41.絶望の中の光
すぐにトラジディの安否を確認しようと倒れたトラジディの元で止まり、息をしているかを確認する。
幸いまだ辛うじて息をしているが、それもあと数分持つかどうか。
トラジディを腕で抱えて、走ろうとするが。
「っ....カイドラッシュっ!!」
追いついたカイドラッシュは5匹。
馬星<ホースター>に化けた3匹のカイドラッシュは僕らを逃さないように行手を塞ぎ、犬型2匹が僕と抱えているトラジディに噛みつこうと飛び上がった。
盾はトラジディを抱えてるため使えず、僕への攻撃は『自動盾』で防げても......。
(トラジディを守りきれない......!!)
逃げれず、戦えず、守れず、何もできない僕は、せめてトラジディを守ろうと、その身を盾にした。
その時だった。
「<忍法:火遁・爆風弾>」
声とともに火の玉が2匹の犬型カイドラッシュに直撃し、爆発する。
見た目の割にはダメージがないが、爆発音と爆発によって起きる熱波にカイドラッシュ達はたじろいだ。
「この声は....!」
僕が後ろを振り向くと2人の男がいた。
忍者の格好をした男と聖職者の格好をした男。
間違えるはずがない、2人は、
「ハイド!クラージ!」
「遅いので心配してきてみれば....トラジディ、もう大丈夫ですよ」
クラージはすぐに僕が抱えているトラジディに、「<ヒール>!」を使い、クラージの手から光が生まれる。
ヒールの光は、噛みつかれてできた怪我と出血を治し塞いでいく。
「すまない、遅れた」
「ミチオ、トラジディは私が連れて行きます。ハイドと共に奴らをこのまま誘導お願いできますか?」
そう言ってトラジディをクラージが抱えた。
「マジックの方はもう準備できたの?」
「ああ、あとは、放つ、だけだ」
そうなるとあとは、例の場所へこいつらを誘導するだけ。
大丈夫、これで皆んな生きて帰れる。
「わかった、クラージは急いでトラジディを連れて行って。<デコイ>!」
僕がデコイを使うと、カイドラッシュ達は一斉に僕を睨み、向かってきた。
「では、お二人ともお願いしますね!」
クラージはトラジディを抱え、走り出し、僕とハイドも走り出す。
「しかし、よく、トラジディを、ここまで、運んで、きて、くれた、な」
「トラジディ自身が頑張ってくれたから、ここまで来れたんだ」
「そうか、流石、リーダー、だ」
「うん、そうだね!」
トラジディはいつだって頼りになるリーダーだ。
どんなに危機的状況になっても、トラジディはすぐにその状況を挽回する策を練り、先頭に立って行動する。
だからこそ、僕たちはトラジディを信頼してここまでやってきたんだ。
目的の場所まであと1分、あと少しで全部終わる。
(必ず戻るから、皆んなで必ず......!!)
「ん?カイドラッシュは、5匹、いたはず。2匹、いない、ぞ」
「え?」
すぐに後ろを振り向くと、馬星<ホースター>に化けた3匹がいるが、2匹が確かにいない。
「気をつけて!また何かしてくるかも!!」
何をしてくる気なのか考えようとするも、3匹の馬星<ホースター>が再び速度を上げ始める。
「くそ、早い、な」
ハイド1人なら逃げれるかもしれないけど、僕の足じゃ追いつかれる。
「一回だけやるしかない!」
僕とハイドは走るのをやめ、止まり、盾を構え、迫る3匹を迎え撃つ。
「くらえッ!!」
3匹とも僕の方へ噛みついてこようとしたが、先ほどと同じように殴り飛ばそうと僕は盾を前に押し出す。
が、僕の動きは読まれ、躱された。
逆に馬星<ホースター>は前足で僕の胸を殴りつける。
「くっ...!?」
『自動盾』が防ぐが、続いて2匹の馬星<ホースター>が僕の右肩に噛み付き、3匹目の馬星<ホースター>は左足に齧り付く。
しかし、これも『自動盾』が防いだ。
「ミチオ!」
ハイドは急いで僕から馬星<ホースター>を引き離そうとするが、消えていた2匹の内1匹の犬型カイドラッシュがハイドに襲いかかり、動きを止められた。
「くそ....!離せ!!」
僕は右肩に噛みつく馬星<ホースター>を殴るがびくともせず、見えない盾に噛みつき離れようとしない。
そしてもう1匹は前足で何度も僕に攻撃し、『自動盾』が現れては消え現れては消えを繰り返している。
引き離したいが離れない、盾で何とかしたいが前足で叩いてくる奴が邪魔でうまく振るえない。
さらに、この状況で消えていた最後の1匹のカイドラッシュが姿を現す。
大きい鎌持つ、人並みサイズのカマキリの様な生物だ。
見たことのない生物で名前がわからないが、あの赤い瞳から間違いなくカイドラッシュが化けている。
そいつが僕に近づくと、噛みついていた2匹と前足で攻撃していた馬星<ホースター>は僕から離れ闇へと消えた。
僕は即座に盾をそのカイドラッシュに構え攻撃に備える。
そいつは、二つの腕の鎌で僕を斬ろうと振り抜く。
受けようとするも、その鎌は目にも止まらぬ速さで僕を斬った様で、両肩に『自動盾』が発動していた。
「ミチオ!そいつは、まずい!走って、逃げる、ぞ!」
ハイドのどこか慌てている言葉に従い、僕は再び走り出す。
ハイドも僕の前を走り、目的の場所までただただ走り続ける。
「くっ!?走りながら....!?」
走っている今も、そのカマキリの様なカイドラッシュから僕は背中を切られ続けていた。
その見えない圧倒的な速度で切られ続ける事で、『自動盾』は絶え間ない速度で発動し続けている。
「何なのこのモンスター.....!?」
「おい!ミチオ、前、見ろ!」
数十秒走り続けると、森の奥から光が見える。
間違いなく太陽の光だが、森の出口はまだ遠い。
この夜の森の中で太陽の光が届く場所は一つしかない。
あそここそが目的地で、マジックが待機している場所だ。
「やった...!辿り着いた!!」
光を見つけ、僕は一安心した。
それと同時に僕の背中を走る、熱い何かを感じた。
「ミチオッ!!!」
何故かわからないけど僕は前に倒れた。
もう10年以上そんな事は起きなかったので、しばらく何が起きたのかわからなかったが、背中を触り、手についた赤い液体を見て悟った。
あれだけ攻撃を受けていれば当然だ。
『自動盾』のストックが切れたのだ。
「<忍法:煙遁の幕>!」
すぐにハイドが煙を出して、僕を背負い走った。
しかし煙は一時的に怯ませることしかできず、消えたはずの3匹のカイドラッシュも犬型となって現れ、5匹のカイドラッシュがすぐに僕たちを追いかけてくる。
「ごめん.....ハイド.......足引っ張っちゃって......」
「あと、少し、だ!クラージも、そこに、来る、意識を、しっかり、持てよ!」
普段の冷静なハイドとは違い、声から焦りが滲み出ている。
ただその焦りは、単に僕を心配してくれているだけのものではない。
僕がミスをしたせいで、作戦が危うくなったことへの焦りも混ざっているはずだ。
この作戦は、僕の『自動盾』があって成り立つかもしれない作戦、僕が使えなくなれば、マジックの作戦は上手くいくかどうか。
急いで走るハイドは、ついに森の先に見えた光の場所へと出る。
そこは断崖絶壁で、下には小さめの湖がある。
そして下の湖に僕たちを待つマジックがいるはずだ。
本来ならハイドが先に降り、カイドラッシュを引きつけた僕がその後に降りる手筈だったの
に......。
僕を背負ったまま、ハイドが飛び降りようとする、その時だった。
僕の足を、何かが掴みハイドから引き離された。
「っ、ミチオ!」
慌てて僕を取り返そうと走るハイドに、再び熊拳<ベア・フィスト>に化けた1匹のカイドラッシュがハイドに横から一撃を入れた。
熊拳<ベア・フィスト>の一撃にハイドは抵抗できず殴り飛ばされ、そのまま下の湖へと落下してしまった。
ミチオー!と声が聞こえ、そのまま水への落下音が響く。
「ハイド....!!」
僕も急いで、湖へ飛び込みたいが、周りを囲むカイドラッシュがそうさせてくれそうにない。
まずは僕の足を掴む何かを装備していた短剣で切り離す。
その正体は舌、赤い巨大な蛙だった。
切り離すと蛙は痛がるそぶりを見せその隙に短剣を捨て、崖の方へ腕を使って体を引きずりながら、芋虫の様に進んだ。
自分でも気付かぬうちに『自動盾』の存在で慢心していた、忘れていた死の恐怖が蘇ってくる。
体が痛くて動かないと言い訳してられない。
逃げないと殺される、食われる、人生がまた終わる。
逃げないと逃げないと逃げないと逃げ....。
そんな僕の引きずる両足に、犬型のカイドラッシュが噛み付いた。
「あああああああああああぁっっっ!!!!!」
久しく感じたことのない痛みに絶叫しながらも、僕は体を動かした。
しかし、動かしてはいるが、もはやどうにもならない事を僕は残酷に理解できてしまう。
『自動盾』は尽き、抵抗する力は残ってない。
どう足掻いても死ぬ、その現実しか見えなかった。
だが.....それでも腕は止まらず、体を引きずり続ける。
何故だろうか、生きたいからというのは勿論だが、もっと大きい動力の様な思いが僕の中であった。
それは仲間の事......そして......。
イリスさん......。
僕は約束したんだ、イリスさんの元へ帰ると。
「もう.....死んでたまるかっ......!!!」
みっともなく泣きながら、足に噛みつくカイドラッシュを無視し、崖へ進み続ける。
だが、無情にも進む目の前に犬型のカイドラッシュが立ち塞がる。
後ろからは赤い蛙と熊拳<ベア・フィスト>、そして噛みついている2匹のカイドラッシュ。
状況は最悪だが一つだけ、もしかしたら何とかなるかもしれない方法を思いついた。
けどそれは、自分の命を捨てる行為だ。
......いや、どちらにせよ僕が1人で死ぬか、仲間を助けて死ぬかの違いだ。
なら.....迷う理由なんてないよな。
(ごめん......イリスさん)
「はぁ...!!ぐっっあぁあ...ああああああああ!!!!!」
僕は噛みつかれながらも、足を立たせる。
痛みを超えた激痛で足が震えるのを誤魔化す様に、大声を上げそして叫ぶ。
「<猛進>ッ!!!」
前にいるカイドラッシュを巻き添えに、崖に突っ込み、空中に止まる。
そして、3匹のカイドラッシュと共に、僕は下の湖へと落ちた。




