31.無力な人
どのくらい時間が経っただろうか。
手短に話すつもりが、ついつい仲間達との冒険を長く語ってしまった。
そして僕とトラジディとの別れ、僕が帝国人の父を持つ事をイリスさんに話した。
「そう.....ミチオさんも差別を受けて......」
イリスさんはとても悲しそうな顔をしている。
「なんでただ帝国人だからって、こんな事になってしまったんですかね......」
そう言いながらイリスさんはすぐ横の窓に顔を向け、そこで育てている花を見つめた。
「人は無力.....だからだと思います」
イリスさんは、「え....」と呟き僕の方へ再度顔を向ける。
「家族や友達の敵を討ちたくても、討てる力のない無力な人。目の前の人が敵か味方か、知りたくても知れない無力な人。やりたくなくてもやらないと次は自分だと、力を持つ方に味方する無力な人。周りの人と一緒に流されないと孤立してしまう、1人は嫌な心の弱い無力な人。色々な無力な人達が集まり差別を始める、人はそんな生き物なんじゃないかと思います」
差別とはちょっと違うけど、実際僕は前世でもそんな経験をした。
クラスの人達に助けを求めても、次は自分が標的にされるかも知れないからと、僕を見て見ぬふりをした。
恨んではいないし、仕方のない事だったと理解しているけど、それは人生を諦めるのに十分だった。
「ミチオさん......きっと大丈夫ですよ!すぐにまた信頼できる新しい仲間が見つかって....「そんな人いませんよ!!」
イリスさんの声を遮り、声を上げ否定した。
前世で1人も出会えなかった心を許せる友達が、この世界でようやく出会えた。
トラジディ達との冒険ほど楽しい時はなかった、彼らの変わりなんて絶対に存在しない。
「あ....ごめんなさい.....」
僕はすぐに我に返り、励ましてくれたイリスさんに頭を下げ謝罪した。
せっかく励まそうとしてくれたのに悪い事をした、そう思いこれ以上迷惑をかけたくない気持ちで店から出る事に決める。
「ちょっと長居し過ぎちゃいましたね.....僕はそろそろ行きます。イリスさんも、街を出歩く時は気をつけてくださいね」
そう言って席を立ち、壁に立てかけていた盾を持って店から出るため扉に向かう。
「え...!ちょっと待って!」
歩く僕を引き止めようと、僕の肩に彼女の右手が触れると、「痛っ!」と彼女の口から小さく声が出た。
「あ....大丈夫ですか!?」
「大丈夫....ですよ、これくらい!」
イリスさんはそう言いながら赤く腫れ上がった右手首を左手で摩った。
その時、今まで気付かなかった事に気づいてしまった。
現代のパン屋でもそうだが、パン屋は自分のお店で作った手作りのパンを販売する。
パンを作る際、必ずこねる作業があるのだが、手首を痛めているイリスさんにそれができるのだろうか。
「あの、そんな状態でパンなんて作れるんですか.....?」
「え?あ、あー...ちょっと難しいかもしれませんが......何とか頑張るつもりですので....!」
彼女は明らかに無理をして笑顔を作っている。
この顔を見て、このまま立ち去れる人なんているのだろうか。
イリスさんを放っておく事ができない、そう思った僕は考えるよりも先に言葉が出てしまう。
「......余計なお世話かも知れませんが、僕もパンには多少の知識があります。手伝わせていただけませんか、イリスさんのパン作り!」
「......え?」
思いがけない言葉を聞いたからか、イリスさんは驚いた表情で硬直した。




