37.怖い
店内にあるテーブル席で、僕とハイドは向き合う。
イリスさんはお茶を入れ、そっとハイドに差し出すが、ハイドは手でいらないとジェスチャーして断る。
そのままイリスさんはカウンター裏の部屋へ移動し、店内は僕とハイド2人だけとなった。
「それで、トラジディを助けてって...何があったの...?」
トラジディと協会で別れて1日しか経っていない、その後の動向は知らないけど、僕なんかいなくても4人なら大抵の依頼は何とかなるはずだ。
それなのに僕の助けを求めるなんて、一体何があったのか検討もつかない。
「ああ、だが、まずは、すまない。トラジディは、決して、ミチオが、憎くて、追い出した、わけじゃ、ない」
「うん...わかってるよ。トラジディの故郷で何かあったんでしょ?」
そう聞くと、ハイドは重く答えた。
「...、トラジディの、故郷は、帝国との、戦争の、巻き添えで、滅んだ。トラジディの、家族は、安否が、不明、らしい」
それを聞き、僕を追放した時のトラジディの気持ちが理解できたと同時に、予想よりもトラジディに襲いかかった不運が大きく、背筋が凍りついた。
「そんな事が......」
「トラジディは、その事で、頭が、混乱し、ミチオを、追い出して、しまった。決して、トラジディに、悪気が、あった、わけじゃ、ないん、だ」
ハイドは必死に、トラジディが僕を追い出した件を弁明をしてくる。
「大丈夫だよ、僕は気にしてないから。それで、トラジディに何があったの?」
「トラジディは、夜の森に、いる、が、危険な、状態、だ」
夜の森...凶暴な猛獣がゴロゴロといる上、常に暗い世界で危険な森だ。
一度だけ依頼で皆と行った事があるが、目的の植物を発見できなくて撤退した事があった。
「何かの依頼で、夜の森に行ったの?マジックとクラージも一緒に?」
「ああ、だが、トラジディが、1人、森に残って、いる」
「.....なんでトラジディ1人だけ森に残ったの」
あの森に1人残るなんてほとんど自殺行為だ。
トラジディがまだ混乱してると言っても、あの森の危険性は知ってるはずだ。
「...、ケジメ、だ」
僕は机を叩き立ち上がり、ハイドを睨んだ。
トラジディが僕を追い出した件のケジメとして、3人はトラジディを森の中へ置いていった。
つまりは、ハイド達はトラジディを見殺しにしたということだ。
「ハイド......僕のためなのか知らないけど、僕はトラジディを殺したいだなんて思ってない、トラジディの事を恨んでもない。僕はまたトラジディと話をしたいんだ、そんなケジメなんて望んでない!!」
ハイドは怒る僕を宥める様手を動かす。
「落ち着け、これは、トラジディが、自分で、決めた、こと、だ」
「見殺しにしたことに変わりはないだろ!!」
「...、そう、だな。だが、仲間を、勝手に、追い出し、それで、何の、ケジメも、しない、奴を、俺は、リーダーとは、認めない。ミチオ、お前が、逆の、立場、だとして、どんな、理由が、あろうと、仲間を、勝手に、追い出した、奴を、許せる、か?」
ハイドの言葉に僕は沈黙で答えるしかなかった。
もしもマジックが、クラージが、ハイドが同じ様に追い出されていたら、僕はトラジディに何と接しただろうか。
家族の様に大切な仲間を追い出したトラジディを許せるのだろうか。
僕にはわからなかった。
「あまり、時間が、ない。頼む、トラジディを、一緒に、助けに、来てくれ。もし、俺たちと、もう、一緒に、パーティー、として、活動、するのが、嫌なら、これを、最後の、頼みと、聞いて、くれ」
そう言ってハイドは頭を下げる。
普段の僕なら有無を言わずに助けに行っただろう......けど今はまだ、トラジディと会うのが怖い。
トラジディと話をしたいけど、また斬られるのではないかと、怖くて仕方がなかった。
「...、俺は、一足、先に、街の、正門へ、向かう。そこに、マジックと、クラージが、いる。30分、待つ。ミチオが、来なくても、俺たちは、行く」
そう言い残し、ハイドは椅子から立ち上がり、そのまま店を出て行った。
僕は椅子に座り頭を抱えた。
助けに行きたい、行きたいけど.....怖くて行けない自分がいる。
情けないが、僕は心が弱い。
それに、僕なんかいなくても3人は強い、トラジディを必ず救ってくれる。
それにトラジディも、僕に助けられるなんて望んでいないはずだ。
だって僕は...トラジディが恨む帝国人なんだ。
(いやダメだ.....!!)
気付けば自分の楽な方へ楽な方へと考えている自分がいる。
こんな考えをしてる間にもトラジディが危ない、なのに体が動いてくれない...。




