小ネタ集
『鳥』
翼がほしいと
自由が欲しいと叫ぶ私は
ただ 声をはりあげるだけで
ただ 立ち尽くすばかり
雨の中飛び立つ鳥よ
君の瞳に私はどのように映るのか
『藍』
例えるなら、私の故郷の海にそれはよく似ていた。
寒さ厳しい雪国の海は決して優しくない。
半透明なスカイブルーが水平線まで続く海とは正反対の、ずっしりとした深い藍色の海だ。
肌の感覚は麻痺し寒さも痛みも感じない。
ずっと藍色の海を見ていると、途端に吸い込まれそうな感覚に陥る。
闇よりも暗い誘惑を放つ藍色の海は小さな波音で私に囁いてくる。
「おいで、おいで、こっちにおいで」
私はその波音に導かれ一歩また一歩と進む。
砂は雪と混じり合いグシャグシャになり不安定で、すぐに足がすくわれそうになる。
ズルズルと足を引きずりながら、もう少しであの魅惑の藍色にたどり着けると思うと心が躍った。
刹那。
ツンとした、塩の香りが私の中に入り込んでくる。
「―――!!」
急にまいこんできた、塩のきつい匂いに足は止まり、ゴホゴホと息がむせる。
そこに沈んでしまえば2度と浮かぶことはない。
生きて戻ることのできない片道切符の誘いだと、呼吸を整えながら気がつくのだ。
そうして、私は正気に戻る。
『家』
アスファルトの街で あせくせと毎日生きてる
右も左も分からないけど 自分なりにがんばってる
心配しないで
時々落ち込むこともあるけど
いいこともたくさんあるんだ
お土産話心にいっぱいためて いま帰るよ
『歌』
因果応報
自己嫌悪
自滅破滅が人生さ
ぼんぼり照らす
夜道で迷子
一人きりで歌おうか
届かぬ音色響かせて
落ちる滴は虚言の現世
現実逃避
言訳三昧
他滅破滅の人生さ
お天道様が
神隠し
一人きりだ歌おうか
見かけ倒しの旋律を
落ちる私は虚言の現世
『唇を噛む』
時がたつにつれ 君の残像が薄れていく
あれほど脳裏に焼きついた声も笑顔も
振り返れば 優しかった手の抜くもりが恋しくなる
暖かいねと頬を寄せ合ったのは 風の冷たい木漏れ日の日
君と溶け合った体温の熱は
ホットコーヒーくらいだったか 初夏の日差しくらいだったか
抱き寄せて知ることも もうできない
消えていく君に比例して 重くなる心の空虚
冬に向かう街角は手が悴んで仕方ない
隣に君がいない現実に 唇を噛む
『私≠彼』
背丈は私と同じ 体重は私のほうが少し重い
華奢な体がコンプレックスだって言うけど
私より細い足首に多少の嫉妬と羨望
視線は同じだから 見る世界も同じ
落差のない景色を共有できるってだけで
心が躍るのは秘密だ
歩くスピードも歩幅も一緒
学校へと続く坂道で先にばてる私は
途中で疲れてゆっくり歩くけど
それでも二人の歩幅と早さは一緒になる
手の平を合わせると 指の関節1つ分の差
ゴツゴツと骨っぽい掌は 少し柔らかめの私の掌とは別で
何気なくギュッと手を握ると
頬を真っ赤に染めた横顔が 私を睨みつけた
『でも、』
面倒ばかり俺に押し付ける癖に
俺のお願いなんて聞いてくれやしない
俺は会いたいって日頃思ってるのに
会えるのは向こうの心次第
自由気ままな彼女に
振りまわされるのは決まって俺だけ
「好きだよ」と囁く 君の笑顔だって気まぐれ
でも、それだけで俺は