29.帝国人
騒ぎ声が聞こえる。
男と女の声だ。
特に男の方が声が大きい。
僕は騒ぎの元まで歩き、現場を発見した。
道の真ん中で騒いでいる男と倒れている女性がいる.....いや男に倒されたと見ていいかもしれない。
男の方は一般市民である事が服装からわかる。
歳は40くらい、腕に斬られた傷跡があり、元軍人か冒険者と言ったところだろうか。
女性の方も同様に一般市民だ。
20歳くらいの、長い薄茶色髪の女性。
倒れながらも手に持つバスケットから、野菜や果物が転げ落ちている。
さらに周りには5人の野次馬らしき人達がいる。
彼らは男に味方するわけでも、女性に助けに入るでもなく、ただ騒ぎを見ているようだ。
なぜ誰も女性を助けようとしないのだろうか。
倒れながらも女性は、男に向かって声を上げていた。
「やめてください!これ以上は衛兵を呼びますよ!」
「あー?帝国人が衛兵に助け求めたところで相手されるわけねぇだろーが!!」
どうやら女性は帝国人のようだ。
この騒ぎの原因は、僕みたいに『帝国人』が理由なんだろうか。
元々共和国では帝国人への差別意識は少なからずあったけど.....きっと今は、この都市だけじゃなく、他の都市でも差別が酷くなっているのかもしれない。
「そもそも帝国人が共和国内で店なんか開いてんじゃねーよ!!てめぇらみてーな汚ねえ奴らがいたらこの国が汚れんだろ!!!」
あの男もトラジディみたいに、帝国に何か被害を受けたのだろうか、女性への当たりがかなり強い。
「私は帝国とは何の関係もありません!ただ帝国で生まれただけの一般人です!」
女性の言葉は僕と同じだった、僕もただ帝国人だからって追い出された。
しかしその女性の言葉に男は。
「帝国人なんざ生きてるだけで俺たちに迷惑なんだよッ!!!」
男はそう言い、拳を振り上げ倒れている女性を殴ろうとした。
僕はすぐに飛び出し、女性を体で庇う。
男の拳はそのまま僕の顔に当たりそうになったが、『自動盾』で防がれ弾かれた。
「って....!?誰だお前!!そいつは帝国人だぞ!!!」
男は怒りに満ちた顔で睨みつけてきた。
トラジディの顔を思い出し怖くなったが、逃げ出したい気持ちを殺し、男に言った。
「僕は冒険者です、これ以上騒ぐのなら僕が衛兵に助けを呼びますよ.....?」
そう言うと男は舌打ちをし、「帝国人が....俺らの国歩いてんじゃねーよ....!!!」と言い残し去っていく。
男が去ると同時に、野次馬も移動し始め消えていった。
暴力沙汰にならず、一安心した僕は女性の方に、「大丈夫ですか?」と声をかける。
「はい....ありがとうございます、冒険者さん」
女性も一安心したようで、落ち着きを取り戻していた。
「あの人かなり怒っている様子でしたけど、何があったんですか?」
二人で落ちている野菜と果物を拾いつつ、僕は女性に話を聞いた。
「.....実は私、お店を開いていまして......先ほどの男性は、たまに私のお店に来てくれていたんです.....。ですけど....今日、買い物を終えてお店に帰る途中にばったり出会って、『帝国人が俺らの街何歩いてんだ!!』と絡まれてしまいまして、先程のような事に」
やはり帝国人への差別意識は、帝国と開戦したせいで高まっているらしい。
今までの差別は裏でヒソヒソと陰口を言うレベルで、そんな堂々と行動する人はいなかった。
きっとさっきの男は、この女性が帝国人である事は前々から知っていたけど、気にしていなかったはずだ。
でも、侵攻してきた帝国への怒りをぶつける相手を探して........。
「そうですか.....」
「あ!拾ってくださりありがとうございます!」
転げ落ちた野菜と果物を拾い終え僕は立ち上がり、女性も立ちあがろうとすると。
「痛っ...!」
「あ、大丈夫ですか?」
女性はバスケットを持っていない右手で地面を押して立ちあがろうとしたが、怪我をしているのか、痛がった様子を見せて立ち上がらない。
「手に怪我でも?」
そう言って右手をよく見ると、少し手首が赤く腫れていた。
僕がそれに気付くと、女性は慌てて手を隠す。
「どうしたんですかその手首.....?」
僕がそれを聞くと、女性は引きつった笑みを浮かべ。
「あはは....さっきの男の人にちょっと強く握られちゃって......でもこんなのすぐに治りますから気にしないでください!」
そう言って女性は右手を使わずに立ちあがろうとした。
(ここにクラージがいれば<ヒール>を使って治療できたのに.....)
見ていられず女性に肩を貸して立ち上がらせた。
「あ...ありがとうございます!」
「お店ってどこですか?案内してください、送り届けますので」
僕がそう言うと女性は、「ありがとうございます!でも大丈夫ですよ!」と言って断るが、今の共和国内で帝国人だと知られている彼女を1人で歩かせるのが怖く、どうしても送り届けたかった。
「また絡まれるかもしれません、送らせてください」
「えー....っと、じゃあお言葉に甘えてお願いします....!」
僕の想いが伝わったのか、女性は了承してくれた。
女性の案内で街を歩き、お店まで二人で歩いて向かっていく。




