幕間③ 霧鳥様事件
夜が開け、街を日が照らす。
朝日の柔らかい光りは鳥の鳴き声を呼び、街に住むお年寄りが目を覚まし散歩をし始める。
そんな早朝のイルノニアに帰還した冒険者達がいた。
パーティー『五盟』のマジックとクラージ、それにハイドだ。
夜の森へと旅立ったのが夕方で、ほとんど一日寝ずに動いているためか、顔に明らかな疲れが見える。
だが彼らにそんな事を気にしている暇はなかった。
マジック達は別れた仲間、ミチオを見つけるため街の捜索を、帰還してから一切休まずに開始する。
ひとまず彼らが向かった先は冒険者協会だ。
朝早くだが協会には常に従業員がおり、この街の冒険者代表とも言えるギルド『生剣エックス』のメンバーも2〜3人がいつも待機しているため、情報が集まりやすい場所である。
しかし3人が協会の中で見た光景はいつもと違い、異様だった。
普段は1人は必ずいるはずのギルド『生剣エックス』のメンバーが1人もいないのだ。
「え......どういう事!?なんであいつらいないのよ!普段ならこの時間でも絶対いるでしょ!」
マジックは少し取り乱し、急いで協会の受付へと話を聞きに行く。
「あら、おはようございます。『五盟』のマジックさんにクラージさん、それにハイドさん。珍しく朝早いで.....あ!カイドラッシュ討伐の依頼が完了したんで....「そんな事よりなんで『生剣エックス』の連中がいないのよ!!あいつらいつも1人はここにいるでしょ!」
依頼が完了したものと思っていた協会の受付嬢は、マジックの言葉に戸惑っていた。
「え....『生剣エックス』の方々ですか?彼らなら.........例のあの件ですよ」
「あの件?」
受付嬢の態度はまるで知っていて当然と言わんばかりだが、マジックは....そして後ろのクラージとハイドも何のことかわからず、首を傾げる。
「ご存知ないのですか?あれですよ、昨日の夕方ごろに現れた霧鳥様の件.....」
霧鳥様、世界中で暴れる六つの災害の一つに数えられる凶悪な怪物。
その存在はマジック達も当然知っているが、夕方ごろにはすでに街から離れていたため、霧鳥様出現を知らせるアナウンスを聞けず、出現した事を知らなかったのだ。
「霧鳥様....あいつまた出たの?ってじゃなくて!それと『生剣エックス』の連中がいないのに何の関係があるのよ!.....まさかあいつを討伐しに行ったの!?」
「いえ、それがちょっと.....」
受付嬢はあまり声に出せない事だからか、マジックに小声で何かを伝えようとしている。
仕方なくマジックは耳を近づけると。
「実は先日、ヴァルノワ帝国に攻撃を受けている要塞都市ウォルノニアから避難してきた住民が......ロンノニアへ向かう道中で霧鳥様に遭遇してしまい......例を見ないほどの....被害が出ていると......」
「......嘘でしょ」
マジックは想像をしたくなかった想像をしてしまう。
霧鳥様は共和国軍の精鋭を集めた討伐隊をも返り討ちにする力を持っている怪物。
そんな怪物に力のない大勢の一般市民が遭遇したらどうなるかなんて容易にわかる。
ましてや普段被害を受けるのは付近を通る商人や冒険者が主で、基本少人数。
だが避難民はマジックが聞いた限りじゃ、ロンノニアに向かった数は少なくとも1万以上はいた。
そんな数の市民が霧鳥様に遭遇してどうなったか。
マジックは、その残酷な想像に背筋が凍った。
「被害者はその数の多さから現時点では不明、行方不明者も同様に。現在は霧鳥様は消えており、共和国政府が付近の街のギルドに特別依頼を出し、行方不明者の捜索をしております」
「それであいつらいないってことね......」
タイミングが最悪すぎた。
マジック達にとっても、帝国に攻められている共和国にとっても。
◆
ギルドに頼るのは諦め、マジックは自力で捜索を始め、クラージは街の教会や修道院に行き情報を集める事にした。
そしてハイドも住民への聞き込みを中心に探し始める。
しかし有益な情報は掴めず時間が経ち、すでに昼10時を回ってしまった。
こんな事をしている間もトラジディは夜の森で戦っている、急がなければ本当に手遅れになってしまう。
そんな思いでミチオを必死に探し続ける。
街の外れにあるとある飲食店。
10を超える店の従業員と客への聞き込みをしているハイドは、次にこの店に入る。
中はかなり狭く、カウンター席が五つ、4人用のテーブル席は一つ。
飲食店というより常連で楽しく飲むための酒場の様な場所だ。
中にいるのは風格からして店長と見られる50代くらいのスーツ姿の男と、テーブル席で酒を飲む40代くらいの腕に斬られた様な傷跡がある男と、その男と一緒に酒を飲んでいる40代くらいの白髪の男だ。
「いらっしゃい、何にしますか?」
店に入るとハイドはカウンター席に座り、店長から注文を聞かれた。
酒を飲みにきたわけではないが、何も買わずに質問だけするのは印象が悪く、まともな情報をくれない可能性があるため、仕方なく1番安い酒を注文する。
店長は、「あいよ、ちょっと待っててくれ」と言って酒をジョッキに注ぎ、ハイドに渡す。
「店長、ちょっと、いい、か」
ハイドは早速ミチオについての聞き込みを始めた。
「ん?何ですかいお客さん」
「ここいらで、昨日、盾を持つ、冒険者を、見なかった、か?歳は、19、緑色の、髪色の、男、だ」
「んん?あー、何だあんた冒険者か。おかしな格好してると思ったら」
「ああ、それで、見なかった、か。それか、そんな奴、が、いたと、聞いた、覚えは、ある、か」
「さーね、聞き覚えないなそんな奴。人探しならよそでやってくれ」
店長は面倒ごとに巻き込まれたくないのか、ハイドを相手にせず、カウンターの裏へと姿を消す。
ここにも有益な情報はないか.....と、ハイドは酒を飲む事なく席を立ち上がる。
そんな時、テーブル席で喋っている2人の男の会話が聞こえてきた。
「そんでその帝国人女をよ!あんまりにも生意気だから躾けようと殴ろうとしたんだ!」
「ほうほう、それでどうした」
「そしたら急に緑髪の盾持った冒険者が現れてな!帝国人を庇うんだよそいつが!そんでそこなんだよ!そいつに向かってそのまま殴ろうとしたら妙なスキル使って俺の手を弾きやがったんだ!!」
「ほー帝国人をスキルまで使って庇ったってことか、そりゃ確かに許せねーな」
「だろ!だからその冒険者見つけ出して、帝国人女と一緒に今度こそぶん殴ってやらねーと気が済ま....冷たっ!?何しやがんだてめぇッ!!!」
話を盗み聞きしていたハイドは、腕に傷跡のある男の方に酒を勢いよくぶっかけた。
「おい、今の話、よく、聞かせろ。さもないと、俺が、お前を、ぶん殴る、ぞ」




