25.地獄からの解放
ここは何処だろう。
僕は今、真っ白な空間にいる。
白以外何もない虚無とも言える空間。
かれこれ十数時間以上はこの空間にいるだろうか。
僕が何故ここにいるのか、全く覚えていない。
僕の最後の記憶は......いや、それよりも目の前の出来事について考えるべきだろうか。
僕はこの空間をずっと歩いていた。
すると急に、空?に穴ができてそこから人らしき女性が降りてきた。
降りた人の様な女性は僕に近づいてくる。
逃げるべきなのだろうか......しかしあの姿に少し見覚えがあり気になる。
歳は僕と同い年....16くらいかな?
白い羽や真っ白な無地の仮面を付けていて不気味な印象があれど、天使の様な姿をしている。
何処で見たのだろうか.......。
とりあえずこの空間から脱出できる可能性を持つ人なのかもしれないし、話をしてみることにしよう。
そう思い僕もその女性に近づいた。
すると、僕と女性の間の距離が10mくらいだろうか、そのくらいになると女性は足を止めた。
それに釣られて僕も足を止めてしまう。
「ようこそ人間よ、私のくう......」
女性が口を開いたと思ったら、急に黙った。
「......あの、すみません?」
「んんっ...!ようこそ人間よ、私の空間へ」
女性は少し咳払いをして再び喋り始めた。
「え、あぁどうも......お邪魔...してます...?」
私の空間とは一体どういう意味なのだろうか。
ここは彼女が作った空間.....ということなのかな?
もし彼女がニュースで見た事がある、『覚醒者』という存在ならそういう事もあり得るのかな。
(にしても、やっぱり何処かで見覚えがあるような.......)
そう思い僕は記憶を必死に探り、1人の存在を思い出した。
(......何処かあの人に、似ている様な)
「あの....すみません。もしかして浮舟さんですか?」
「いえ違います」
「あ、人違いでした....すみません....」
即答で違かった、恥ずかしい。
中学の頃同じクラスだった浮舟さんに何処か似てる様な気がしたんだけど.....他人の空似って奴なのかな?
「私の正体が気になっているご様子ですね」
羽が生えてる女性を気にならない人なんているのだろうか。
まぁ羽の生えた『覚醒者』はネットで結構見かけるけど。
「私は女神。貴方達人間を見守る神です」
「え!神様だったんですか!?」
予想だにしていない回答、僕のイメージする神様とはだいぶ違い驚いてしまった。
「えぇ、道尾くん。当然貴方のことも見ていましたよ」
「な、なんで僕の名前を......!」
僕の名前を言い当てられ少し怖くなる。
なんでこの女性は僕の名前を知ってるのだろうか......本当に神様で僕の事を見守っていたからなのか。
けど.....それならどうして.....。
「さて....早速ですが、貴方は異世界への転生の権利を得ました。」
「異世界....?」
女神様は理解していない僕を差し置いて語り続ける。
「こことは異なる世界、簡単に言ってしまえば剣と魔法のファンタジー世界です。しかしその世界には凶悪な魔王が存在します。その魔王は人々を苦しめ、世界を蹂躙しています。そこで貴方にぜひ魔王を倒していただきたいのです」
まるでゲームの世界の様な話だ。
異世界、ファンタジー、魔王.....あまりに突飛すぎる。
「あの、僕にはそんな.....ゲームの主人公の様な力はありませんし、仮にその世界に.....転生?したとしても何にもできないと思いますよ」
僕の発言に女神様は、ふふっと少し笑った。
「安心なさい、転生の折には貴方に特別な力を授けます」
力.....それを聞き、もしやと思い女神様に質問する。
「....もしかしてニュースとかで見る『力』って奴ですか?」
ニュースやネットで流出している動画などで見たことがある『力』を持つ者.....通称『覚醒者』。
僕もそんな『覚醒者』となって、異世界を救え.....と、そういうことなのかな。
「う〜ん......まぁ似た様な物です。どんな力が宿るかは私には分かりませんが、何者よりも強力な力であることは保証します。だってそういうお約そ...んんっ......!」
お約そ.....?
けど、やっぱり僕には急に世界を救えなんて言われてもできない.....自信がない。
そもそも僕は心が弱い.....だからあんな最期を迎えたんだ.....。
「女神様......もし辞退した場合は....どうなりますか?」
僕は女神様に再び質問した。
アニメで見たことあるけど、こういった神様からのお願いを断ると良くないことが起きる。
例えば....また生まれ変わる事がない様呪いをかけるとか、永遠に地獄で苦しんでもらうとか。
この女神様はもし僕が断ったら何をしてくるのだろうか。
女神様は僕の質問を聞き、少し考える素振りをしから答えた。
「この世界で生まれ変わります、記憶を真っ白な状態にして二度目の人生を貴方は送る事でしょう。しかし、私はそれをあまりお勧めはしませんが」
特に罰などはない様で、僕は一安心した。
別の世界への転生かこっちで生まれ変わるのなら、どちらかと言うならまたこの世界で生まれ変わりたい。
しかしお勧めしないとはどういう意味なのだろう。
「あの.....その理由は?」
「だって....貴方は一度も、本当の幸せを味わったことがないでしょ?」
女神様の声に少し悲しみが混じっている様な気がした。
「僕は.......母と一緒にいる時....すごい幸せでしたよ」
母との思い出......家で一緒に過ごし、家がパン屋だったためお店で出すパン作りの手伝いをよくしていた。
偏見の目で見られたせいでお客さんはあまり来なくて貧しかったけど....母と一緒にいられて幸せだった....特に母が作ってくれた料理は美味しかった。
例え床に落とされようと、美味しかった。
パン屋では儲けが少ないからと夜のパート業に行き、僕の高い学費と生活費を1人で稼いで......母にこんなに想って貰えて...僕は本当に....幸せだった......。
「.....あれ?」
母の事を想うと、涙が溢れ落ちてきた。
「道尾くん.....貴方は転生しなさい。貴方は本当の幸せをまだ知らない。親が子を愛すのは当然の事、しかしお返しとして、目一杯幸せになる事が子供の義務です。人は一度生まれたからには、幸せにならなければいけません」
女神様はみっともなく泣いている僕に近づき、ハンカチで涙を拭いてくれた。
「転生は記憶を引き継ぎます、貴方の人生はまだ終わっていません。ここにいるという事がすでに....親不孝の様なものではありますが、転生して幸せに暮らせばきっと....お母さんも報われます。魔王を倒すのが難しいなら、しなくても構いません。向こうの世界で貴方は.....誰にも縛られない、自由なのです」
女神様はその後も転生の仕組みや種類を語ってくれた。
何処か必死さを感じる様な説明だったけど、僕は女神様の言葉を受け取る事にした。
母を残して死んだ罪悪感からなのか、女神様の言う『母が報われる』という言葉に救いを求めている自分がいた。
転生の仕方は三つあり、女神様からは赤子からやり直す赤子転生をお勧めされたので、それにする事にした。
そして、女神様は僕の額付近に手を向け、僕の足元は光り始めた。
「女神様.....最後に質問してもいいですか?」
僕はこれが最後だと分かると、どうしても不安な気持ちが拭えず女神様に聞いた。
「はい....なんですか」
「僕は......その異世界で....幸せになれますか...?」
「えぇ、きっと」
そう女神様が言うと、光は濃くなり女神様は見えなくなる。
さよならと声が聞こえた気がした時、光が消え、僕の視界は暗くなった。
◆
「さよなら......長崎君。来世ではきっと良い父親に......出会えます様に........」
【長崎道尾[16歳]】
麒麟中学卒業後は朱雀高校に入学するが、高校1年で死亡。
気付けば女神の空間にいた。
・力『???』
死亡する直前に獲得。




