24.牢獄
二度目の死。
長い歴史を持つ人類の中で、きっとそれを体験したのは私が初めてだろう。
霧鳥様に食われた私は、真っ暗な世界にいた。
意識は薄っすらとあるが、何も見えないし身体のどこも動かない。
というよりも体全体の感覚がない......いや、不思議な事に下半身の感覚だけはある様な気がする。
まるで本当に夢の中にいる様な気分だ。
ここが何処なのか、二度死んだ私はこれからどうなるのか、何もわからない。
いずれ意識がなくなるまで、もしくは、またあの女神が現れるまで、ずっとこのままなのかもしれない。
けど........死ねた事に悲しみ、そして喜んでいる自分がいた。
妻と娘にまた会えなかった悲しみがある。
死ぬ事によってこの世界から解放された喜びもある。
訳のわからない女神に飛ばされた先がファンタジー世界で、訳のわからない職業に就き訳のわからない生き物、挙げ句の果てには怪物。
この世界は私には厳しすぎた。
何より、直接対峙して分かったが、あんな怪物に人間が勝てるとは到底思えない。
私たち人間は、あの鳥にとってはただの餌、挑むことがまず間違いなんだ.......。
最後の希望であった霧鳥様の討伐は、絶対に不可能だと悟り、私の精神の支えは完全に無くなった。
だったらもう、全てを諦め死んだ方が楽だ。
もはや私に、生きる意思は完全に無くなってしまった。
(春......誕生日....祝えなくてごめんな......妻よ...愛してる....本当に......愛してたよ......)
最期の最後に脳裏によぎったのは、家族の事だった。
家族との記憶が、思い出が.....次々と浮かんでくる。
だが、浮かび上がった家族に触れたくても触れれず、泣きたくても泣けず、ただただ私は家族に謝り続けた。
そしてそのまま、私の意識は...........。
「............え」
オレンジ色の空が見える。
先程まで何も見えない、真っ暗だった視界がが、綺麗な夕焼けの空を映している。
「ここ....は......」
突然のことに思考が詰まるが、落ち着いて状況を確認した。
まず最初に気づいたことは、先程までなかった上半身の感覚があることだ。
指を動かして手を動かし、腕を動かす.....何処にも異常はない。
私は体を起こし、周りを見渡す。
そこには霧鳥様の霧の世界に入る前に見た、平原が広がっていた。
そして、私の下半身が.......足がある。
「夢....本当に.....夢だったのか......?」
もしかして今まで見ていたものは本当に夢で、私はまだ死んでいないのか、そんな事を考え始めた。
考えてみればここは異世界、それも中世時代の技術力だ。
そんな世界に現代のビルや道路があることがおかしかった。
ましてや、顔の皮膚のない女性が死なずに生きているなんて事もありえない。
だが夢なら説明はつく、ただの悪夢だった。
「......あれ?」
そんな事を考えている最中、私はある事に気づく。
それは、夢の中で霧鳥様に真っ二つにされた私の体についてだ。
私の体は傷一つない、しかし着ている服がおかしかった。
ズボンは濃い血の色で汚れ、嗅いでいると気持ち悪くなってくる鉄の匂いを感じた。
そして、しっかりと着ていた筈のジャケットとワイシャツが、夢の中で霧鳥様に真っ二つにされたちょうどその箇所を堺に切れ、無くなっている。
残っているジャケットとワイシャツだった物の切れ端は、切られて輪っか状になっており、もはや服ではない。
「なんで....服が......?夢じゃ....なかったのか....?」
状況が全く読み込めない。
やはりあれは夢ではなかったのか。
だとしたらなんで私は生きているのか。
切り裂かれた筈の私の体はなぜ元通りになっているのか。
霧鳥様は何処へ消えたのか。
なぜ奴は私を食べずに何処かへ消えてしまったのか。
(....いや、そんな事....もうどうでもいいか......)
霧鳥様を殺す.....そんな無謀な希望の無くなった私は早く死んで楽になりたかった。
こんな苦しい世界から一刻も早く抜け出したかった。
私は近くに落ちている槍を拾う。
「ごめんな......弱い父ちゃんを許してくれ.....」
そして自身の首に槍先を当てる。
今度こそこれで本当に死ねる。
私は何の迷いもなく、自身の首を槍で刺し........自殺した。
..........私は死ねなかった。
槍で首を刺しても痛みを感じず、喉が血で詰まるも息が吸えない苦しみもない。
「ぐっぱッ......なんででぁ...!!!??」
口と首から血が溢れ出で止まらない。
体中がどんどん血に濡れていく。
「なんべぇ...!?じねぇないっ....!!?」
苦しみも、痛みも全く感じない。
自身の首や心臓を恨む様に刺し続けたが、死ぬ気配は一向になかった。
刺した私の首や胸は、まるで刺した事がが無かったかの様に回復.....いや皮膚が再生した。
あれだけ大量に出ていれば血液不足にもなる筈だが、体は全く異常を感じない。
「私は....死ぬ事も......できないのか.......!!!」
私はただ呆然と、座ることしかできなかった。
ただただ美しく残酷なこの世界の空を見ながら。
「ううううああああああぁぁぁぁああああぁぁぁああぁぁああぁぁあぁぁッッッ!!!!!!」
私は叫び続けた。
倒したくても倒せない怪物、会いたくても会えない家族、死にたくても死ねない自分、残酷なこの世界から抜け出せない現実。
全ての想い......怒りや悲嘆が乗った叫びが街道に響く。
喉が渇く事も、喉が痛む事も無く、私の叫びは永遠に...........。
登場人物
【小笠原 龍次[45歳]】
何処にでもいる普通のサラリーマン。
朱雀高校に通う娘の誕生日にウキウキで帰る途中、車の事故に巻き込まれて死亡。
・力『娘に幸運を』
娘が生まれる際に獲得。
娘がアイスの当たり棒を5連続で引いたり、ツイット(SNS)の懸賞に何度も当選するなど、娘の運気を常に上昇させた。
『女神権能:不老不死』
決して老いず決して死なない、彼にとっては呪いに等しい権能。




