終末カレー
いつもより少し遅れて起きてきた私の目にはいつも通りの光景が入ってきた。父さんは椅子にもたれかかりコーヒーを片手に新聞を読み、母さんは弟のたかしに弁当を持たせて、私はバターを塗ったトーストを頬張り朝のニュースを見ていた。「各地で正体不明の飛行物体が観測されており専門家は…」朝から変なニュースだなと思った。
「呑気に食べてないで早く準備しなさい!遅れるわよ!」とたかしを追い立てていた母さんは今度は私を標的にする。朝から怒鳴られた寝不足でイライラしている私は「うるさいな!わかってるよ!」と怒鳴り返す。それがきっかけで口論になってしまった。「うるさいって何よ!テレビ消すわよ!」「だからうるさいって、テレビの音が聞こえないじゃん」ブチっと音を立ててテレビが消える。「なんで消すの!?いいとこだったのに」「人の話を聞かないからでしょ!」「まだ時間あるんだからいいじゃん!」「そうやっていつも遅刻するでしょ!」「だるっ」そう言ってトーストを食べ終えた私は着替えに行くために自室に向かった。
そして眠たい体をなんとか動かし支度を終え玄関まで辿り着いた私にまたして上の階から怒号が飛んでくる。
「お弁当持ちなさい!せっかく作ったんだから!残したら許さないわよ!」
本日2回目の怒鳴り声に私はかなり不機嫌になっていた。というかそもそも大きい音が苦手な私は声が大きくいつも怒っているような口調の母があまり好きではなかった。そのせいで最近喧嘩腰になってしまうことが多かった。
そして今回は特段虫の居どころが悪かった私は「いらない!母さんの弁当まずいもん!」と言ってしまった。ほんとはそんなこと言うつもりはなかった。ほんとは母さんの弁当はすごく美味しいと言うものではなかったがまずいと思ったことはなかった。そもそもいつも憎まれ口を叩かれイラッとしながらも私やたかしのお弁当を毎日作ってくれる母さんにそんなことを言うべきではなかった。でも言ってしまった。
しまったと思い、怒鳴り声を覚悟したが返ってきたのは悲しげな声だった。「そう、じゃあ持ってかなくていいわ。お金なら持ってるでしょ。自分で買いなさい。」自分でも言いすぎたと思ったけどどこかバツが悪くなった私は「いってきます」も言わずに無言で家を出た。それが母さんに謝れる最後の機会だったとも知らずに。
学校に着いた私は友人のゆかの席へ向かう。「おはようゆか、朝イチから体育とかだるくない?」「おはよ飛鳥、まじだるいよね」それから私たちが昨日のテレビや今話題のスイーツの話でひとしきり盛り上がっていると、チャイムがなり、私は自分の席へと戻った。朝のホームルームが終わり体操着袋を持って私は更衣室に向かうため席をたった。その時だった、校内放送が流れたのは。「みなさん、突然ですが授業はなくなりました。生徒の皆さんは学校から出ないでください。教職員の皆さんは学校に避難してくる地域住民への対応の準備を。繰り返します。〜」私が慌ててスマホを見ると緊急速報が流れていた。「未確認生物が地球に襲来。早急に避難してください。」私は不意に今朝の変なニュースが頭によぎった。
そして、眩しい光が視界を覆った。
…これが私の覚えている最後の記憶だ。
そして今、私は誰もいない自宅のリビングで静寂の中、一人私はカレーライスを涙でぐちゃぐちゃになりながら食べていた。それは母さんが私のためにラップしてテーブルの上に置いてくれたものだった。冷めていたけど美味しかった、最後の母さんの手料理は。もう二度と母さんには謝れないし母さんのお弁当も食べられない。意地を張らず謝ればよかった。後悔と自分への怒りで私の目からはとめどなく涙がこぼれ落ちていた。
目が覚めた時、世界は滅びてしまった。たった一人の少女を残して。
読んでくださりありがとうございます。もし良かったら感想やアドバイスをいただけると非常に助かります。辛口で結構です。




