39.お待たせ!
あれから何時間経っただろうか。
全てが暗いこの世界では時間の感覚も無くなってしまう。
カイドラッシュから逃げ続け、足が丸太の様に重い。
何とか木の上に登って少し休めているが、下には未だにカイドラッシュが彷徨いている。
犬の姿のため嗅覚が優れているのか、俺がまだこの辺りにいる事に気付いているのか、木の周辺をぐるぐると、地面を嗅ぎながら歩いている。
俺が上にいる事に気づくのも時間の問題だろう。
不意打で1匹殺れるかどうか。
だが奴らは5匹いる、1匹殺したところで俺が死ぬ事に変わりはない.........流石にここまでか.....。
(ハイド達は間に合わなかったか.....それとも......ミチオに見捨てられちまったか......当然だな、俺はあいつを一方的にパーティーから追い出した上で斬ろうと....殺そうとした......)
こんな俺なんて普通見捨てるよな......ただ最後に、あいつに......謝りたかったな......。
そんな事を思いながら剣を持ち、ちょうど真下にいるカイドラッシュを見る。
体力が限界の上、逃げても逃げれないこの状況....せめて1匹殺して、醜く抵抗してやる
俺は木の上から飛び、カイドラッシュを真っ二つに斬ろうとした.....しかし。
「っ!!」
カイドラッシュは間一髪のところで剣を避けた。
暗く、視界が悪くて外したわけではない、このモンスターの直感が優れすぎているんだ。
避けたカイドラッシュは遠吠えをし、残る4匹のカイドラッシュを呼び寄せ、俺は囲まれてしまった。
「くそ.........」
もはや逃げ切れる足はなく、奴らを倒せる腕もない。
もはや俺は奴らにとってはただの餌でしかない......無謀な間抜けにはお似合いの最後かもな。
.....いや、何で諦めてるんだ俺は。
これはケジメだろ、何諦めて楽になるとしてんだ。
俺は最後まで信じるしかないんだ、ミチオが.....仲間達が来る事を。
絶対に生き延びて、俺は謝るんだ....ミチオに。
「俺は......あいつに謝るまでは.....絶対に死ねないんだ!!」
俺は剣を前に構え、前方のカイドラッシュに突っ込む。
それに合わせて、囲んでいたカイドラッシュも俺を食おうと飛び上がった。
「あああぁぁぁぁ!!!<流水剣撃>!!!」
剣がまるで水の様に流れる緩やかな動きを見せ、後方にいた3匹のカイドラッシュを切りつける。
このスキルは殺気を隠して切る事ができるスキルだ、カイドラッシュの直感が機能しないのだろう。
しかし...浅い、深手にはなっていない。
切られたカイドラッシュ3匹は、暗闇へ消え、その隙に2匹が俺の左手と右足に噛み付く。
「ぐああッ!!!!....くっそッ!!!!!」
激痛に耐えながら剣を振り何とか追い払おうとするが、足に噛み付いてきた1匹は離れたが、もう1匹は左手に噛みついたまま離れない。
剣の柄頭で噛み付いている頭を叩き、ようやく手から離れ、離れたカイドラッシュはまた森の中へと溶けていった。
噛まれた足と手から血がポタポタと地面に落ちる。
昨日噛まれた右肩から大量の血が流れていたこともあり、血を流しすぎ目眩が起き、どれだけ息をしても呼吸が安定しない。
何とか落ち着こうとするも、もう1匹のカイドラッシュが姿を表す。
その姿は熊拳<ベア・フィスト>だ。
一撃で俺を倒そうとしているのか、いつの間にか戻ってきた4匹のカイドラッシュが、俺を再び囲み、熊拳<ベア・フィスト>の姿をしたカイドラッシュから気を逸らす様に、俺を挑発する動きをしている。
熊拳<ベア・フィスト>はのそのそと俺に近づき、腕を引いた。
決める気だ、その一撃で俺を殺そうと。
だが、俺はまだ諦めない、諦められない。
仲間達が来るまで、俺は何度でも、いつまでも抗ってやる。
「っ.....きやがれ....!!」
熊拳<ベア・フィスト>の腕が俺目掛けて飛んでくる。
受けたら間違いなく死ぬが、受け流せないのは直感でわかる、避けれないのも。
(くそ......お前ら......母ちゃん...父ちゃん...リブ......ごめんな....)
諦められない、諦めたくないが、迫る死を前に俺の脳裏には無意識に謝罪の言葉が浮かんだ。
迷惑をかけた仲間達に、死んだ家族に。
「<猛進>ッ!!」
目の前にいた熊拳<ベア・フィスト>が吹き飛ばされた。
まるで強い力で無理矢理押されたように。
「た....盾.......!?」
熊拳<ベア・フィスト>がいた位置には大きな盾を持つ男がいた。
見慣れた装備に髪色、聞き慣れた声。
俺は目の前の夢のような光景に足の力が抜け、尻から倒れるように座ってしまう。
あれだけの事をしたのに、あいつは本当に来てくれた.......俺なんかを助けるために。
「っ!!......ミチオ!!!」
「お待たせ!トラジディ!!」
ミチオの顔は、俺を憎む顔ではなく、いつもの晴れやかな顔をしているミチオの顔だった。




