長柄は、ただの要注意人物なんかじゃない。


 アイツは冷酷無情の、この街最恐最悪の超危険人物だ。間違いない。

 もっと早く知るべきだったな………アイツを。


 しかも相手が何にもしてないっていうのにいきなり皆殺しにするかよ普通……。


 ………ちょっと待てよ?



 だとしたら……、アイツこの街で本当に一番強い奴を知らないってことか?


 俺がかつて次元を超えた相手とやり合ったから俺が一番強いだとか思い込んでる訳なのか?


 …………一番強いのが自分とも知らずに……ただひたすら見つからない宛を探し回ってるってのか……?


 だとすると……このままじゃアイツ、何も残らずに本当に独りぼっちになっちまうぞ……。


 同情なのか、自分に対する恐怖心なのかどうかは定かじゃないけど、俺は今、アイツを何とかしようと必死に考えている。

 ていうかよくそんな事件おこしてマスコミ1つかけつけないよな……。


 長柄……ねぇ。タトゥーも彫って、親はどうしてんだろうか……。



「ま、そんなこと今は考えるべきじゃないわね!」

 さっきまで本当に真剣な顔をしていた亜里沙が咄嗟に今まで通りの笑みに戻った。

「あいつ、次は西南高校の番長とやらとやるんだよな? あいつの方針によると……」

「ま、まぁそうだけどさ……。じゃあ、その成田って子と一回会ってみる?」

「え? 会えるのか?」

「ま、まぁね。長柄の話もしといた方がいいわよ…多分」

「なら行って来るか」

 なぜかちょっと慌ててた亜里沙にもちょっと疑問をかけてたが、俺が一番気に掛けたのは、既に校門前に例の赤毛モヒカンが立っていることだ。



「………おい。今の話本当か……?」

 目も大きく、正にヤンキーと言ったオーラを放って近寄りにくい。本当に西南の男子生徒か? と思うくらい怖い。何この人、凄い眉間のしわ寄せてヤバい感じなんだけど。

「あ、あぁ。うん。ちょっとね」

「タイマン……か」

「君って成田くん?」

「あぁ。五時限目がだるかったから今帰ろうとしたとこだったけどよ……、俺を狙ってる奴がいるらしいな」

 多分大半聞かれた模様。

「タイマン、張るのか?」

「…………俺がそんな祭りに参加すると思うか? そいつの名前教えてくれや」

「長柄って奴だよ」

「!」

 成田はくわえたタバコを地面に落とした。そして表情を伺うと、驚いていた。

「知ってるのか?」

「……………マジでか…。長柄………か。コッチでもよく聞くが、今じゃ西南区をうろき回ってるらしいな」

「あぁ……、一回大勢で喧嘩売られたらしいから、その仕返しなんじゃないか?」

「ふん……、馬鹿な奴らだ。長柄って奴は俺も一回しか見たことがないからよく分からないが、噂によると襲撃も全部自分一人で何とかしようとする人間らしいな。とてもじゃないが俺にはできない」

「タイマンしたくないんならそっちの仲間呼んでボコせばいいんじゃないか?」

「…………五人ぐらいいるが、たった五人じゃ絶対無理だ。喧嘩の独立者にたった五人の学生が立ち向かっても手も足も出ないに決まってる」

 長柄の強さはどうやら把握してるらしいな……。

「ふーん。詫びは入れないの?」

「さぁな。ちなみにお前ら、誰だ?」

「え、俺? 俺はー……長柄の知り合いって感じかな?」

「知り合い……? 何だ、ソイツとつるんでるのか。名前は?」

「佳志だけど…」

「!?」

 またもやビックリした顔になった。

 コイツの表情の変わり具合は分かりやすいな……。

「与謝野佳志のことか……?」

「あ…あぁ。うん。そうだけど」

「通りで可笑しいと思った。長柄とつるめる人間が弱い訳がない……」

「え、俺の事知ってんの君?」

「ふん、こっちじゃ長柄よりもお前の方が噂で埋められてる一方だぞ」

「えぇ……マジかよ。西南区も危ないやんな」

「まぁ安心しろ。与謝野佳志はあくまで黄金美区最強のキング・オブ・ストリート、ってだけだからよ。要注意人物は、長柄の方だ」

「はぁ、ならいいけど。まぁとにかくアイツには気を付けろよ。いきなり後ろから蹴られたらシャレにならんからさ」

「分かっとるわ……」

 そしてそのまま成田は立ち去った。どことなく長柄の性格に似てる気もしないこともないが……まぁいっか。


 ちなみに思う事が、キングオブなんちゃらってなんぞ……。


「ささ、もう帰るわよ?」

「お、おう」

 すっかり亜里沙の存在を忘れていた。もう帰るか……。



 住宅地だから少しばかり迷う。右を回って突き当りを左……そして手前の細道を右に寄って……って!


 嘘だろ。


 俺と亜里沙の目にした光景は、とんでもない修羅場だ。



 ホント、ついさっきまでピンピンしていた成田が、すっかり大の字になって倒れている。


 顔面に流れている血は、尋常じゃない。俺はサスペンスドラマでも見てるのか?


 そしてその横には、そろそろ帰ろうかとしていた長柄の姿が見えた。


 まさかこの細道で襲撃を食らうとは……。しかも長柄まだココらへんにいたのかよ……!

「おい! お前何してんだよ!?」

 後ろを振り返った長柄がこっちに来た。

「………コイツ、西南高校の番長だろ? いきなり肩ぶつけてきてタンカ切ってたから殺してやったんだよ……」

「こ……殺した!?」

 いや、成田はゲホゲホとむせてる。生きてる。良かった……。


「肩ぶつけられたぐらいでココまですんのかよ!?」

「ぶつけたぐらいなら別にいい……。それから『どこ見てんだコラ』とか調子こいたこと言ってたし、そもそも元々俺の標的だったし、丁度良すぎたんだよ……」

「お前……!」

 さすがにこれには俺も頭にきた。


 まさか会った瞬間ここまで拳を浴びせるとは思わなかった。正義のヒーロー気取りと言う訳ではないが、少し……見損なった!


「人の気持ちぐらい考えろよ!? 成田だっていつもの調子でやっちまっただけだろ!? せめて声かけてタイマンの事情とか話してからやれよ!?」

「はっ……。話す? 喧嘩売られたら言葉も口に出さず、大人しく買って即座にボコすのが喧嘩の必勝法だろうが……」

「ふざけんなよお前!? それただの不意打ちじゃねぇか!?」

 俺は長柄の胸ぐらを掴み、前後に揺らし続けた。

「おい佳志………、ココでやんのか?」

「うるせぇ! 成田にちょっとぐらい謝れよクソ野郎!?」

「ふん……。テメェもコイツみたいに顔面殺されたいようなんだな……!」

 突然膝蹴りを食らい、不意にもむせた。腹がすごく痛い。


 しかしココでコイツを逃がしても駄目だ。本当にやらないとあかん……。多分、負けると思うけどねー!

「いってぇなぁ……!」

 頭部に向かってハイキックを放つと、長柄はスウェーで避け、アゴにアッパーカットをまともに食らった。


 ガッ!


 ほぼ失神状態。ごめんもう立てん。ガチ痛い。やっぱ俺、喧嘩向いてないわ。


「何とか言ってみろよおい」

 喋れない。あごが動かない。ヤバい骨いっちゃってるかも……。これでケツ顎とかできたらマジ勘弁だわ……。

 ヤバい、危険なのは俺だけじゃない。亜里沙も――――



 体が動かない。


 長柄が、亜里沙の方へ向かって歩いている。


 ――行くな。そいつに――手を――出すな――



 しばらく気を失っていたのか、ハっと目が覚めた。瞬時に起き上がり、キョロキョロと周りを見渡すと、そこはいつも見るアパートのベッドの上だった。


「……………あれ……俺……」

「ふん、だっさ。ヒーロー気取ってあの様って……アンタどんだけダサいのよ!」

 口が悪いが、わずかに微笑をうかべていた。


 亜里沙は……全然無事だな。良かった。


 …………で、何で……何でその横に長柄がいるんだよ!

「何でお前がいんだよ!」

 平然と煙草を吸っているコイツの態度にはちょっとイラついた。

「ふん……。あくまで俺はお前を尊敬に値してるから、とりあえずココまでおぶってやったんだよ……」

 何かこの状況だと、亜里沙と長柄は既に色々喋ったあとって感じだな。普通に今でも喋ってる……。

「何でお前らそんなに話してんの?」

「この女があんまり佳志の事心配するから――」

 最後まで言おうとする長柄を亜里沙は無言でチョップで口止めした。ゲホゲホとむせている。さすがにコイツのチョップは耐えれんよな……。

「………成田の奴はどうしたんだよ?」

「あのままじゃヤバそうだったからとりあえずこの仁神って女が持ってた絆創膏とシップを借りて傷口を貼ってそのまま置いてったよ。後は意識を戻るのを待つだけだな……」

コイツもぶれないな……。二度と長柄と喧嘩したくないわ……てっきり失神してる間に眼窩底や頭蓋骨とかの骨ぶっ壊されてんのかと思った……。




 しばらく暇ができたので、独りで外に行くことにした。長柄と亜里沙は留守にしてもらった。


 アパートから少し離れた河川敷、そこには何の変哲もないテントが張ってあった。

 気になったので中を少し覗いてみると、前見た金髪の男、神谷と、見覚えのない茶髪の女がいた。

 ………何だこいつら? ホームレスじゃあるまいし……まさか長柄のツレか?


 まぁいいやと思い、俺はその場から去り、街に出た。やはり人々が大勢いる。まぁいつもの都会風景だからもう慣れてる。

 もしも人が1人もいなかったら、それはそれで大事件だな。極度の過疎化か……隠れた大災害かだな。

 ドラスト、GSF集団、メイルバールなど、様々な集団もゾロゾロ歩いている光景もよく見る。コイツラは夜でしか活動できないとかそういう奴らじゃない。ただのチンピラグループじゃないからな。

 ただ、B3やレトロミアは暴走族とかの関係で中々昼間は活動しない。B3は全員前科者だから明るい所で暴れるのを恐れている。

 長柄はそのB3集団も独りで潰したというのだろうか……? それはさすがに話を盛り過ぎたか……。

 レトロミアという暴走族はここ最近来たばっかだが、どうやら金髪の神谷が訳ありでカチコミに行ったらしい。

 結果、神谷の勝利。という噂だ。

 GSF集団の先頭には与謝野慎という、俺の親父の弟がいた。


 コーンロウ・メッシュという、アシメみたいな個性的ヘアーをしていて、サングラスを普段から必需品としている。

 普段着は革ジャンだ。体格も大きく、一目で分かる。

「慎さーん」

 声をかけると、慎さんの後ろにいる舎弟はこちらをギロリと睨み、慎さんは「おー」

 と純粋な笑顔で返してくれた。

「ここで何してるんすか?」

「丁度今服買いに来たんだよ。お前も一緒に来るか?」

「いや、いいっす…」

 舎弟のオーラは半端ない。『ヘッドに馴れ慣れしく話しかけてんじゃねぇ』的な事は確実に思われてる。

 しかし昔からの付き合いだし、互いに心を許し合っている。

「最近は俺らもちょっと忙しいからよ。あんま相手できんけれど、ヤバくなったらいつでも手助けできるぜ」

「あ、どうも。じゃあこれで」

 そして連中は服屋にぞろぞろと入り、俺は別の所へ行った。


 コンビニにはメイルバールが一列にたまっていた。……こいつらとはあまり関わりたくない……。


「おい、そこのチビ。金出せよ?」


 この連中に見つかると必ずと言ってもいいほどこの展開で絡まれる。

「え……持ってないけど……」

「ジャンプしてみろよ?」

 そしてすとんと跳んでみる。が、俺は財布も何も持っていない状態だ。

「ちっ………失せろよ早く」

 何だこの超普通の会話。


 まぁそんな感じで、メイルバールは基本的にたちの悪い武闘派集団って訳だ。リーダーは辺留という体系がデカい男だ。とてもじゃないけど相撲じゃ勝てる気がしない。


 バラード……。


 最近はあまり聞かないコイツラも、生きているのでそこらへんにいた。駐車場でたむろしている。


 イケメンと野獣とゴリラとチキンが集まったような感じのグループだ。少数派だから案外絆はつかめてるようだけどな。


 特に興味がないのでそこはさておき、河川敷の外へ出た。


ふと、かつて中学生の頃に好きだった子の事を思い出し、デイリー掲示板というサイトをiPhoneから開いてみる。

そこにはちゃんとその子のプロフィールがあった。何と無く開くのに緊張感が走る。なぜならそのプロフィールを開くと足跡がつくからだ。

少しためらいをつけてから開いてみる。まぁ懐かしいという感想だけを残す他ない。

若干機嫌も悪かったので思い切って勢いだけを頼りにその子にお久しぶりメールを送ってみた。

まぁ、ダメもとだから返信はされないと思うけどね。


独り気ままに街を歩き回るのは嫌いじゃない。 たまには別のところにでも行こう。そう思った俺は自然と黄金美工業高校に辿り着いてしまった。

この高校は俺が通っていたところでもあり、懐かしいと思う。

校門の前で眺めてたのは俺だけじゃなく、もう一人いた。


「お久しぶりっす! 大将!」


その男、江口泰介。

一年生の頃に、こいつが入学当初から体育館裏にいる不良たちに絡まれたところを偶然俺がその光景を発見し、不良どもを倒し、彼を救って以来、俺を大将といい、なぜかこいつは俺の舎弟になっている。あまり嬉しくない事実だけどな。


「どうしたんだよ、こんなところで」

「いやー、懐かしいなーとおもって」

「奇遇だな。丁度俺もそれで来たんだよ」

「そーなんすか! これも何かの縁って奴っすね! 大将」

「気持ち悪いな・・・」

俺も確証はしてないが、こいつは多分高校デビューがキッカケでヤンキーになりたかった末だ。

だが俺も高校から荒れ果てた男になった末だ。

こいつと違うのは、俺は別に高校生になったからヤンキーぶりたいとは全く思っていなかったというところだ。

前も説明した通り、俺は解離性同一障害にかられた影響でなった末路。元は誠実な男子高校生だったんだ。


まぁ、今はそんな事どうでもいい訳だ。そもそも江口の職業も知る必要はない。

高校は中退したが、悔いはない。


今は今を愉しむ他ないんだよ、俺は。


江口は最後に一礼をしてから立ち去っていった。

俺はその場で改めてデイリー掲示板を覗いてみる。


するとそこには一通のメールが通知されていた。

そう、さきほど送った女の子のメールだ。

それはもう、とんでもなく嬉しくてたまらず、独りでひゃっほいと口に出すほどに興奮してしまった。

不審者情報として保護者のメルマガに通知されていないということ祈る。

さてと、満足したところだし、久しぶりにショッピングモールにあるベーシック洋服店にでも行くか。


そのショッピングモールはとても大きく、一回行っただけでは道を覚えられないと言えるほどだ。


でも俺は時々そこに行くので別に関係がない。

早速ショッピングモールに入って二階行のエスカレーターを登る。

するとすぐそこに目的地が目に見えていた。


もうすぐ春だ。イメチェンとかもしておこうと思う。


俺の求めているコーディネートは以下にもオーソドックス極まりない。

ついこの前までは全身白ジャージとか、色々派手な服装で目立っていたが、今は都合上目立たない服装にしたい。


洋服店の奥の方にベージュのチノパンが売っていて、その手前には黒のワイシャツが販売されている。

二着持って試着室へ行った。そして二着同時に着てみると、個人的には普通に似合っていた。

その辺で歩いても何とも思われないことを保証できる。


さてと、そろそろ試着室から出るか。

ドアを開こうとすると、自動に開いた。あれ? ここ自動ドアか? 試着室で自動ドアっておかしくないか?

開いた先には、部屋違いなのか、俺と同年齢の女がそこにいた。



亜里沙か? いや……違う。



「あ」


そこにいたのは、さきほど掲示板で送った女の子だ。

一見久しぶり過ぎて分からなかったが、面影で何と無く分かった。

凄く気まずい。この女と最後に会ったのは中学だし、そもそもメールぶちられてしばらくへこんでたし。どうしようもない。


「久しぶり」

女は微笑みを浮かべ、そう言ってくれた。

「あ、お、おう」

俺は笑みを浮かべれなかったが、一応手を上げて挨拶した。


場所はフードコートに移り、俺はコーヒーを頼んだ。

「久しぶりだな、ネネ」

「ホントだよ、佳志! 何でこんなところで試着なんかしてたの??」

「んー、イメチェンかな?」

「えー? 服装の割に地味じゃない?」

「うーん、まぁ地味な方が目立たなくていいんじゃないか?」

既に俺は試着した服をそのまま着ている状態だ。

この女の名前はネネ。茶色の髪をした、ポニーテールを飾している。

性格は明るく、ちょっとツンツンしている部分は亜里沙と似ているが、基本的に素直で優しいから、俺はそこが魅力的だと思っている。

やはりこの人は今でも変わらない。さすが俺が惚れた女だ。

「あーそうそう! 最近佳志の噂が町中で広まってるんだけど、なんで?」

「噂? どんな噂だよ」

「うーん。居候してるだとか、狂気の長柄って人とタッグを組んだーとか、色々聞いたよ?」

「なに? 居候……長柄……」

こりゃまずいな。どこで漏れたんだそんな情報?

「ねーねー、居候してるって本当なの?」

「あー、一応。ちょっと女んとこで住ませてーー」

「えぇ!? 女の子のところで!?」

いかん、口が滑った。

「いや、ちょっとだけな? そんな気にすることでもねーよ」

「いやいやいや!もう馴染んでるでしょその子と!?」

俺は拒み続けたが、相手は疑う一方。ネネのこういうところがヤバイんだよな・・・。

「亜里沙っていうんだけどさ・・・。俺は別にそんな気になってもないし、馴染んでないっつったら嘘になるけど、別にーー」

「嘘だー、本当は凄く仲良いんでしょ? もうばれてるって!」

「いやいや・・・、そんなことないよ」

「その子いくつなの?」

「俺と同じ年だよ。黒髪のロング」

「へぇー、佳志にはもってこいの女の子じゃない?」

「いや、俺はタイプじゃ・・・」

本当にしつこい。凄く明るくそして粘る。


ブルブルブルブル


ん? 電話だ。長柄からだ。

「ちょっと悪い。知り合いから電話きた」

電話に出ると、いきなり大声できたので電話を遠ざけた。

「何だよ長柄!? 鼓膜破れそうになったぞ!?」

「そんなのはどうでもいい。それより緊急事態だ」

「・・・はぁ?」

ツバをゴクンと飲み、少し覚悟を決めて聞いてみる。

「いいか? 落ち着いてよく聞け」


長柄の声から、とんでもない言葉が発した。

まさかこの事実を知った俺が、俺と亜里沙の仲を真っ二つに分けることになるとは、知る由もなかった。



「亜里沙が、黄金美連合にしばかれた」


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