23.恐怖の味
この霧の世界に入ってから、何か異様な気配を常に感じる。
それとシルクが言っていた通り、黒い鳥達が遠いビルの上に見え始め、こっちをジッと見ていた。
霧で見えにくいが、赤い目を輝かせている。
恐らく異様な気配の原因はあれだろうか。
ただ気になるのは、その鳥の姿はただのカラスにしか見えない、この世界にもカラスがいるのだろうか。
それと、日が遮られているせいか肌寒さを感じる。
まるで裸で歩いている様に、服を貫通して冷気が直接肌に伝わってくる。
例え防寒着を着ていたとしてもこの寒さを感じると思う程に。
さらに.....たまに女性の金切り声の悲鳴が聞こえてくる。
逃げ遅れた一般人が霧鳥様の餌食になっているのかもしれない。
ただ、にしては聞こえてくる声が毎回同じの様な気がする。
私の勘違いなのかもしれないが。
人1人いないこの空間と、ただ見てくるだけのカラス、霧と薄暗さも相まって、不気味さに恐怖心がどんどん膨れ上がっていく。
しばらく歩いていると、右手のビル群の路地から人の気配がした。
見ると、人らしき何かの影が走って行くのが見えた。
逃げ遅れた人か、私と同じ様に霧鳥様を倒しに来たのか。
「お、おーい!待ってくださーい!」
ひとまず情報収集と人と出会えた安心感からか、私は人らしき影を追いかけ始めた。
ただ一つ気になった事がある。
気のせいだとは思うが、やけに影がデカかった気がする。
路地を走り、影が曲がった左手を見渡す。
が、そこには誰もおらず、見失ってしまった。
「あれ....?どこに行ったんだ?」
そのまま左手に進み、再び大通りの道に差し掛かる。
すると、目の前の道の先に交差点が見えた。
「......人?」
さらによく見ると、その交差点の真ん中に人が倒れていた。
若い女性だ。
顔はこっちからでは見えず、うつ伏せで倒れている。
格好からして恐らく一般市民なのだろうか、私は急いでその女性に駆け寄った。
そして、倒れている女性の肩に触れ、抱えると。
「だ、大丈夫ですか!?怪我...と......か......」
女性の顔を見た、いや見てしまった。
女性の顔には皮膚がなく、まるで無理やり皮膚を引き裂いたかの様に生々しく、真っ赤な筋肉や骨が見え、見開いている目がこっちをジッと見ている。
普通こんな状態じゃ死んでいるはずだが、目がまだ生きていると伝えてきている。
「っ...!!うっっ....!!」
あまりにもグロテスクなものを見て一気に背筋が凍り、それと同時に吐き気が込み上げてきた。
今すぐにこの女性を投げてここから離れたい。
しかし放っておく訳にもいかないので、彼女に意識があるのか、確認するため声をかける。
「だ...だいじょう......ぶ....ですか......?」
女はただこっちをジッと見つめ、何も喋らない。
「あの......急いで近くの......びょうい....修道院まで......」
その時だった。
「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッッッッ!!!!!!!!!!」
女は突然、裂けるほど大きく口を広げて、私に向かって叫び声を上げた。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
突然の事に私は驚き、抱えていた女性を前に投げ、腰が抜け後ろに倒れてしまう。
女性は、飛ばされながらもこっちをジッと.....不気味な笑みを浮かべながら見ている。
すると、私の周りが突然暗くなった。
恐怖で腰を抜かしている私が空を見ると......巨大な鳥がいた。
直感で分かった、こいつが『霧鳥様』だと......。
突然の事に、どんな見た目なのかはよく見えずわからないが、巨大なカラスの様に見えた。
「あ....あぁ.......ああああああっ!!!!?」
私はそのままそいつのくちばしに腹を貫かれ、投げ飛ばされた。
宙を飛ぶ私は、投げ飛ばされた先に立つ建物に激突し、地面に倒れる。
急いで立とうとするも、足の感覚がなくなった事に気づいた。
霧鳥様の方を見ると、転がる人の足.....下半身と思われる部分が目に飛び込んできた。
痙攣してるかの様にピクピクと動く足。
あまりに衝撃的な光景に思考が一瞬凍りつく。
やがて、押し寄せる現実感が心を無理やり揺さぶり、呼吸が乱れ始める。
喉がひゅうひゅうと鳴り、胸が苦しくなる。
恐る恐る私は、自身の体に視線を落とす......。
腹から先がなかった。
ただ血が流れている胴体しか見えなかった。
「うわあああああああああああッ!!!??」
頭が突然の出来事と、積み重なっていた恐怖でパニックを起こしてるからか痛みは無い、しかし切り離された下半身を見て私は戦意が完全に損失した。
ただ逃げようと、生きたいと、助かりたいと、腕を動かして這いずり、霧鳥様から遠ざかろうと踠いた。
なぜこんな怪物に無謀にも立ち向かってしまったのか......過去の自身の愚かさを、今さらながら呪いたくなってくる。
しかし、無情にも私の目の前に、弄ぶかの様に霧鳥様が歩いてきた。
「ひっ....!?」
霧鳥様はこっちを赤い瞳でジッと見て、くちばしをゆっくりと開ける。
これから奴に食われる......蛇に睨まれた蛙の様な気持ちだ......。
私は間違いなくここで死ぬ。
けどここはきっと夢の中だ。
今もまだ、下半身を切られた痛みは一切ない。
それもそうだ、夢の中なら痛みなんてあるわけがない。
痛みを感じないのは、頭が混乱してるからじゃない、夢だからだ。
そうやって自分を納得させると多少恐怖が和らいだ。
だが、目の前の怪物を見ればそんなまやかしはすぐに消える。
霧鳥様は、くちばしで私を咥えた。
(私はここで死ぬんだでも夢だこれは夢なんだ全てが悪い夢なんだっ......!!!!)
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だっ.......!!!!!!」
まるで念仏でも唱えるかの様に、自身に言い聞かせ、一刻も早く目が覚めてくれる事を願い、そして................視界は暗くなった。
私は霧鳥様に食われた。




