4.冒険者の現実(1)
俺は協会裏手、路地裏に倒れていた。
頬は大きく腫れ、えげつない痛みをジンジンと感じる。
そして目の前には倒れる俺をじっと見ている、ガタイの良い男が立っている。
俺が散々煽って覚醒の糧にしようとした喧嘩相手だ。
俺は路地裏に到着するなり威勢よく魔法を発動しようとした。
勿論相手が死なない程度の威力の低い魔法を。
だが、魔法は使えなかった。
またしても発動しない事に戸惑っているところに、ガタイの良い男は俺に拳を叩き込んできた。
強烈な一撃だった。
メガネは割れはしなかったが飛んでいく。
俺は拳を受けた衝撃でそのまま倒れた。
体は動かなく起き上がることもできない。
俺は一撃でノックアウトされた。
ガタイの良い男はパンッパンッと手を払う。
「なぁ兄ちゃんよ、何が気に障ったのかわからねーがこれで気は済んだか?」
男はどこまでも性格が良かった。
あんな煽ってた奴なんて、俺だったらタコ殴りにしてる。
そんな力ないけど。
「仲間の手前、あそこまで喧嘩売られちゃあ買わねーと仲間まで舐められる。1発ぶん殴りはしたが、相手が俺で良かったな。他の奴らに喧嘩売ってたらもっとひでー目に遭ってたぞ」
「なぁ...一つ言っていい.........?」
「ん、なんだ?」
俺は空を見ながら大きく息を吸い。
「思ってたのと違ーーーうッ!!!!!!!!」
「は?」
夢にまで見た異世界転生、せっかくのチート能力も魔法は使えないうえ、それ以外では無双するには役に立つものでもない。
溜まりに溜まった不満が爆発した。
「なんでせっかく『賢者の知識』なんてチート能力貰ったのに...肝心の魔法が使えないんだよ!これじゃ俺何にもできないじゃん!!」
「おいおい落ち着けって!」
「こんな使えない能力じゃなくて...強力な武器とか寄越せよ!!ここはゲームの世界じゃないんだ!!いきなりこんな世界に...力もなーんにもない状態で放り出されて何しろってんだ!!せめて魔法かスキルをしっかり使える状態にしてくれよ女神ーーーー!!!!!!!」
自分でも、なんて情けない男だろうかと思う。
自分ができない事を全て女神のせいにしようとしている。
もはや俺の中に異世界でのワクワクやドキドキなんてものは消えてきていた。