49.洞窟
洞窟内部へ入ってから5分程経過しただろうか。
内部は一本道で、松明が一定間隔で壁に掛かっているが全体的に薄暗い。
懐中電灯がなくとも進めなくはないが、先程の奴は少なくとも服を着て斧を使う程度の知能があった、罠を仕掛けている可能性があるかもしれない。
ゆっくりと慎重に、床を照らしながら進むべきだ。
そして床を照らすと......入口では寒さで気付けなかったが、何かを引きずった様な血の跡が薄っすらある。
さっきの奴が獣でも狩って奥に持っていったのか?
それからしばらく歩いていると、強烈な臭いを感じた。
間違いなく血の臭い、それも腐った死体の腐敗臭と思われる臭いと合わさって、一呼吸するだけでも一般人なら吐き出すくらいにはひどい臭いだ。
前へ進むにつれ臭いは激しさを増し、少し眩暈がしてくる。
首に巻いてる服を鼻に当て、臭いに耐えつつしばらく歩いていると、前方に少し開けた場所が見えた。
物音を立てないよう慎重に中を覗くと、辺りは血だらけで、地面には体をバラバラに切られている人並みサイズの狼と思しき動物の死体と、真っ赤な毛のキツネ?らしき頭が転がっており、毛をむしり取られている動物の死骸まである。
さながら地獄の処刑場を思わせる部屋だ。
流石にここまで残虐な光景は見た事がなく、一瞬吐きそうになったが、対覚醒者部隊の厳しい訓練を思い出し、なんとか耐えた。
ここは恐らく、捕えた獣を処理する調理場的な場所なのだろう、衛生面が最悪すぎるが。
いま首に巻いている毛皮もここで作られたとしたら......いや考えないでおこう。
そして問題はさらに奥、1番奥に先ほどの緑色の人型生物によく似たのが3匹いる。
1匹は寝ているのか横たわっており、その少し先にいるもう2匹は解体した肉を食っているようだ。
肉を手掴みで食い、口や体は血で汚れている......最初のやつ同様に知能は低そうで会話は出来なさそうだ、見つかればまた殺しにくるだろう。
だがこの先に進むには奴らをどうにかしなければならない......戦うしかないな。
しかし、さっきは確認のために使ったが、まだこいつらの仲間が奥にいるのなら、銃を使って大きい音を出すわけにはいかない。
銃を使わずに制圧する必要があるな...。
私は手に持つ懐中電灯を光を消してから仕舞い、足元に転がっていた小石を人型生物たちの奥の空間に投げた。
投げられた石は地面に当たり、音を鳴らす。
その音に反応した2匹の人型生物は、石が落ちた奥の空間に振り向く....その瞬間、私はナイフを取り出し、音を立てずに走り出す。
まるで忍者にでもなったかのような気持ちで駆け、走っている最中にすれ違う寝ている人型生物を素通りし、奥の2匹を狙う。
あと2秒で2匹同時に仕留めれる距離に入る所だったが、何かに勘付いたのか右の人型生物の顔がこちらに振り返る。
大声を出されて仲間を呼ばれると面倒だ。
まず右の奴を殺すことに決め、何が起きてるのか理解させる前に、そいつの首をナイフで切った。
首から血が噴水のように湧き出て、苦しむ間もなくそいつはすぐに倒れる。
そして右の奴を切った瞬間....。
「ギャ!?ナンダオマエッ....!!!」
声を発したのは左にいる奴だ。
ようやく私の存在に気づいたそいつは、すぐに状況を理解したようで、腰に下げていた小さいナイフを手に取ろうとする。
知能が低いと思っていたが同じ言語を喋っている事に驚き、一瞬攻撃を止め会話をしようと思ったが、まだ1匹寝てるやつがいる。
そいつを尋問すればいい話であり、こいつは殺しても問題ない。
そう判断し、攻撃の手を止めず、そいつに叫ばれないようサバイバルナイフを床に捨て、両手で首を掴む。
そのまま床に押し倒し、首を絞める力を強めた。
そいつは呻き声を上げつつ必死に首を絞めている私の腕を叩くがそのまま私は手に、持てる力を全て出し、首の骨をへし折る。
すると人型生物の抵抗がなくなった.....その時だった。
「シ、シンニュウシャ....!!!」
先程まで寝ていた奴が、さっきの床に押し倒した際の音で目が覚めたのか、起き上がっていた。
そいつは私、いや私の奥の空間に向かって何か叫ぼうとするが、その前に私は床に捨てたナイフを拾い、そいつめがけて投げる。
できれば尋問したかったが、この距離で奴に叫ばれないよう拘束するのは今持つ装備では難しく、仕方なく諦めた。
ナイフはそいつの喉に命中し、そいつはそのまま倒れる。
声にならない叫び声を上げながら喉に刺さったナイフを抜こうともがいているが、すぐさま私は走り、そいつに刺さるナイフを抜き取り、そのままそのナイフでそいつの頭を3回刺し、絶命させた。
3匹の死を確認し、なんとかこの場は制圧できた。
一息つきつつ懐中電灯を再びつけ、無惨な姿となった3匹の人型生物を見つめる。
新たに得た情報は、こいつらは言語を理解でき喋れるという事、つまり人間と意思疎通が可能な生物のはずだ。
しかし最初のやつは私が話しかけても一切応じなかったあたり、こいつらは人間を敵としか見ていないのか?
厄介で面倒な奴ら......いや、そうあれと覚醒者に作られた可能性もあるか。
尋問さえできていればと少し後悔しつつ、改めて部屋を見渡す。
やはり一際目を疑いたくなるのは人並み程大きいサイズの狼だ。
刻まれた肉体は激しく欠損し、一部毛をむしり取られたような箇所もあり、正確な情報が得られないが少なくとも顔は狼だ。
だが体はまるで人間のような筋肉を持っている。
警察時代に狼化の『力』を持つ覚醒者と戦ったことはあるが......それとは少し違う。
あれはあくまで人並みサイズの狼になるだけであり、この死体はまるで狼が擬人化したような姿だ。
恐らく四足歩行ではなく、人と同じ二足歩行の生物......牙ではなく、人間と同じ何らかの道具を持って戦う生物の様に見える。
あの緑色の奴らは、多少知能があり銃でも持たせたなら厄介だが、体が小さいおかげでさほどの脅威にはならないだろう。
それよりもこの生物の方が危険度で言ったら遥かに上だろう。
もしこれが人並みの知能を持ってる上、狼の特性をも持っていたら.......覚醒者並の脅威だ。
とりあえずこいつの事は警戒対象として記憶に残しておき、私は再び洞窟の奥に向かって歩き出す。




