3.職業『賢者』(2)
強制覚醒イベントってやつじゃね?
そもそもここに来た目的はチンピラかモンスターに絡まれて、火事場の馬鹿力的な感じで魔法を発動し、全知全能の最強の賢者になる事だったじゃん。
そして今、俺に絡んできているチンピラ(冒険者)......まさに望んでいたシチュエーション。
よし、ここは勇気を振り絞って...。
「おーい兄ちゃんよ、聞こえてっか?」
「......失せろ」
「...あ?」
「失せろって言ったんだよ、筋肉」
正直心が痛い、相手は別に悪い事をしている奴らでなければ、感じの悪い冒険者でもない。
ただ賢者について聞いてきただけだ。
(しかし許してくれ、これは俺がこの世界でチート生活を送るためなんだ。貴方の屍を踏み越えて俺は行く!)
ガタイの良い男は「筋肉」と言われ怒る...と思いきや、ニヤッと笑った。
むしろ男の後ろにいる仲間達の方が怒っているような感じがする。
「兄ちゃんよ、若ぇからってあんま暴走すんのは良くねーぞ?」
「聞こえなかったのか?俺に構わずとっとと失せろって言ってるんだ」
ガタイの良い男は頭をぽりぽりと指でかき。
「あー、なんか気に障ったか?悪いな邪魔してよ」
ガタイの良い男はそう言うと、俺に背を向け離れようとした。
(え、普通に去っちゃうの?)
そのまま帰っちゃったら煽った意味がないんだけど。
「待て」
俺は仕方なく引き留めた。
ガタイの良い男は立ち止まり、若干困惑してる顔をこっちに向ける。
「え、いや兄ちゃんが失せろって...」
うん言ったよ、言ったけど待って。
てっきり煽ったらすぐに殴ってくるかと思ってたんだけど、どうやって戦いに持ち込むべきなのか...。
男の方からきてくれる感じはしないし.....俺からいくしかないか。
「丁度いい、職員さん見てて下さい。賢者の戦いを」
男職員は戸惑いながらも、「え!いやちょっとここで喧嘩は困りますよ!」と俺を止めようとする。
ガタイの良い男は、「よせよせ、俺は争う気とかは一切ねーんだ」と、両手を挙げ戦う意志がない事を伝えようとしてくる。
見た目の割にかなり性格が良い人なんだろう。
いきなり頭のおかしい奴(俺)に煽られても怒らず、争いを避けて退くあたり本当に人ができてる。
できれば見た目通りもっと悪役っぽい感じであってほしかった。
「おいおいその筋肉は飾りか?喧嘩の一つもできない臆病者なのか」
俺はここぞとばかりに煽った。
「おいお前!!さっきから黙って聞いてれば、リーダーに向かって失礼だろ!!!」
怒ったのはガタイの良い男の後ろにいた仲間の1人だ。
革と思われる装備を着た男がキレながらこっちに向かって歩いてくる...が、ガタイの良い男が肩を掴み止める。
「わかったよ兄ちゃん、だがここじゃなんだ....店の裏でやらねーか?」
ようやくやる気になってくれたらしい、職員に見せられないのが残念だが。
「ああ、いいぜ」
俺は不敵に笑いながら男と共に協会から出る。
男の仲間はついて来ず、どうやら協会内で待っているようだ。
まぁそんな事はどうでもいい。
ここから俺の伝説は始まる。
気がつくと俺は路地裏に倒れていた。