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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第四章『転生追放』

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42.冒険者の覚悟

 ここは『夜の森』、光のない暗い世界で唯一太陽の光を浴びれる場所。

 50m程の断崖絶壁と、それの下に『朝の湖』呼ばれる小さい湖があり、湖の正面には木々のない少し開けた場所がある。

 その湖に向かって魔法の杖を構え、崖の上を見ながら立つ魔導士、マジックの姿があった。


「......まだなの」


 マジックはそわそわと落ち着かない様子だ。

 彼女が待っているのは、リーダーであるトラジディを連れて来るミチオ、そしてそれを追ってくるであろうカイドラッシュの群れだ。


 イルノニアにてミチオと合流したマジック達はトラジディ救出のための作戦会議をしていた。

 カイドラッシュからトラジディを連れて逃げるのは不可能と判断し、倒す方向で考える。

 そこでマジックが提案したのは、マジックがかつて遭遇した異国の学生服の様な服を着た魔導士から学んだ、雷の上級魔法だ。

 あれならばカイドラッシュ5匹纏めて倒せるはずと、仲間と話して決まった。


 次の問題はどこで撃つかだった。

 夜の森の中は木々がある上暗く、命中率が下がるため、確実性がない。

 なので、唯一光のある“晴れの湖”で決まった。


 次に役割分担、ミチオはトラジディの捜索。

 ハイドとクラージは晴れの湖までマジックの護衛と、クラージーは夜の森で迷わぬようマジックに聖魔法<サイン・オブ・ライト>を使い、マジック以外の3人にマジックの現在地を共有をする。


 晴れの湖に到着し、マジックは待機、ハイドとクラージは護衛が完了しミチオ達の捜索に出た。

 他のモンスターに襲われないことを願いつつ、マジックはただ、ここで待つしかできないのだ。


 だが一瞬たりとも気は抜けない。

 いつ、あの崖の上からミチオ達が飛んでくるかわからないので、いつでも即座に上級魔法を撃てるよう身構えておかなければいけない。

 数十分後かもしれないし、数分、数秒後の可能性だってある。

 だからこそ彼女は、まだかまだかの気持ちで待っているのだ。


「遅い.....16:57.....クラージ達が探しに行って10分......何かあったんじゃないでしょうね......」


 1人腕時計の魔道具を見ながら小言で呟くマジックだったが、次の瞬間、すぐ横の暗い森の世界から足音が聞こえた。

 即座に警戒するが、すぐにその警戒は解ける。

 足音の正体はクラージだった。


「クラージ!それにトラジディ!!」


 クラージはトラジディを抱えて急いでここに来た様子だった。

 彼に抱えられているトラジディは血が流れた後があり、傷を治した様子だが治し切れないその怪我から、どれだけギリギリの状態だったかを物語っている。


「マジック!.....ミチオとハイドは?」

「まだ来てないわよ!何があったの?」


クラージは「は?」と小言で漏らし、崖の上を見る。


「ねえクラージ!」

「マジック、もうすぐ来るはずですので構えてください」


 クラージはこわばった顔でマジックにそう言い、マジックは「言われなくても」と構え直す。


 すると崖の上から何か音が聞こえた。


「来た!?」


 マジックは声を上げ、目を細め崖の上を見つめる。

 次の瞬間、ハイドが崖の上から現れ、落ちてきた。


「ハイド!」

「良かった...あとはミチオが来れば...!!」


 ほっと場が安心感で包まれるも束の間、落ちながらハイドが、「ミチオォォッ!」と叫んでいる事で場は再び緊張が高まった。

 ハイドはそのまま湖に落ち、水への落下音が周囲に響く。


「え....ミチオに何かあったの....?」


ハイドを助けようとクラージが湖に入ろうとするが、すぐにハイドは湖から顔を出した。


「ハイド!状況は!!」


 マジックが叫ぶがハイドは崖の上を見て動かない上喋らない。

 すると、崖の上から男の悲鳴が聞こえてきた。

 間違いなくミチオの声だ。


「この声はミチオですか!?上で何が起こったんですかハイド!!」

「ミチオだけ、取り残され、た!」


 マジックとクラージは状況が飲み込めなかった。

 まるで痛みで叫んでいるかのような悲鳴を上げるミチオも、ハイドが慌てている理由も。

 作戦ではハイドが先に降り、その後ミチオがカイドラッシュを引きつけてここに降りてくる手順、予定通りで順調のはずだ。


 「ミチオが上にいるのね!カイドラッシュも一緒!?」

 

 マジックがハイドにそう聞くと、再び上から叫び声が聞こえる。


「上で何が......」


 クラージが小声で呟くと、崖の上からまるで瞬間的に移動でもしたかのように、ミチオが空中にパッと現れた。

 よく見ればミチオの足に2匹の犬型のカイドラッシュが噛み付いており、さらに1匹ミチオが抱きつく形で捕らえている。


 ミチオとカイドラッシュ達はそのまま湖に向かって落ちてゆく。

 さらに後方から赤い巨大な蛙と、巨体の上巨大な腕を持つモンスターが崖から飛び、ミチオに迫ってきた。


「ミチオ!!なんで怪我を!?」

「ねえ!!!撃っていいの!!?」


 ミチオが怪我をしているありえない状況に困惑するクラージとマジック。

 本来の作戦ではミチオが崖から飛び、ミチオ諸共カイドラッシュに魔法を喰らわせる予定だったが、ミチオが何故か怪我を負っている。

 ミチオの特別な力であればそんな事が起きるのはありえない。

 マジックは撃つべきかどうか、判断ができなかった。


「撃つな、マジック!ミチオは、力、切れだ!」


 ハイドの叫び声でマジックとクラージは理解した。

 昔、ミチオが言っていた『自動盾』の弱点。

 それは、その力は魔力を使うのではなく、1日5回、力を補充する仕組みだと。

 つまり、今まさにそのストックが尽き、カイドラッシュに噛みつかれているのだ。


 今のミチオは完全に無防備。

 上級魔法なんて叩き込めば確実に死ぬ。

 

 マジックはすぐに撃つのをやめ、クラージはミチオが湖に落ちた時、すぐに戦闘できるよう覚悟を決める。



「マジック!!!僕ごと撃ってっ!!!」



 マジックが魔法を撃たないことに気づいてか、落下しているミチオがマジックに向かって叫んだ。


「は!?無理に決まってるでしょ!!そのまま落ちて戦うしかないわよ!!!」


 普段のミチオならともかく、今のミチオに魔法を放つのがどういう意味か、それは自分自身でもわかっているはずだ。

 その上での発言だがそんなこと、マジックにできるわけがない。


「お願いだマジック!!!このままじゃ全滅だ!!!僕の事を思うなら撃ってくれっ!!!!」


 マジックは歯を食いしばり、杖を強く握る。


 実際この状況は最悪だ。


 トラジディは勿論、ミチオもあの怪我では誰かが抱えて逃げるしかない。

 しかし2人を背負いながら逃げられるわけがない、かと言って3人でカイドラッシュ達に勝てるわけもない。

 今ここでマジックが魔法を撃たなければ全滅は必至だ。

 マジックも、クラージもハイドもそれを理解していた。


 しかし、クラージとハイドは何も言わない。

 いや、言えない。


 マジックに『ミチオを殺せ』、なんて言えるわけがない。


 しかし、彼らは冒険者。

 冒険者には仲間を見捨てなければいけない時なんてざらにある。

 時に、敵に囲まれ、1人囮として食われている隙に逃げる。

 時に、もはや助からない怪我や毒などを負い、苦しむ仲間を解放する。

 時に、仲間が自己犠牲でモンスターを引きつけてる隙に、仲間ごと殺す。


 彼らはその覚悟を持って冒険者になったんだ。


「ね.....クラージ.........」


 震えた声、震える体、震える目。

 マジックは決断の時が迫り、クラージに救いを求めるかのように声をかけた。


「本当に....撃たなきゃ......ダメ.......?」


 絶望に浸るマジックはクラージに問う。

 マジックの言葉に、クラージの顔は徐々に苦渋の色を見せ、俯いた。


「マジックっ......!」


 苦しそうに絞り出した声で、クラージは言う。


「私たちを.....助けてくださいっ.......!!」


 マジックを汲み、ミチオを殺せではなく、仲間を助けてくれとクラージは願う。

 仲間を助けるためだからしょうがない、そんな理由をマジックに理解させ、そしてマジックだけではなく、仲間である私たちも同罪とマジックに無意識に理解させた。


「....うん.......わかった.........」


 涙が落ち始め、震える手を伝って持っている魔法の杖も震えながら、ミチオに向けて構えた。


「ごめん....ね......私のこと......恨んでね.......ミチオ.......」


 そうマジックは言い、魔法の杖に力を込め魔力を流す。

 すると杖の先端に魔法陣が出現する。


 クラージは、その残酷な現実に直視できず地面を見続け、ハイドは覚悟を決めたマジックを見届ける。


 そしてマジックは、落ちているミチオとずっと目が合っていた。

 涙を流し悲しむマジックを見てミチオは、気にしないでと言っているかのような顔でマジックを見ている。


 そしてついに、魔法は放たれた。


「上級魔法.....!!<ドラゴニック・ライトニング>ッ!!!」


 そう唱えると魔法陣から巨大な雷が現れる。

 それはまるで巨大な龍のような頭を持つ雷で、現れた雷はそのままミチオに向かって進む。

 龍のような頭は口を開き、カイドラッシュ5匹とミチオを纏めて丸呑みにするかのように喰らい、強力な電撃を浴びせる。


 太陽の光よりも眩しい電撃が湖を照らし、後に残ったのは、黒焦げと化したカイドラッシュ達だった。


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