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お隣さんとお隣さん達  作者: 遊色ヒツジ
お隣さん達、出会う
3/4

お隣さんと同居人

私の訳アリ同居人とお隣さん達には、なんだか縁でもあったらしい。


もうずっと私の同居人は、友達がいない、友達が欲しい、と言っていたけど、頑張るにも協力するにも障害になる訳アリ具合をどうすればいいのか分からず、二人で変わり映えのない日々を送ってきた。

ところがある日、同居人に友達ができた。私も関わっていたとはいえ、びっくり。これが右隣の人。

良かったね、と思っていたら、次はなんだか左隣の男の人を紹介してもらう事になったらしい。

もうほんと…びっくり。またお隣さんだし、そもそも同居人って、幽霊なんだし。



春、地元を離れて大学に入学。ちょっと騒がしい同居人はいたのだけれど、彼女はそんなに現れないので、私は落ち着いた(ほぼ)ひとり暮らしを満喫していた。

ひとり暮らしって、自分の都合だけで回るから本当に気楽だ。初めこそ心細かったものの、慣れてしまえばものすごく快適。

うちのマンションは大学からはやや遠い分、家賃の割に新しくてきれいなのが良いところ。小さなワンルームだけど、もうすっかり馴染んだ我が城である。インテリアは柔らかい黄色やオレンジなど、暖色系でまとめてある。部屋の中にあるものみんな、自分の趣味で選んだものだってすごいよね。

ずっとやってみたかった晩ご飯をホールケーキにする、も実行してしまったし。結果はまあ…達成感はあったのだけれど…私はもう一回やりたいって程にはケーキが好きじゃないことが分かった、かなあ…。


私がこんな穏やかな大学生活を送っていた前期の間、大学から遠いこともあり、うちに遊びに来る人はひとりもいなかった。…同居人がいるので――多分見えないし大丈夫なんだけど、わざわざトライするものでもないというか――ペット禁止のところでこっそり動物を飼っているような後ろめたさがあって、人を呼ぶことを躊躇していたのもある。

そんな私達のうちに、初めてのお客様がいらっしゃった。

それがお隣の寺西綾(てらにしあや)さんで、その日は件の幽霊同居人、美咲(みさき)さんに新しいお友達ができた記念すべき日になった。

これが夏の出来事。


綾さんはそれから時々うちに遊びに来てくれていて、美咲さんは大喜びしていた。もちろん私も。

だって綾さん、かっこいいし、三人で話すの楽しいし。

知的とかクールとかの言葉が似合う綾さんは、同じ大学の四年生で私より少し年上、落ち着いた雰囲気の大人っぽい人だ。今まで身近にはいなかったタイプの人で、学部も全然違うし、美咲さんのことがなければ知り合えなかったと思う。

本当に偶然、綾さんが美咲さんを(綾さん曰く「うっかり」)見てくれて、おかげさまでお友達に。えへへ。これも日頃の行いが良かったのかな、と思っている。



そして季節は秋に進んで、その綾さんが『トリさん』なる男の人を紹介してくれる、というのがこたつ机を囲んでの今日の議題。

初めてうちに来たときから、綾さんの座布団はクリーム色。美咲さんはベッドの上で、私はサーモンピンクの座布団。もうこたつ机の周りに定位置ができていて、なんだか楽しい。

綾さんはポテチをお土産にくれたので、三人でパリパリつまみながら話をする。

実際パリパリ言わせてるのは二人だけど、幽霊の美咲さんもたまに手を伸ばしては、気分はパリパリしている。


さて、トリさんは綾さんの顔見知り、らしい。知り合いレベルとも言い辛いとか。

そもそも綾さんは名前をちゃんと覚えてないっぽいし…はせべ?かはせがわ?かなんかそんな感じだって。でも愛称は、はっちゃん、はせっち、はせーーー!だって言ってたから、…意外と近い関係なのかな?

まあその人が今日のお昼、ご飯中の綾さんに、美咲さんを紹介して欲しいって話しかけてきたんだって。

世の中には行動力のある人が居るんだなあ…。

そんな彼は私達にとっては限りなく知らない人だけど、ただし、物理的な距離がすごく近い。なんとこれまたお隣にお住まいだとか!


「友達作るならまず身近なところから、とは言うけど、すごい身近さだよねえ」

パリパリ、とポテチを食べながら綾さん。

「壁一枚ですもんね。美咲さん基本引きこもりだから、身近な人っていうとダントツですけど」

と私。渦中の美咲さんは、私がポテチを取ろうするのを妨害しながら胸を張った。

「好きで引きこもってないもん。これでも行動派だったんだから!」

「そうでしょうねー。いまでも一般と比較したらずいぶん行動派ですもんね」

一般的には死んだ人ってもうちょっと、なんというか、動かないんじゃないかなあ。

ポテチの上を美咲さんの手がヒラヒラと横切る。実際は透けるから当たらないと分かっていても、視覚的にはちょっとポテチ取りづらいです。

「でもその人、ほんとに美咲さんのこと知ってるんですか?」

そう、何よりの重要ポイントはそこである。美咲さんは幽霊だから、普通の人には見えてないし、声だって聞こえてない…はずなのだ。

私もそんなに友達の多い方ではないけれど、美咲さんのことが分かるかどうか何人かに試してみたことはある。残念ながら、今まで分かる人はいなかったけど。

もしその――はせべだかはせがわだかの――トリさんに美咲さんの事が分かるというなら、すごい。


「まあ間違いないと思うよ。でかい笑い声と、茶髪のポニーテールも二回ぐらい見てるみたいだし。

 しょっちゅう聞こえる、とも言ってたからありゃふつーに見えるなりなんなりしてるんじゃないかな」

私の髪は黒いし、私に聞こえている美咲さんの笑い声ときたら、それはそれは豪快だ。ってことは、トリさんが言っているのはきっと美咲さん、なんだろうなあ。

見えてるならせっかくだから紹介しようかと思って、と言いながら、綾さんはずばっと美咲さんの手越し(というか手通し?)にポテチをつまみ出し、美咲さんの不満そうな視線を無視した。綾さん、ク~ル。


ああでも、結構不安だなあ。綾さんみたいにちゃんと話を聞いてくれて、お友達になってくれる人なら良いんだけど…。お隣の男の人、確か一度、挨拶したことがある…でもどんな人かは全然知らないなあ…。

実は綾さんとは友達になる前にも、マンション前でちょっと話したことがあったので、今回の全く知らない人というのに私は正直引いていた。

それにそれに、失礼だけど、ノーマルに美咲さんが見えるって…ノーマルに情緒不安定な人だったらどうしよう。私とか、綾さんとか、別に見えてたって普通の人だってことも全然あるとは思うけど!

うろうろと悩む私をよそに、せっかく普通に接してくれそうな人が見つかったのだから、もちろん挑戦してみる!と美咲さんは元気いっぱいだ。

「でも美咲さん、知らない人だよ?男の人だよ?」

「綾だってそうじゃん!男女はこの際関係なし!」

「ええ~でもその人、美咲さんを紹介して欲しいって、そういう意味でしょ?」

「恋愛は!お断り!だけど友達は欲しい!そう言えばきっと分かる!」

「でも…」

デモデモじゃなあい!――雄叫びを上げた美咲さんはもうすっかりその気である。


…気持ちは分かるのだ。

美咲さんにできることは、ものすごーくものすごーーーくがんばって、あれ、空耳?ってくらいの声を出すことか、もうちょっとものすごーくがんばって、なんとなーく手が見えるかも、とかしかない。

だから美咲さんは四年前に亡くなってから、私しか話せる人がいなかった。私に出会うまでの一年近くは、完全にひとりぼっちだったという。元は活発で社交的な女子大学生だったらしい美咲さん…寂しいだろうな、と思う。

変な話だけど、幽霊の美咲さんは「生きてるって楽しいなあ」という気持ちを糧に存在しているらしい。

だから、ちょっとしたことで世界がバラ色になったり、この世の終わりみたいな気分になったりする恋愛についてはお断り、なんだそうだし、『寂しい』っていうのが大問題なのも分かっている。

今まで、私がいますよー、なんて言ってきたけど、美咲さんの「生死を左右する切実な問題」を、私だって分かっています。

ただ、その、新しい出会いだってリスクだよね?対人関係って色々あるし…!

ちょっと話したことがあって、いい人だな、と思っていた綾さんを誘うのにもどれだけ勇気がいったことか。


綾さんと美咲さんが出会った日は、二人で美咲さんの将来(…)と友人問題について結構真剣な話し合いをしてすぐの時だった。とりあえず、美咲さんが分かる人をつかまえようって結論になって。

綾さんはその日もクール!って感じで結構怖かったのだけど、振り返った美咲さんの顔がものすごく輝いていたのに背中を押されました。それで思い切って誘ってみたらお茶に来てくれて。なんだかんだ美咲さんの事がばれても、初めはちょっとびっくりしてたけど、すぐに落ち着いて私達の話をきちんと聞いてくれた。

あの日の綾さんもかっこよかった…こういう大人なかっこよさには、ちょっと憧れてしまう。

今回も、どんな返事をしても大丈夫だ、と前置きしてトリさんのことを紹介してくれた。綾さんは本当にかっこよくて、それに優しい人だ。

そうだよねえ。やっとできた友達の綾さんが、さらに友達を増やしてくれようというのをスルーするのは…できない相談だよねえ。

うう。今になって結果を見ると、勇気出して良かったなあって思うんだけど。


私がちょっと臆病なのかも。

美咲さんはもう爛々と目を輝かせ、綾さんにトリさんの情報をせっついている。

綾さんのときだって、目の色が違う!って感じで、すっごいやる気だったもんなあ。

あまり乗り気でないままに、仕方ないなあと呟く私を、綾さんがまあまあ、と慰めてくれた。

「そこそこ大丈夫だと思うよ。

 サークル周りの評判を聞いてみたけど、ちょっと調子乗りだが気の良い、優しくて頼りになる奴、というのが大方の評判だった。いじられ系でもあるみたいだね。

 前カノとは三ヶ月で別れてだいぶ落ち込んでたけど、変な引きずり方はしてなかったってことだし」

「そうですか…綾さんがそういうなら割と安心かなあ…」

でもでも、今日の昼出た話でどうして前カノの事まで知ってるんですか綾さん…!

「ま、おかしな事になりだしたら言いな。奴のコミュニティには結構知り合いがいるから、そっちから何とかしてあげる」

ふふふ、と笑って綾さんはポテチを口に放り込み、パリパリパリッといい音をさせた。

背中をすっと伸ばして座り、目を細めた綾さんは、なんだかこう、上品な灰色の猫が…鼠のくびねっこを前足で押さえている、とかそういう感じだった。

綾さん、楽しそう。


ああ、そうか。これって楽しいことなんだ。

そう思ったら、ぽかんと気が軽くなった。よし!

「そですね。そうとなったら、早速!」

楽しくなってきましたと、私達は顔を見合わせて笑った。


そういえば、友達ってこうやって友達の友達に広がって行くものだったかも。

うん、友達の紹介って、なんか良いって聞くよね。ふたりのきっかけは?っていうの。

今回のは美咲さんにその気がないし、恋愛に発展することはないかも知れないけどわくわくしてきた。

会場はうちの部屋だよね。美咲さん混ぜて、外で会う訳にはいかないし。

考えてみれば、男の人を自分の部屋に招くのは初めてだ。

あ、あれ?ていうか、わたし、もしかしたら初めての男友達…??

…。

そうじ、しとこ。

三人目です。

次で完結予定!

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