2.異世界転生(3)
一通り周りを見た俺は、受付に向かって歩く。
歩いていると、なんだか周りの視線が集まってきているような気がした。
多分原因は服だろう、ジャージなんて絶対異世界には存在しないだろうし珍しがられてるはずだ。
視線が集まるのは少し怖い。
だが別に絡まれる事なく受付に到着できた。
受付にはウェイトレス女性と同じで、谷間を強調する服を着た茶髪ロングの若く可愛い女性と、スーツを身につけ身だしなみをしっかりと整え如何にも仕事ができますアピールをしている若い男がいる。
さてどっちに行くか、異世界に来て最初の選択肢だ。
当然女性の方だ、可愛い女性と話せるチャンスを無駄にするわけがない。
俺は女性の方へ向かおうと足を動かした.....が、気がつくと男の方に向かっていた。
無理、あんな可愛い女性と話すなんて。
引き篭もり歴約2年の童貞には難易度が高すぎる。
女神様の時は緊急事態だったから話せたけども、意識し始めると絶対会話にならない、絶対ごにょって恥をかく。
仕方なく俺は男の前に立つと、「いらっしゃいませ!ようこそリンス冒険者協会へ!」と、明るい声で出迎えてくれた。
男は続けて喋る。
「本日はどうなされましたか、何か依頼の相談でしょうか?」
俺の事を街に住む一般人と見ているのだろうか。
「えっと、冒険者登録をしたいんですが...」
「あ、冒険者登録ですか!畏まりました、書類をお出し致しますので少々お待ちください!」
男はそう言うと受付カウンターから書類を取り出して俺に見せてきた。
なんとなく冒険者登録って、冒険者になります→水晶らしき物で職業やステータスチェック→今日から俺も冒険者!....みたいな感じだと思ってたけどこんな事務的手続きなのか。
一つ夢が潰れた様な気がした。
「ではご存知かもしれませんが規則ですので冒険者の説明をさせていただきます。冒険者というのは、モンスターや獣、場合によっては盗賊などの犯罪者の退治、薬草や鉱石などの採取、この都市以外では亜人の討伐などもあり、それらの依頼をこなす者の事です。」
賢者の知識で知っていたが、ゲーム『ファンクエ』とほとんど同じ仕様の冒険職だな。
それから男の職員は冒険者保険やパーティーやギルドの仕組みなどを話してくれた。
冒険者保険は簡単に言えば生命保険だ。
依頼をこなしている最中に死んだら遺族に金が支払われるらしい。
俺には関係のない話だ。
そしてパーティーとギルドの仕組み、この世界の大抵の冒険者は『パーティー』というグループを結成して活動している。
そしてこのパーティーの人数が10人以上になったら協会にギルド申請を行え、承諾された場合『パーティー』から『ギルド』に変更することができる。
ギルドになれば協会と国から特典として、協会の所持する訓練所の無料使用、武器や防具などの装備の割引、さらに人数が30人を超えたらギルド拠点となる場所....一軒家の提供などなど、かなり太っ腹だ。
さらに、互いを高め合う目的のためか『ギルドランキング』というものが存在する。
一部の国では違うが基本完了した依頼の数、メンバーの総数、凶悪モンスターの討伐....などでランキングは決まるらしい。
一通りの説明を聞き、俺は心の中でニヤケ笑いが止まらなかった。
この『賢者の知識』はきっと誰もが欲しがる権能だ。
冒険者となり活躍すればどのギルドからも誘いが来ることは間違いない。
.....けど誰かの作ったギルドに入るのは個人的に嫌だな。
やはりここは1からパーティーを作り、俺に選ばれし英雄達でギルドを結成するのが王道でかっこいいか。
俺が心の中でそんな事を考えている間も男職員の説明は続いた。
「...という事で以上で説明は終わらせていただきます。それでは冒険者カードを作成致しますのでご職業を教えていただけますか?」
「え、あ...あぁ職業ね............」
何と言えばいいのだろうか。
冒険者達はそれぞれ職業を持ち、剣を扱う『剣士』、魔法を扱う『魔導士』、『アーチャー』に『拳闘士』など....。
賢者の知識で知っていたが、よくある異世界ものみたいに水晶だとかで冒険者の適性を調べることとかはせず、職業は自己申告制。
さて俺の職業は何でしょうか、答えは......。
知らん。
魔導士と言いたいところだが、今は魔法を使えない。
職業を申告したら本当にその職業の最低ライン......魔導士ならば中級魔法を1個、アーチャーは的当て、剣士は模擬戦などで超えているかを確認される。
なのでまだ魔法の撃ち方を知らないから魔導士なんて言えない。
しかし冒険者になるからには何らかの職業を言わないといけない。
「...どうしましたか?」
受付の男職員はじっとこっちを見てくる。
俺は顔を斜めに傾け、手を顎に当て目を閉じて考え、ついに捻り出した。
「俺の職業は........賢者です」