お星さまはグレーを知らない
お空のお星さまはいろんな色を知っている。明るい青空色だとか、かわいい桜色だとか、優しい青葉色だとか、それはもう数えきれないほどたくさん。
けれどひとつ。たったひとつだけ知らない色がある。
それが「グレー」
いいや、みんなが想像するグレーじゃあない。お空の上からいろんなものを見ているから、灰色はちゃあんと知っている。雲が泣きだしそうな曇り空や、ものが燃える煙、残った灰がグレーなのはわかっている。
お星さまが知らないグレーはそういうことじゃあない。そういうことじゃなくて、「グレーのひとを見たことがない」っていうこと。
ひとは様々な色を持っている。元気なオレンジだったり、悲しいブルーだったり、恋するピンクだったり、優しいグリーンだったり。ひとはそれぞれ違った色を持っている。
でもお星さまは見たことがない。グレーを持ったひとを。みんな、小さなものから大きなものまで、自分だけの個性を持っていて、鮮やかな色に囲まれている。永遠に変わらないひとはいない。物事は少しずつ移り変わってゆく。
無個性はない。無限はない。グレーのひとは存在しない。
だからお星さまは不思議に思っている。自分は普通だと諦めかけているひとを。みんなみんな、こんなにも鮮やかな色に染まっているのに。
赤黄橙、時には悲しい色に染まってしまうひとだってたくさんいる。誰でも経験するだろう。けれど、悲しい色に染まってしまったひとにも、もう一度立ち上がる力がある。強く、力強く立ち上がることを、お星さまは知っている。悲しいことも辛いことも乗り越えて、もう一度幸せを掴むんだと。
諦めてはいけない。立ち上がって。前を向いて。
お星さまは届かないと知っていながらも真下のひとに声を掛ける。何度も、何度も、声を掛ける。
頑張ってるのを知っているよ。休憩だって大事だよ。
お星さまは届かないと知っていながら真下のひとに声を掛ける。何度も、何度も、声を掛ける。
たまに、極稀に。真っ黒になって消えちゃう人もいる。そんなとき、お星さまは悲しくなって泣いてしまう。
もしも。
もしも、この声が届いていれば、あの人は消えなかったかもしれない。
お星さまは味方だよ、きみのことを見ているよって。そう言えたなら助けられたかもしれない。
きみの色だって唯一無二で、とってもとってもきれいな色だよ、って。
あーあ。みんな自分の色が見えたならよかったのに。
ああ、でもそうか。そういえば。
お星さまも自分の色を知らない。未だ自分の個性が何なのかわからない。
果たしてぼくにも個性はあるのだろうか。
ぼくはどんな色で輝いているのだろう。
輝けていなかったらどうしよう。
お星さまだって時々そんなことを考える。
結局はみんなみんな一緒なんだね。
周りのいいところばっかり見つけちゃって、羨ましくなって。自分のことなんてよく見ずに比較して、劣っていると勘違いしちゃって。
でもね。きっときっとそれも個性なんだよ。ひとのいいところをたくさん見つけられる、それも充分立派な個性。
お星さまはたくさんの色を知っている。
今日も明日もお空の上から、たくさんのひとの鮮やかな色を見ている。
そして。
お星さまは未だ、グレーを知らない。
ご覧いただきありがとうございました。
自分のいいところを見つけるのが苦手。
他人を羨んじゃうのも、
きっと他人のいいところを見つけられる才能があるから。
誰かに届きますように。