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1.女神の空間(2)


「......は......死後......?」


 思わず笑いたくなった。

 俺はただゲームをしていただけで死ぬ理由はなかったはずだ。

 と言うか突然貴方は死にましたなんて言われても受け入れられるか?受け入れられる訳がない。


「女神様も冗談とか言うもんなんですね...」


 俺が少し笑いながらそう言うと女神は。


「...貴方が最後に見た光景は覚えていますか?」

「俺は...その...ご存知かと思いますが、ゲームの世界に入れる『力』がありまして、今日も入って遊んでいたんです。そしたら突然世界が真っ暗になって気がつくとここに......」


 自称女神は俺の話を聞き、何か考えているのか、顎に手を当てた。

 そして、顎から手を離すと。


「...非常に残念な事ですが、貴方は死にました」


 先ほどの仕草は俺の死因をどう話すか考えていたのだろうか、良い言い方が見つからず随分ストレートな言い方だ。


「いや、突然死んだなんて言われましても...その......実感というかなんというか...」

「無理もありませんが、人というのは突然の不幸で人生を終わらせる事があります。辛い事だとは思いますが受け入れてください」


 ...とても冗談を言っている様な雰囲気ではない、だがまだ信じられない。


「本当に...俺が死んだのかどうか、確かめる方法はありませんか...?」

「残念ながらもう...魂の存在となった貴方には何も」

「そうですか...」


 魂の存在...俺が想像する魂って人魂みたいなものなんだけど。

 けど何故か腹は減らないし喉も渇かない、疲れを知らないこの体、魂の存在と言われると不思議と納得できてしまう。


 (俺は、本当に死んだのか.......?)


 いくら考えても俺にはわからない。

 考えてもわからない以上、ひとまずこの自称女神に従う方が良さそうなため、一旦受け入れる事にした。


「....それで、俺はこれからどうなるんですか?」


 ここが本当に三途の川的場所ならこれから天国か地獄に行くのかな?

 いや地獄は嫌だな。


「貴方には二つの選択肢があります」


 そう自称女神が言うと、女神の後ろの何もない空間に突如白く豪華なイスが現れた。

 たった一瞬、瞬きをする合間に現れたそのイスに女神は座り、話始める。


「一つはこのまま天国か地獄に行ってもらう事」


本当に天国と地獄って存在するんだな。


「そしてもう一つが......こことは違う別の世界、異世界への転生です」


 俺は「は!?」と思わず口に出した。

 いくつもの異世界転生系の小説や漫画、アニメを見ていたが、マジでそんな創作物の様な展開があるのかと驚愕した。


「異世界転生って...あの転生ですか!!」

「えぇ、興味おありの様ですね」


 オタクな俺にとってそんなの夢のまた夢の様な話だ。

 ゲーム世界に入って味わったあの冒険を、現実で味わえるのなら是非とも味わいたい。


「ぜひ!!転生をお願いします!!!」


 女神様は少し笑うと、「そうですか!では転生の仕方を選んでください」と言った。



 (仕方.......仕方?仕方ってなんだ)



「あの、仕方というのは?」

「転生にも色々ありまして、一つは貴方の体そのままでの『転移転生』。一つは向こうで一から人生をやり直す『赤子転生』。そして最後は、現地の人間の人格を乗っ取る『憑依転生』です...まぁこれは今まで2人しかやらなかった転生ですし、倫理的にもあまりお勧めしたくない転生ですが。もちろん全て現在の記憶は引き継がれますのでご心配なく」


 まさかの転生の仕方を選べるサービス、興奮するあまりニヤけ面が浮かんでしまう.....というか俺以外にも転生者は存在するのか。


 (憑依転生は流石にマジでやるのは俺も嫌だし、赤子転生は.....生まれる家庭によっては自由に生きられないよなぁ....貴族に生まれれば人生苦労しなさそうだけど、冒険者にはなれなさそうだし。やはりここは無難に転移転生を......いや待てよ)


 そう美味しい話があるだろうか。


 俺の知る異世界小説は様々な世界がある。

 魔王が存在する王道ファンタジー世界や現代と変わらない世界に、戦争でドンパチやってる真っ最中の世界、未来世界に宇宙開拓時代の世界。

 ファンタジーなら喜んで転生するが、戦争世界なんて絶対にごめんだ。


「あのー、一つお聞きたいんですが、転生する世界ってどんな世界なんでしょうか?」

「転生先の世界ですか、そこは魔王が支配する世界で...「転移転生をお願いします」


 女神様の話を遮り即答する俺に対し女神様は、「え、あ...はい転移転生ですね」と承諾する。


 そんな時だった、俺はあることを思い出し女神様に問いかける。


「あ、ちょっと持ってください」

「?...なんでしょうか」

「異世界転生のお約束である....何か能力か武器は貰えるんですか?」


 転生先が魔王のいる世界、そんな中普通の人間.....とは違うけどまず役に立たない『力』を持っていたところで何もできずに野垂れ死ぬだろう。

 転生物のお約束である何か能力をくれなければ話にならない。


「もちろんです、お約束ですもんね」


 この女神様とは結構仲良くなれそうだ。


「では力を与えましょう、力を与えると同時に転生させますので心の準備ができたら言ってください」


 ...友達も恋人もいないし人生に特に悔いはない。

 強いて言えばファンクエのコンプが達成できなかった事くらいか。

 ゲームを途中で投げ出す様な行為、俺の意に反する行いだ。

 そう思い女神様に早速転生をお願いしようとした時、ある事が頭によぎる。


「あの、一つお願いがあるのですが」

「はい、なんでしょうか」

「俺の両親は......今どうしてますか?」


 女神様は少しの間沈黙したが、ゆっくりと口を開く。


「...貴方のご両親は、息子がいなくなったと騒ぎ、警察と一緒に貴方を捜索しています」

「そうですか...」

「それでお願いというのは?」


 俺の唯一の心残り、それは.....。


「両親に『育ててくれてありがとう。そんで、死んでごめん』って言っといて貰えますか......」



 何故だろうか.......さっきまで異世界に行ける喜びでテンションが上がってたはずなのに...涙が出始めた.........。


「...はい、伝えておきます」


 腕で顔を擦り、俺は女神様に近づく。


「じゃあ、お願いします女神様」

「次の人生で貴方に幸運を...」


 女神様は俺の顔に手を向け、俺は光に包まれる。

 今になって本当にこの世界での人生が終わるのかと実感し始める。

 この世界に悔いはないはずが、異世界に行ける喜びが霞んでくるほど悲しくなってくるのは何故だろう。

 思わず....待って!と言いたくなるのはなんでだろう。


 今思い出したが、もう一つだけ心残りがあった。

 俺が不登校になった原因の事件、あの事件を無かった事にしてくれ......なんてのは流石に女神様でも無理か。

 光はどんどん眩しさが増し女神様は見えなくなってくる。


 ついに光は目を閉じても目に入ってくるほどの眩しさを放つ。



 そして....光は消えた。

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