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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第四章『転生追放』

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34.75点

 その日、僕は無我夢中にパン作りに没頭し、気づけば夜遅くになっていた。


 宿を探すためイリスさんの店を出ようとするが、「ここで良ければ泊まっていきますか?」と言われ、流石に今日会ったばかりの女性の家に泊まるのは不味くないかと一瞬考えるが、今日1日で結構な疲労が溜まり正直今から宿探しなんて体力的にちょっと厳しく、ご厚意に甘え泊まっていく事にした。


 物置部屋を借り、そこで眠り......そして次の日。

 外がまだ若干暗い朝早くに起き、パン作りを始める。

 人魚の塩は分量が難しく昨日は何度も失敗し、あまりにしょっぱいパンだったり、塩が入っていない様な味わいのパンができてしまった。


 今日は失敗が許されない本番。

 昨日の経験を糧に、人魚の塩を加えて一次発酵、二次発酵、成形、そして焼成をし、ついに完成する、本当のヴァルノワパンが。


「.....どうぞ」


 僕は完成したヴァルノワパンの一つを切り、イリスさんに渡す。

 イリスさんはヴァルノワパンを触り、感触を確かめて次に香り、そして実食。

 イリスさんは目を閉じ、黙々とパンを食べている。

 その表情は、深く考えをしている者の顔だ。


 そして口は動きを止め、喉が動く。

 食べ終わったはずのイリスさんは何も言わない。

 もしかして失敗してしまったのかと、僕に不安が押し寄せてくる。


「あの......どうですか.....?」


 僕の言葉に、イリスさんの口がゆっくりと開く。


「100点満点とするなら......このパンは75点、まだ塩の分量も焼き加減も完璧じゃ無いですね。魔道天火を昨日初めて使ったらしいので仕方ない所ではありますけど」


 75点......それではダメだ。

 お客さんに出すパンはいつだって100点の代物じゃなければいけない。

 このパンを商品として出し、初めて来たお客さんが買って、少しでも思ってた味と違っていたら、もうその人はそのパンを買わない。


 いや、パンだけならまだしも店自体に来なくなる可能性だってある。

 つまり僕のせいで店の損害に繋がる、だからこのパンは店に出せない。

 まるで深い泥沼に沈んでいくような感覚を味わい、僕のパン作りへの心は....完全にへし折れてしまった。


「......すいません....僕には....どうやら才能がなかったようです......せめて僕の有り金全てでここにあるパン全部....「でもね」


 僕の言葉を遮りイリスさんが語り出す。


「確かにパンそのものは75点の出来栄えですが......はい、食べてみてください」


 イリスさんはそう言って僕の作ったパンを切り、僕へ一切れ渡してきた。

 言われるがままに僕はその渡されたパンを食べる.........。


「美味しい......」


 間違いなく、決して忘れないあの味。

 イリスさんが作ったパンそのものの味がした。

 強いて言えばもう少し塩を増やしたほうが、よりパンの味の深みが出るのと、焼き加減をより調整すれば、より中がふわふわになるはず。

 そんな事を考えていると、いつの間にか渡されたパンを食べ切っていた。


「どうですか、私の作ったパンとほんの少ししか違わないですよね?このパンは確かに75点ですが、商品としては......100点の出来栄えです!それはどうしてだと思いますか?」


 イリスさんの問いに急いで考えるも何もわからない。

 だが何故か、ふと母との思い出が脳裏に蘇った。

 母とパンを作っていたあの頃、よく母に言われた言葉があった。


 どれだけ質の良い、高い材料を使おうと、パンはいけても80点までしか出せない。

 そこから先は、お客さんにどれだけ美味しく食べてもらえるか、作り手である職人のそんな想いが捏ねられると美味しさが増し100点のパンが出来上がる.........そんな事を言っていた。


 想いで味が変わるわけないと思っていたあの頃の僕は笑って聞いていたけど......いやそんなまさかな。

 しかしそれ以外には特に思いつかなかったので、笑われるのを覚悟して僕は言った。


「想い....ですか?食べてほしい相手への想い....」


 僕の答えにイリスさんは。


「おー!正解です!この事友人に言うと結構笑われるんですけど、不思議な事に想いは力になるんですよ!」


 そう言って、手で拍手をしてくれた。


「実際ミチオさんも、お客様の事を考えてパンを作っていましたよね?」

「あ....いや、その....イリスさんの事を想って......作ってました...」

「え?私?」


 僕がパン作りをしている最中に想っていた事はイリスさんの、美味しいと喜ぶ顔だった。

 その事を本人に言うのはちょっと恥ずかしく、僕の顔は少し赤くなってるような気がする。

 そんな僕の言葉に、イリスさんは不思議そうに顔を傾けた。


「あぁいや!!イリスさんに味見してもらうわけでして!それでイリスさんの事を想っていたのであって決して他意があるわけでは!」


 勘違いされそうで怖くなり、僕は必死に弁解した。


「え.....あ!あー....ああまー.....うんうん、うん!そういった想いも....ありといえばあり....なのかな!!」


 急に動揺し始めたイリスさんの顔を見ると、少し赤くなっているような気が.....。

 そんな彼女と目が合うと、彼女はすぐに僕から顔を背けた。


「さ、さー!残りのパンも早く焼いてお店に並べましょう!!」

「そ....そうですね」と、僕が残りのパンを焼くためにイリスさんのいる方へ歩くと、一気に距離を取り、明らかに僕を拒絶しているような反応を見せた。


 (終わった......完全に引かれてる....完全にイリスさんに何か下心があると思われてる......)


 作ったパンが75点と言われた時よりも深い絶望が僕を包んでいく。


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