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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第三章『転生牢獄』

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20.現代の価値観

 馬車が6台進んでいる。

 馬車の中には、野菜や日用品を入れている木箱と旅人などが乗り、ガタン...ゴトンと揺れながら草原の道を進む。

 現代の車と比べて乗り心地は最悪だ。

 今、私はその馬車達の護衛として同行している。


 冒険者協会、そこは冒険者という職業の人々が集まり、そこに来た市民や国からの依頼を引き受ける場所。

 聞くと主にモンスターや獣を殺す職業らしく、虫ですら殺すのを躊躇う私には絶対に合わない職業だ......しかし、家族と再会するためにも覚悟を決めて、私は冒険者に登録した。


 登録する際に見た書類に書かれていた文字は、日本語ではない見たことの無い言語だったため苦戦したが、幸い言葉が通じるのでなんとかなった。

 あと、冒険者内での職業を聞かれ、剣も弓も当然触ったことすらない私は、未定と答えた。

 すると職業は『冒険者』そのまんまで登録された。

 武器はどうしようかと悩んでいたが協会に置かれている、引退した冒険者が置いていった無料の武器から槍を1本頂いた。


 次にやった事は仲間探しだ。

 霧鳥様を倒す....それが私の目標だが、霧鳥様は聞く限り恐ろしく凶悪なモンスターらしく、倒すためには協力してくれる仲間の存在が必要不可欠だ。

 だがたとえ仲間が見つかっても、六つの災害は世界的に見ても驚異らしいから、一緒に倒しに行ってくれる人はいないかもしれない。

 非現実的な手段、けどそれ以外に考えが浮かばない。

 時間はかなりかかる上、仲間となってくれた人が死んでしまうかもしれない。

 けど私の1番はいつだって家族だけだ。

 また家族に会えるのなら、私はどんな非道な行いもしてやる。


 そうして探した結果、パーティー『卵』に入ることができた。

 冒険者なりたてを積極的に採用し、鍛えることを目標にして作られたパーティーらしく、いつでも脱退が可能な、かなり珍しい自由なパーティーらしい。

 現在のメンバーの数は、私を入れて8人。

 リーダー以外は冒険者になって1年目や半年が多い。

 リーダーの名前は『エルレ』さん。

 職業『剣士』、40才を超えるこの道15年のベテランだ。


 ひとまず加入したその日は金もないので野宿をした。

 一日中行動していたはずだが、不思議な事にお腹は減っていなかったのでご飯は一切食べず、また....なぜか一睡もできなかったが疲れは全くない。

 これはきっと家族への想いが力になっているのだろうか。



 パーティーに加入して次の日、初めての依頼で、隣町へ荷物を送る馬車の護衛依頼を引き受け現在に至る。


 私は物資が乗った馬車の後部座席に座っており、目の前にはパーティーメンバーの男が1人いる。

 歳は20代前半....いや19か。

 彼も冒険者になって日が浅いのだろう、襲ってくるかもしれないモンスターか盗賊への怯えか、それとも初めての護衛依頼での緊張か、体が震えてどこか落ち着かない様子だ。

 それに装備もほとんど普段着に近い、武器も短い剣のみ。


 まぁ装備に関しては私も人の事を言えない身なりではある。

 スーツ姿に槍を装備...コスプレ大会でも見たことの無い組み合わせだな......。

 馬車に乗った際に挨拶して以来、すでに1時間経っているがずっと沈黙が続いている。

 何か喋った方が良いのだろうが、こんなおっさんが若者になんと声をかけたら良いのだろう......。

 しかし黙っていても何も始まらない、とりあえず何か聞いてみる事にした。


「えーっと......差し支えなければ聞きたいんだけど、君はどうして冒険者になったのかな?」


 そう言うと向かいの若い男は、急に喋りかけたからか驚いた様子でこちらを見た。


「え!あ!そ...そのー......お金に...困ってまして......」


 金か......確かに冒険者協会に貼られていた依頼書を見ると.........いやこの世界の通貨は知らないが、報酬金額と思われる欄に書かれている数字は、ほとんど6桁を超えていた。

 日本では6桁を超えていれば10万以上だが、この世界でも似たような通貨価値なら1日で稼げる額は相当なもんだ。

 勿論パーティーで行けば、人数によって分け前は減るが。


「そうか.....お金か、いいじゃないか!でも聞くと冒険者稼業は危険が多いらしいが、親御さんはなんと言ってるんだ?」

「は、母には反対されました......けど父には好きに生きろと言われたので......」


 当然と言えば当然だが、もし私がこの世界に生きてて、娘が冒険者になるなどと言い出したら全力で止めただろう。

 現代の価値観はこの世界には合わなさそうだ。


「理解ある父親がいてよかったじゃないか」

「はい!いつか立派な冒険者になって母と父に恩返しできればなー...と......」


 喋っていると、気付けば若い男から震えが消えていた。

 それどころか笑顔を見せてきている。

 喋りかけておいてよかった。


「ところで....あなたはどうして冒険者に.....?見たところ結構お歳が......」

「私か....私はただ......」


 霧鳥様を倒すためだけになった、なんて今はまだ言えない。

 別の言い方をするのであれば......。


「家族に....『ただいま』って言いたい......からかな」


 それを聞いた向かいの男は、困惑の表情を浮かべていた。


「いや.....気にしないでくれ、ちょっとだけカッコつけた言い方しただけなんだ」

「ああ、そうなんですか!」


 私と若い男は少しだけ、ふふっと笑った。


 そんな時だった。


「馬車を止めろーー!!!」


 男....いや、リーダーのエルレさんの声が全ての馬車に響き、馬車は急停止した。


「向こうの森からゴブリンが迫ってきている!!

数は14!!パーティー『卵』の冒険者は全員戦闘準備!!ゴブリンを迎え撃つぞ!!!」


 エルレさんの指示に馬車全体の空気が一気に変わり、緊張が走った。


 ゴブリン.....名前は現代でも聞いた事があるけど詳しくは知らない。

 確か緑色の小柄な生物だと記憶している。


 すぐさま私と若い男は馬車からおり、エルレさんの元へ駆ける。

 そして、遠くの森から迫るゴブリンの姿を見た。

 見た目はほとんど記憶通りの外見だった。

 棍棒や短剣を持って明らかに敵意を見せている。

 『卵』の7人はゴブリンに備えて武器を構え、私も慣れぬ動きでゴブリンの方へ槍を向けた。


 全員が武器を構えると、エルレさんが指示を出す。


「よし!行くぞ!決して無理はせず、一対一でも厳しいと判断したら防御に集中するんだ!いいな!」


 そう言ってエルレさんは剣を構え、ゴブリンに向かって走り出す。

 それに続き、私を含めたパーティーメンバー全員も走り出す。


「おぉ...おおおぉぉぉ....!!」



 エルレさんは強く、すでにゴブリンを5体も倒しており、彼の鎧と剣は、赤いゴブリンの血で染まっていた。

 周囲は凄まじい異臭と、切られたゴブリンの血と臓物や脳みそが散乱し、この世のものとは思えない残虐な光景が広がっている。


 確かにあのゴブリンは武器を持っていたし、馬車を狙って向かってきていた。

 明らかに人に危害を加えようとしていた......していた....けど......。


 『卵』の仲間たちもゴブリンを殺すと念入りに、その死体に何度も剣を刺す。

 聞こえてくるのは「死ねゴブリン!!」「ニンゲンコロセ!!」などの声。


 だんだんと吐き気が込み上げてくる......。

 気持ち悪い.......。


「オガサワラさん!早くそいつにトドメを!」


 エルレさんの声が聞こえた.....。

 私の目の前には、足を誰かに切られ、転がっているゴブリンがいる。

 手を動かして逃げようと、必死にまだ生きたいと踠いている。

 私の持つ槍で頭を刺せば、このゴブリンは死ぬ。

 簡単だ、簡単なことだ。

 私は家族を想い、槍を強く握り、ゴブリンの頭に刺す............。




 できるわけがない。




「できるわけがないだろ......」


 小声でそう呟くと、手から力が抜け、槍を落とした。

 協会に入った時には決めていた、生き物を殺すと言う覚悟が、私からすでに消えていた。

 相手のゴブリンは私たちを殺そうとしている、生きるためにはこっちも戦わなければいけない。

 偽善者なのはわかってる......けど....それでも私には......。


「何やってるんですかオガサワラさん!?早くそいつを殺してください!!」


2体のゴブリンと戦いながらも、私を見ているエルレさんは叫んだ。


「殺せ......?そんなの無理だ......私には....彼らをを殺すなんて事......」


 リーダーは私を憐憫の目で見ると、ゴブリン2体を素早く殺し、私の元へ近づいてくる。

 エルレさんはそのまま、私の目の前でまだ生きているゴブリンの頭に、剣を突き刺した。


「オガサワラさん、生き物を殺すことができないようでは冒険者は務まりません。その考えがこの護衛の依頼中に変わらないようでしたら、残念ですが街に帰ったら、パーティーから追放処分にします」


 そう告げてエルレさんは、他の仲間が戦うゴブリンを殺しに行った。


「なんでそんな簡単に......生き物を切り殺せるんだ......」


 動物を殺す仕事は現代にもあるし、そういった職業の人達がいることで、世の中が成り立っていることはわかっている。

 けど、あんなに楽しそうに剣を振って、動物を殺し回るなんて、私の価値観には決して合わない。


 私は俯いたまま馬車に戻り、気がつけば護衛の依頼は完了しており、首都ロンノニアに帰還していた。

 馬車を降り、報酬の分け前を渡そうとしてくるエルレさんを無視し、私は彼らの前から姿を消した。


 それからも家族に会うためだと覚悟を決めようとしたが無理だった。

 私には殺せない。

 帰るために必要な殺しである霧鳥様ならともかく、彼らはただそこで生きてるだけで、私が殺せる理由が見つからない。

 冒険者としての道は絶たれ、絶望がどんどんと大きくなっていく私は、首都にある大きな石造りの橋の下で、今日も野宿する。


 相変わらず腹は減らないし、一睡もできなかった。


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