44.至福はこれからも....
「ん...んぅ........」
「トラジディ!トラジディが目を覚ました!!」
トラジディの目が少しずつ開き、その横に座っていた僕はクラージとハイドに向けて声を上げた。
あれから十数分経ち、その間クラージとハイドが周囲を警戒し、モンスターの接近に備えて離れていたからだ。
別個体のカイドラッシュやこの森に住むモンスターと今遭遇すれば、まともに戦えるのがクラージとハイドだけの状況のため、注意深く警戒している。
だが、報告を聞いたクラージとハイドはすぐさまこっちに走ってきた。
「本当ですか!良かった!」
そして、僕の隣に座っているマジックもほっ...と、一安心した様子だった。
「トラジディ、聞こえる?」
トラジディは目をパチパチとさせ、僕の方をじっと見ている。
「ミチオ...ここは...?」
トラジディが口を開いた。
「ここは晴れの湖って場所。カイドラッシュ達はマジックが倒したからもう大丈夫だよ!」
嬉々として喋る僕の“マジックが倒した”、と言う発言が気に入らなかったのかマジックが、「み・ん・な・で」と訂正する。
そしてクラージとハイドもトラジディの元に着き、トラジディの様子を見た。
「トラジディ、とりあえず、安静に、しとけ」
「今は獣もモンスターも見当たりませんので落ち着いて休んでくださいね、トラジディ」
2人はトラジディの無事を喜びつつ、無理をしてすぐに立つ必要はない事を伝える。
「そうか.......今は...ひとまず安全なんだな......すまないな、リーダーが足引っ張って...」
「本当よ、もう二度とこんな危ない事しないでよね」
マジックは若干不貞腐れなが言い、トラジディは目を動かし僕を見た。
「ミチオ......こんな姿で言うのはあれなんだが......本当にごめん...お前のこと...追い出して...」
その目からは深い謝罪と後悔が伝わってきた。
謝罪ならもう受けたし、トラジディのおかげ....と言うべきなのか、イリスさんとも出会えた。
そりゃ追放された瞬間は、今まで経験したことないくらい絶望のどん底へ叩き落とされた様な気分だったけど、今はほんの少しだけ感謝してるくらいだ。
「もういいよその件は、気にしてないからさ!」
「そうはいかない....俺はこれからもずっと謝り続ける......それくらい自分のしたことは....許されないことだから....」
「そうよミチオ、1〜2発くらい殴る権利あるわよ」
「マジック、黙ってなさい」
軽口をたたくマジックだが、クラージが抑制する。
「それで......都合がいいのはわかってるんだが.....またパーティーとして一緒にやっていってくれないか....頼む...!」
トラジディの顔に力が入り、必死に頼んでいることがわかる。
けど......パーティーには戻りたいけど....今はもう、それ以上に....。
「ごめん、僕....やりたいことが....できたんだ」
トラジディの言葉を拒否した僕をマジックだけが驚いた顔で見て、クラージとトラジディは残念そうな顔をした。
「え!?ミチオ戻ってくれないの!?」
「うん、ごめんねマジック」
「嘘でしょ!?なんで!?」
マジックは理由を聞こうと必死に迫ってきた。
「マジック。どう、生きようと、ミチオの、自由、だ。詮索、してやる、な」
「それはそうだけど......」
ハイドがマジックを嗜め、マジックはしょんぼりしている。
「いや、いいよハイド。皆んなに街に帰ったら紹介したい人がいるんだ。僕を救ってくれた人なんだ!」
「そのお方と、ミチオがやりたい事と関係があるんですか?」
クラージがしょんぼりしているマジックの代わりに聞いてくる。
「うん!その人のおかげで僕は今ここにいるんだ!」
皆んなに早く会わせたい。
会って皆んなでお茶がしたい。
イリスさんに仲間のことを、仲間にイリスさんの事を紹介したい。
そんな気持ちで僕の心は一杯だ。
「そっか......じゃあ....元リーダーとして、しっかりお礼言わなきゃな」
「あ....トラジディ、その....僕からもお願いがあるんだけど...」
「ん....なんだ?」
「あのさ....都合がいいのはわかってるんだけど、また皆んなと...たまにでいいから冒険したいなって......ダメかな...?」
マジックとクラージの顔に笑みが溢れる、そしてトラジディの顔にも。
「ミチオ....いつでも帰ってきてくれ...!俺たちは....いつでも待ってるからな...!」
ほんの少しだけトラジディの目に涙が浮かび、釣られるように僕の目にも浮かんでしまった。
「うん...!!ありがとう、トラジディ!」
ようやく全てが終わった、そう思うと肩の力が抜けてポロポロと涙が落ちてくる。
「使う、か?」
ハイドは僕とトラジディにハンカチを差し出してくれ、僕とトラジディはそれを受け取り涙を拭いた。
「さーって、それじゃ今回の件でトラジディがリーダーとして少し不甲斐ない事もわかったし、これからは私とトラジディのダブルリーダーでやっていくわよ!!」
「そうですね、トラジディ1人にリーダーの責務を押し付けて今回の事が起きたと言ってもいいでしょう。なのでこれからは私とハイドが副リーダーとしてトラジディを支えていきますね」
調子が戻ってきたマジックのダブルリーダー発言は無視して、パーティー『五盟』の副リーダーが決まる。
「ちょっと!私がダブルリーダーの1人だって!」
「マジック、お前は、一度、パーティーを、抜けたから、1番、下、だ」
すかさずツッコミを入れるマジックに、辛辣なハイドの発言が突き刺さる。
「わわ私が1番下!!?いやいや!!百歩譲ってたまに戻ってくるミチオが1番下でしょ!」
「ミチオは特別リーダー枠です」
「何それっ!!??」
あぁ....戻ってきたな...。
マジックが調子に乗って、クラージが諌め、ハイドが冷たい対応をする。
この光景がまた見れて...良かった。
まだ言い争っているマジックとクラージをよそに、僕の心がどんどん温かくなり、至福に満たされていく。
「おい、そろそろ、街に、戻る、ぞ。トラジディ、立てる、か?」
ハイドの言葉に、トラジディは立ち上がる。
まだ完全に回復していないのが、おぼつかない立ち方から伝わるが、歩くのは問題なさそうだ。
トラジディが立つのと同時に、僕も立ち上がり、ハイドが回収してくれた盾を持つ。
「ああ、だいぶ休めたし....お前達のおふざけ茶番劇見てたら元気出てきた」
「私大真面目なんですけど!?」
「大真面目であなたがリーダーになったらこのパーティー終わりですよ」
「魔力回復したら覚悟しなさい....!!」
やれやれとハイドがマジックを背負い、僕らは歩き出す。
森の出口を目指し、街へと帰るために。
女神様......女神様の言う本当の幸せとは、こんな事を言うんですね。
あなたのおかげで僕はこの上ない至福に満たされ、最高の仲間達と、心から支えたい人と出会えました。
この世界で僕は、これからも生き続けます。
本当にありがとう.........かろんさん。
登場人物
【長崎道尾→カルス(あだ名はミチオ)[18歳]】
麒麟中学卒業後は朱雀高校に入学。
実家がパン屋だったため、よく母の手伝いでパン作りをしていた。
父親が強姦殺人事件を起こし死刑囚となったことが原因で中学、特に高校で非人道ないじめを受け、限界を迎えた道尾は高校1年で自殺した。
転生後は良き両親の元で育ち、幼馴染のマジックとクラージと共に17歳で冒険者デビューをする。
トラジディとハイドとは同じ年に出会いパーティー『五盟』を結成した。
その1年後、帝国の侵略でトラジディと揉めるも和解、現在は主にイリスのパン屋で働いており、時にトラジディ達と冒険に出る毎日を過ごしている。
これを機にパーティー名は『五盟』から『五心』に変更された。
・力『母親孝行』
自身の死後、母親の運を爆発的に上げるだけの力。
・女神権能『自動盾』
どんな攻撃だろうと防ぐ盾が自動的に出現する。
17:00になると1日5回分溜まり、ストック可能なので貯めれば貯めるほど、戦闘で無敵になれる。




