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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第四章『転生追放』

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40.夜の森の戦い

 ぎりぎりで間に合ったけど......トラジディの体...かなりボロボロだ。

 特に出血が酷い、早くクラージの元へ運ばないと...。


「色々話したいことはあるけど、今は目の前のこいつらをどうにかしよう!トラジディ!」


 僕は盾を構え、熊拳<ベア・フィスト>と対峙する。


「...ああ!!」


 トラジディもすぐに立ち上がり剣を構える。


「かなり酷い怪我だけど...走れそう?」


 立ち上がったトラジディの体からは血がダラダラと垂れており、立っているのがやっとにしか見えない。


「大丈夫だ......けど....流石に逃げ切れるほどは走れそうにない....」

「なら良かった。ここから少し離れた所にマジック達が待機してるから、そこまで逃げることができるならこいつらを倒せる!」

「!......あいつらを倒す気なのか?逃げるんじゃなくて....」


 トラジディは驚愕した顔で、僕の方を見た。


「うん、一か八かだけど倒せるかどうかはマジック次第。それに....トラジディを背負った状態じゃ逃げれそうにないしね」


 ここにくる前にマジック達と作戦会議をし、逃げ切る事を第一に考えたが、トラジディの状況がわからない上、間違いなく元気に走れるほど体力はもう残っていないと考え、倒すしかないと結論になった。

 そこで、マジックから秘策があると言われ、本当にマジックに何とかできる力があるのかはわからないけど、仲間を信じて賭ける事にした。

 

 あとはそこまでトラジディを連れて逃げ切れるかだけど.......予想通り....いや、以上にトラジディはボロボロだった。


「...とりあえずトラジディ、僕の後ろに下がってて」

「あぁ....」


 (さて...カイドラッシュは全部で5匹だったっけ)


 今目の前で立ち上がっている熊拳<ベア・フィスト>は見た目から、間違いなくカイドラッシュが化けている姿だ。

 他は犬型のが3匹........もう1匹はどこに?


「ねぇトラジディ、もう1匹カイドラッシュがいるって聞いたんだけど倒したの?」

「...いや倒してないが......っ!!1匹いない....!?」


 トラジディはすぐに後ろを振り向き、警戒する。

 すると、木の上から草を擦る音が聞こえた。


「上だ!ミチオ!!」


 僕はすぐさま上に盾を構える。


 盾に何か鳥のような生き物が激突し、衝撃で少し体勢を崩すがすぐに立て直す。

 しかし隙を見せた一瞬、隙を窺っていたのか前方にいた4匹のカイドラッシュが襲いかかって来た。

 2匹は盾で防ぎ、1匹は僕に噛みつき、そして熊拳<ベア・フィスト>に化けたカイドラッシュは僕の腹部に一撃を叩き込む。


「くっ!!」」

「ミチオ!!」


 盾で防ぎきれなかったが、『自動盾』が発動し傷はない。

 すぐにトラジディが剣でカイドラッシュ達を切ろうとするが、カイドラッシュ達はすぐに僕から離れ、2匹を残して2匹は闇へと消える。


「大丈夫か....!?」

「うん、何とか!!」

「気をつけろ......次はどこから来るかわからないぞ...!!」


 先ほどの鳥も恐らくカイドラッシュが化けたものだろう。

 互いに意思疎通ができ、恐ろしいほど完璧に連携が取れている。

 今、目の前には熊拳<ベア・フィスト>と犬型のカイドラッシュが2匹いるが、鳥に化けたやつを含め、3匹がいない。

 次に何をされるかわからない以上、ここに留まるのは危険だ。


「トラジディ、走る準備はいい?」


 トラジディは、すでに息切れしている。

 走れて3分いけるかどうか......マジック達が待機している場所には5分はかかる。


「ああ....余裕だ......10分は走ってやる.....」


 明らかにトラジディは無理をして言っている、けど今は走って逃げるしかない。


「わかったトラジディ、もしもの時は僕が何とかするよ」


 トラジディは自身の不甲斐なさを思ってか、悔しさを滲ませている。

 そんな事はないと言いたい、この数のカイドラッシュを1人で防げただけでも十分すぎるほどトラジディはすごい。

 けどそんな事を言う時間はない、こうしてる間にもカイドラッシュが何をしてくるかわからないのだから。


「じゃあ...行くよ......走ってッ!!!!」


 僕の合図とともに、トラジディと僕は森の中を走り出す。

 僕が先頭を走り、トラジディが後に続く。

 トラジディの走る速度は、普段と比べてかなり遅い、怪我をしてるから仕方ないところではあるが。


 (この速度じゃカイドラッシュに追いつかれる....!)


 チラッとトラジディのさらに後ろを見ると、カイドラッシュが迫っていた。

 パッと見、追って来ているのは犬型1匹だけで、先ほどまでいた熊拳<ベア・フィスト>に化けた奴と、消えた3匹の姿はない。


「はぁはぁ....ミチオ...!マジック達が....いる場所までは......はぁ...どのくらい....かかるんだ!」


 トラジディの息切れが酷くなってきている。


「あと4分はかかる!」


 トラジディは持ってあと1分程だろうか、トラジディを背負ってたんじゃ、逃げきれない......。

 僕は走りながら必死に頭を回し、この状況を何とかできないか考えるが、それは後方の闇より現れた獣によって妨害された。


「...ッ!何あれ...!?」


 トラジディの後方を見ていると、僕たちよりも圧倒的に速い速度で走る4匹の生き物が姿を見せた。


「はぁはぁ...!!あれは...馬星<ホースター>...!!」


 馬星<ホースター>....以前、トラジディが1人で冒険していた時の話しに出て来た名前だ......確か、危険性は低いけど、全世界の馬の中で最速を誇る馬。

 体に星のマークがあり、たてがみが常に風が吹いているかのように靡いている。


 しかし4匹の馬星<ホースター>は体毛が毛むくじゃらで黒く、丸い赤い瞳のため、あれはカイドラッシュが化けている姿だ。


「何でそんな動物まで知ってるのあいつら.....ここら辺に馬星<ホースター>なんていないでしょ!!」

「はぁはぁ...恐らく...人里で......本でも見て...知ったんだろ......」


 学習して、様々な生物の姿に変わるカイドラッシュの恐ろしさがより伝わってくる。


 馬星<ホースター>に化けたカイドラッシュは凄まじい速度で僕たちを追う。

 森の中、木々の間をあの速度で走れるのかと、驚いている暇もない。

 1匹の馬星<ホースター>に追いつかれ、トラジディを噛もうとする。


 「トラジディ!!!」

 

 すぐに僕は盾で馬星<ホースター>の顔を殴り、そのまま吹き飛ばす。


「はぁはぁ....ミチオ!」

「止まらないで!!このまま真っ直ぐ進んで!!」


 僕を心配して止まろうとするが、もし止まれば恐らく、もうトラジディは走れなくなる。

そうなれば正直守り切れるかどうか。


 続いて3匹の馬星<ホースター>が僕に体当たりしようと、速度を上げ、突っ込んでくる。

 1匹は盾で殴り防ぐが、2匹目3匹目は防げず『自動盾』が防ぐ。

 防いだ方も殴った方もすぐに体勢を整えて走り出すが、その速度は明らかに遅くなった。

 そこにトラジディを庇って盾で殴り飛ばした馬星<ホースター>も合流し、こちらの様子を伺っているかのように見ている。

 そして、4匹ともどこか息が荒い。


「......まさか、化けているだけで体力は本来のカイドラッシュと変わらないのか....?」


 聞いた限りじゃ、本来の馬星<ホースター>なら1時間は全力で走り続けられるはず。

 なのにたった1分程度で息が荒れているのは、カイドラッシュに、馬星<ホースター>の速度で走れるほどのスタミナはないという事かもしれない。

 そうだ、きっとそうだ、そう考えると希望が湧いて来た。


「よし....!トラジディ!このまま逃げ切れるよ!」


 僕はその事に気づき、トラジディを安心させるために声をかける。

 しかし前を走るトラジディから返事がない。


「トラジディ.......?」

「ミチオ......こんな俺のために...ここまできてくれて...ありがとな......」


 トラジディは何故か、急にお礼を言い始めた。

 何で急に言い出したのかわからないけど、今はそんな事を言ってる場合じゃない、それはトラジディもわかってるはずなのに。


「トラジディ!今そんな事を言ってる場合じゃ!」

「それと...ごめんな.....お前を本気で...斬ろうとして......俺の事は....許さなくていいから......マジックとクラージ......それにハイドの事......任せていいか....?」


 何か様子が変だ、先頭を走るトラジディの顔は見えないが、明らかに。


「トラジディ?」

「実はよ...もう......足の感覚がないんだ......それに意識も....消えそうなんだ......」

「...え」


 弱々しくなっていくトラジディの声が、それを本当の事だと僕に伝えてくる。


「な、何言ってんのトラジディ....!あと2分だ!!あとたった2分走れば僕たち助かるんだよ!!」

「本当に...ごめんな...ミチオ......あと...マジックに......伝言....頼めるか....?」

「聞きたくない!!それ以上喋らなくていいからとにかく走り続けて!!」


 僕は、どうしても現実を受け入れたくなかった。

 トラジディの傷の深さと、一日中戦い続けた疲労を考えれば、ここまで走って来られただけでも奇跡のようなものだ。

 だからこそ……トラジディの言葉は、自然と僕の中で“最後の言葉”として形を持ち始めてしまう。


「マジックによ......約束は...しっかり.....守った......って......伝えて......くれ.............」


 そう言い残すと、トラジディの足は崩れ、地面に倒れた。


「トラジディ!!!」


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