28.追放
聞き間違いだろうか、トラジディから思いがけない言葉が聞こえてしまう。
「え......追放....?」
「わかったらさっさと消えろ」
聞き間違いであってほしかった僕の望みは、トラジディの発言とその目であっさりと壊された。
突然の事に自体が飲み込めず呆然と座り続けることしかできない僕の体は次第に震え始めてきた。
「な....なんで......」
パーティーから追い出される理由が僕にはわからなかった。
先日まではトラジディと確かに親しく過ごしていたし、マジックと違い問題行動も特に起こしていないはず、それなのに何で......。
「理由?そんなのお前が帝国人だからだよ」
「て、帝国人....?」
僕は共和国に住んでいるけど、確かに父はヴァルノワ帝国から移り住んだ帝国人、つまり僕も帝国人と言えなくはないけど、なんでそれが追い出される理由になるのか全くわからなかった。
「もしかして....トラジディの故郷で何かあったの....?」
僕には思い当たる節は無いが、帝国と言えばこれしか無い。
冒険者や街の人々が騒然としている理由は、一昨日...北の隣国ヴァルノワ帝国がここブリスニア共和国へ宣戦布告をし、侵攻してきたのだ。
現在は国境の要塞都市『ウォルノニア』で食い止めているが、もしそこを突破された場合、次の戦場は、僕たちの今いる都市イルノニア
の北にある隣の都市だ。
そのため街中が騒然としているのだ。
そして、トラジディの出身地はウォルノニアの辺境にある村だと聞いた事がある。
もしかしたら帝国の侵攻で、その村に何かがあったのではないか、そう思ってしまった。
「黙れッ......それ以上口開くな...!!!」
トラジディは僕に向かって叫びながら机を...ドン!と叩いた。
僕の考えは.....残念だけど当たってしまったようだ。
「で、でも.........他の三人はこの事知ってるの?」
「.....黙れってのが聞こえなかったか」
「....僕が帝国人だからって....追い出されるのはあんまりだよ......他の皆んなも呼んで一旦落ち着いて話し合おうよ.....」
「黙れって言ってんだろ」
「トラジディの故郷に何かあったなら、僕も手を貸すから一緒に考えようよ!」
僕が必死にそう言うと、トラジディは両手で机を叩き、椅子から立ち上がった。
抑えてくれていたのか、僕を見る目が憎悪を剥き出しにしている。
「黙れって言ってんだろ帝国人ッ!!!もう何もかも遅えんだよ!!!お前らのせいで......お前らのせいで.......!!!」
もはや言葉では何を言っても無駄だと理解できる、それほどトラジディの憎悪は凄まじかった。
でも、僕も仲間と....トラジディと別れたくなかったから必死だった。
「落ち着いてよ!!何があったのかわからないけど本当に落ち着いて話し合おうよ!!」
僕も椅子から立ち上がり、トラジディに歩み寄りながら話をしようとする。
トラジディは、「わからない....?」とポツリと言うと、腰に差していた剣を勢いよく抜き、僕に向けた。
僕はそれに驚き、トラジディへ近寄ろうとする足を止める。
「ふざけんな......ふざけんなッ!!!!お前ら帝国人共のせいでどれだけの人が死んだと思ってんだッ!!!今すぐに俺の前から消えろッ!!消えねーなら今ここで殺すぞッ!!!!!」
嘘であってほしかった。
生まれて初めてできた友人とも言える存在に、本気で.....本気で僕を殺す気なのが、その目から伝わってくる。
「で....でも.....」
僕が尚も話し合おうとしたその瞬間、トラジディが僕に剣を振った。
「え.......」
首に『自動盾』が発動し剣は弾かれた。
僕の『自動盾』は、肉体にダメージが及ばない攻撃には反応しない。
盾や装備に当たる攻撃や、寸止めも。
だが逆に、肉体にダメージを与える攻撃には必ず反応して、僕を守ってくれる。
つまりトラジディは本気で僕を.......それも首を切ろうとした.....。
それを理解した途端、全身から力が抜け、僕はその場に倒れ込んだ。
そんな僕を気にする事なく、トラジディは弾かれた剣を再び僕に振ろうとした........が、剣を持つトラジディの腕を掴み、それを止める男が現れた。
「おい落ち着けトラジディ!!何やってんだお前!?」
止めたのはギルド『生剣エックス』のリーダー、『アウサア』だ。
年齢は23歳と若く、髪は短めの金髪、鎧で身を包んだ『聖騎士』だ。
「止めんなアウサア!!どうせその妙な力のおかげで死なねぇんだからよ!!!」
トラジディは止めに入ったアウサアを無視し、アウサアの腕を振り解こうと暴れた。
もはや話し合いなど成り立たないことは、誰の目にも明らかだった。
「そんなご大層な力持ってんだ!裏で俺らの事馬鹿にしてたんだろッ!?生まれも育ちも共和国らしいが所詮は汚ねえ帝国人なんだなお前もッ!!!!」
「落ち着けってっ....!!!おい!!お前ら手貸せ!!!」
アウサアはトラジディを止めるために、ギルドの仲間に声をかけて抑えようとする。
豹変したトラジディの姿に僕は怖くなり、抑えられている隙に..........僕は逃げ出した。
冒険者協会から出ても中から騒ぎ声が聞こえる、けどそんな事は気にする事ができず、僕はただただ走って、無力にも遠くへ逃げることしかできなかった。
◆
協会での出来事から30分くらい経っただろうか。
僕はイルノニアの外れの方まで走り、路地の隅に座っていた。
これからどうしたらいいのか、わからない。
もう一度トラジディと話し合いたい.......けど、あの顔が怖くて.....足が動かない。
クラージ達に相談しても、トラジディと会うことになると考えると、行動ができない。
どうすべきなんだろうか。
あんなに輝き、楽しかった人生が嘘のように暗く、沈んでいく。
「......泣いて....どうなるんだよ」
目から熱いものが流れてくる。
必死に止めようと目を擦るが止まらない。
顔を体に埋め、静かに、誰にも見られないようにした。
そんな時だった。
「.........騒ぎ?」
遠くの方から男と女の騒ぎ声が聞こえてきた。




