最終話.来るべき時に備えて
2時間以上は経っただろうか。
彼との会話から、この世界に関する情報がかなり入手できた。
特に重要なのは三つ。
まず一つ目、目標であった魔王の存在。
こいつはどうやら、童話の話に出てくる悪役であり、昔“いた”と言われてる存在だ。
つまり今、この世界に魔王などというのはいないらしい。
では、あの自称女神はいよいよ何が目的で私をこの世界に送ったのか。
仮説1.送る年代を間違えた。
いや...私の前で過去の世界を見せる時空概念系の『力』の保持者が、そんなミスをするものなのか?
だが思えば、私が目を覚ました場所は真っ暗な極寒世界。
一般人ならすぐに凍死する様な環境に放り込むなんて、わざわざ送った張本人がするわけがない。
と考えると、あの自称女神はこっちの世界に関しては、年代も場所も正確に把握できていないのか?
可能性は大いにありそうだ。
仮説2.これから魔王が出現する。
魔王を倒すのが目標ならば、私が生きているうちに再び魔王が現れたのなら嘘は言っていない。
いわば予言の様なものか......これなら確かに神らしいとも言える。
仮説3.目的はない。
そもそもあの自称女神に目的はなく、ただ送るだけの存在......いや、もしや送る事が目的......『力』は人の望みの形......あの自称女神が人を自由に他の世界に移動させれる神の様な存在になりたいと望んだ......それが答えだとしたら.......。
ダメだな、いくら考えてもあの女の頭はのぞけない。
今は仮説2を信じていくしかないか...。
二つ目、雪猿様に関する情報。
どうやらこの世界には災害と呼ばれる怪物がいるらしく、雪猿様って奴はそのうちの一匹らしい。
出現すると周囲約10kmに猛吹雪を吹かせ、空を暗くする厄介な存在らしく、倒そうにもかなりの強さを持っているらしい。
聞くと戦士隊が洞窟に入った時には、空は明るく晴れており、私が遭遇した真っ暗な世界と吹雪は雪猿様が近くにいた証拠。
マルコシアスの言う話が全て本当なら、雪猿様は現代兵器を持ってしても勝てない存在だろう。
出会わなかったのは運が良かったとしかいえないな。
三つ目、彼らの正体。
マルコシアス達は、この世界では亜人と呼ばれており、種族名は獣人。
狼に馬、ウサギにトカゲなど様々な動物の顔を持ち、個性豊かな種族だと言う。
獣王国は主に獣人が暮らしており、南部では都市が存在するが、北部はここの様に村々が点在し、それぞれが戦士隊なる自警団を保有しており、自給自足の生活を送っている。
ロヴァエミ村もその一つで、マルコシアスは自警団のリーダーでありながらこの村の村長らしい。
「って感じだ、俺たちロヴァエミ村もそんな村の一つだってことよ」
マルコシアスからある程度、この世界に関する情報は貰った。
特にロヴァエミ村に関しては、誇らしげに長々と語ってくれた。
「なるほど、色々聞かせてもらってすまないなマルコシアス。しかし....本当に信じるのか、私の話を」
私は情報をくれたマルコシアスに礼を言うと同時に、引っ掛かりを感じた。
いきなり他の世界から来たと言っても信用されるわけがないのに、マルコシアスは私の話をほぼ全て信じている様子だった。
「ん?他の世界から来たって事か。まー世界は広いし知らない事だらけだ、そういう事もあるのかもなって思ってな。それに....タカハシさんは嘘をつく様な人じゃない、わかるんだ。真っ直ぐな人だ。俺正直者は大好きだからよ、嘘だなんて疑うわけがない」
真っ直ぐなのはあんたの方だ。
少し、心の中で笑みを浮かべながらお茶を飲み、ティーカップを空にする。
「ごちそうさん、美味しいお茶だった」
「あいよ......ところでタカハシさん、今後どうすんだ?」
私は席を立ち、その言葉に少し考える。
「魔王とやらがいないのなら、雪猿様に遭遇しないよう野宿でもしながら旅をして、どっか落ち着ける場所を探す....かな」
帰るべき家も国もない、冷静に考えて別世界で独りぼっちとは、なかなか辛いな。
「そう言うと思ったよ。どうだろ、タカハシさんが良いならこの村に住まないか?」
マルコシアスは笑顔で提案してきた。
「そりゃありがたい提案だが、私の様な余所者がいて迷惑じゃないか?」
「実は......30年程前に現れた例のゴブリンオーガのせいで、周辺の村にかなり被害が出ててな、倒しても倒してもどっからか沸いてくるせいで、こっちの被害がどんどん増えてきてんだ」
ゴブリンオーガ....あの洞窟に来たのも、村人の獣人が攫われた件の調査と、ゴブリンオーガの討伐が理由だったな。
「それで戦士隊の数も増やしたいんだが、なにぶん人手不足でな......そこでどうだろう、タカハシさんは俺の前でゴブリンオーガを倒した、ぜひその力を俺たちのために使ってくれないか?」
「つまり、戦士隊への入隊のお誘いって事か....」
「頼む!」
マルコシアスは頭を下げ、願ってくる。
後頭部しか見えないが真剣な声と姿勢から、彼の本気の想いが伝わってくる。
きっと彼は、今までもこうやって村人の安全を第一に動いてきたのだろう。
そもそも私は彼らに命を救ってもらった身、何か恩返しをと考えていたが、それなら......。
「顔を上げてくれマルコシアスさん」
私はマルコシアスの頭を上げさせ、右手を差し出す。
「私はあなた達に命を助けてもらった、そのくらいで恩を返せるのであれば.....戦士隊への入隊、申し込ませてもらう」
「...!ありがとう....タカハシさん!!」
マルコシアスは私の右手を握り返す。
対覚醒者部隊の規約違反だな、他国の軍や自警団組織への入隊なんて。
規約違反者は犯罪者扱い......いや、そんな規約ももう無意味か。
「さて....早速だが、この世界での戦い方を実戦形式で教えてくれないか?」
この世界のゴブリンの様な敵対亜人や凶暴な獣、それらに対応できるよう新たな戦闘術を身につけておく必要がある。
それに、教えてくれたスキルとか言う技も手に入るのなら入手しておきたい。
「早速...?まだ傷が開くかもしれないから大人しく寝てろ!!」
「っち」
こうして私は、戦士として再び戦いに身を投じていく事になった。
来るべき魔王との戦いに備え、彼らを守る鉄の弾となるために......。
登場人物
【高橋武智(43歳)】
元日本国自衛軍第06対覚醒者部隊『ハバヤ』所属。
異世界へ転生後、ロヴァエミ村の戦士隊の一員となり、村を守る戦士となった。
来るべき魔王との戦いに備えて、亜人との戦闘訓練を毎日欠かさず行っている。
大のコーヒー好きで、なんとか異世界で飲める方法を探しており、南に存在する隣国『アメリア王国』にコーヒーがあるかもしれないと、行こうか検討中。
・力『身体銃化』
体の腕や足、指などを銃に変える事ができる。
弾は自身の血か水分、もしくは骨などの体の一部。
『力』の影響か、血や骨の回復力が異常に高い。
・女神権能『回避』
自身の目で見えた攻撃は自動で避ける権能。
例えレーザーなどの光速技だろうと一瞬でも見えたら(自身が認識しなくても)避けれるが、背後からや暗闇で何も見えない状態だと普通に当たる。
自動発動型のため、本人はこの権能を持っている事に気づいておらず、最近正面からの攻撃を軽く避けられる事を不思議に思っている。




