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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第三章『転生牢獄』

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18.人生は突然終わる

 午後18:30。


「それじゃ、お先失礼します!」


 そう元気よく言って、彼は急いで職場から退勤する。


「あ、小笠原(おがさわら)さんお疲れ様です!」

「木下さんお疲れ様!」


 彼は職場から抜け、廊下で後輩女性の木下さんとすれ違い、走りながら挨拶し颯爽と外へ向かう。


「小笠原さんがあんなに急いで帰ってるの、珍しいですね.......」


 木下さんのポロッと漏れた呟きに、近くにいた同じ部署の中年の男性は笑みを浮かべながら言う。


「そりゃそうだろ!なんたって今日は娘さんの誕生日らしいからな!」

「あ!それで!小笠原さん会社内でもすごい有名な家族想いのパパさんですもんね!」


 男はごくごく普通のサラリーマン、営業成績も飛び抜けて優秀と言うほどではなく、せいぜい中の上といった成績を残している。

 誰よりも家族を想い、仕事に取り組むその姿勢は会社内で大きく評価され、部下や後輩、先輩方からも尊敬の眼差しで見られている。


「全く羨ましいよ、俺にもそんな子供と妻が欲しいです......うぅ!」


 中年の男はわざとらしく泣き始め、木下さんは呆れ顔で、「モテない人って大変そうですね」とトドメの一撃をぶち込まれ、眠るように倒れた。



 午後19:00。


 辺りは暗くなり、街灯の電気が付き始め、車のライトが眩しく目に入ってくる。

 そんな道を私はウキウキで走っている。


「はぁはぁ!早く帰って春にこれを渡さないと!!」


 私は手に持つ鞄の方をチラッと見た。

 この中には娘が欲しがっていた大人気キャラクター、『カマ猫』シリーズの小さい猫のぬいぐるみキーホルダーが入っている。


 ある時ネットに投稿された、鎌を構えているオカマな猫のイラストが「可愛い!」「猫とオカマと死神ってギャップがあって萌える!」「命を捧げたい」などと話題を産み、大ブームが到来した。

 グッズ化されるも高額転売が横行し、入手が困難だったが、ある日営業で訪れた街で、たまたまおもちゃ屋に売られているのを発見し購入。

 家に置いてもしも娘に見つかったら、プレゼントを渡した際の驚きが薄れてしまうため、ずっと鞄に入れ、大切に保管していた。


 それを今日!遂に娘に渡せる!


 渡した時の喜ぶ娘の姿を想うとさらに力が溢れ、歳で走るのがキツくなっていたのが嘘のように走り続けられた。

 娘の喜ぶ顔を想像して、ニヤけ面になりながらしばらく走っていると、何かが聞こえてきた。


「はぁはぁ......ん?はぁ...なんの音だ?」


 道路から騒音が響いて来る。

 騒音の方に顔を向け見ると.......まるで時間が停止したかのように、その光景がはっきりと見えてしまった。


 私の方へ突っ込んでこようとする車がいた。


 車はあまりに近すぎてライトが眩しく、誰が乗ってるのか、何人乗ってるのか、車の正確は形はわからない。

 辛うじてシルバーカラーの小型車である事はわかった。


「......え?」


 思わず小声で呟く私。

 しかし時間は無常にも常に動き、私はそのまま車に撥ねられた。



 体が所々歪な方向を向いている。


 人の悲鳴が聞こえた。


 意識が朦朧とする。


 よく見えない目が、目の前に娘を映し出した。

 ようやく娘に会えた喜びで、感触の消えた動かない腕で鞄を娘に近づけ。


「は...る....ぷれ...ぜ...............」



 そうして私の意識は消えた。




「どこだ......ここ?私は.......何が起きたんだ......?」


 目が覚めるとそこは真っ白な空間だった。

 永遠に続いていそうな白い風景、それ以外の物は存在しない。


「まさか私は......死んだ......のか......?」


 私の脳裏に徐々に最期に見た光景が蘇ってくる。

 間違いなく私の方へ来ていた車......だがその後の事は思い出せない。

 あれは夢だったのか、それとも現実で私はあの時車に撥ねられ......ここは死後の世界なのか......。


「い、いやまだ諦めるのは早い!早くこの場所の出口を探して春の誕生日パーティーに行かないと.......!!」


 私は手に持つ鞄に入る、娘へのプレゼントを渡すため出口を探す。



 そして....私は3時間ほど走り続けた。


 だが、見えているのは最初と何も変わらない白い空間。

 どっちから走ってきたか、今どこを走っているのかもわからず、ずっと走り続けている。


 走っていて気づいたことと言えば一つだけ。

 この場所では何故か疲れを一切感じない。

 いくら私が娘を想って力が溢れているとはいえ、いくらなんでも3時間も走ってはいられない、1時間でばてて倒れる。


 それに、仕事から走って帰っている際、妻の作る料理を想像してたら腹が減っていたはずだが、今は空腹感を一切感じない。

 もしかするとここは地獄で、永遠に何も感じず、どこにも逃げれないこの場所は、私への罰なのではないかとも思い始めてきた。


 しかし自分で言うのもなんだが、私は地獄に落とされるほど悪いことは全くしてない。

 いつも娘と妻を想い、仕事も真面目に取り組み、私に娘を幸せにする『力』をくれた神様にも日々お祈りをしている。


 では地獄でないならここはどこなのか。

 わからない。

 だから私は今もただ走り続け、出口を探すことしかできない。


その時だった。


 天井なのか空なのかわからないが、上に穴が現れた。

 突然の事に立ち止まり、なんだなんだと見ていると、その穴から女性らしき人が降りてくる。

 人と言っても、背中からは羽が生え、無地の仮面を被っており、本当に人なのかはわからない。

 人だとしたら、ちょうど娘と同じ歳かそれよりちょっと下くらいかと思う。


 その、人らしき者は床に降り立ち、私に近づいてくる。

 ようやくこの未知の場所で誰かと出会えた喜びに私も走ってその、人らしき者に近づいた。


「ようこそ人間よ、私の空間へ」


 その女性は立ち止まり、私に声をかけてきた。


「あ.....えっと......」


 近づいたものの、何と言えばいいのかわからず口が籠っていると。


「ふむ.....まずは自己紹介といきましょうか。こんばんは、私は女神、貴方達人間を見守る神です」


 それを聞いても特に驚けなかった。

 いきなり神を自称してきても、とてもじゃないがその女子高生ほどの見た目で言われても信じられなかった。

 しかしこの空間について知っていそうな彼女の機嫌を損なわせる訳にもいかないので、神という設定だと乗ってあげる事にした。


「んんっ.....!どうもこんばんは、私、小笠原と申します」

「小笠原さんですね、まぁ知っていましたが。しかし良い挨拶ですね、近頃の人達は礼儀を知らないのか挨拶すらできない人が多いんですよ。特に若いの」


 よし、まだ挨拶しかしてないのに何故か好感を上げれたようだ。


「そうですか、近頃の若い方々の中には、挨拶やお礼がしっかりとできない方も多いようですからね。私の娘の(はる)には、そのようなことがないよう、きちんと礼儀を身に付けさせるよう努めております」


 そう言うと女神は何かに反応したかのように、体をピクッとさせた。

 

「へぇ....春のお父さんとして立派に父親をなされていたようですね」

「はい、娘と妻が私の生きがいでして……あ、失礼。女神様。実は本日、娘の誕生日パーティーがございまして、急いで帰宅しなければならないのですが、出口はどちらにございますでしょうか?」


 最初は女神の機嫌を取りつつ、徐々に出口を聞こうかと思っていたが、娘と妻を思い出すと今すぐにでも帰らなければと焦燥感に駆られ、女神にストレートに聞いてしまった。


「小笠原さん.......あなたはここに来る前、最期に見た光景を覚えていますか?」

「え、車に撥ねられた……ような気がしたのですが、気がつけばこの場所に……」

「......そうですか」


 そう言うと女神は少し黙り、落ち着いた声を出した。


「とても残念な事ですが、あなたは車に撥ねられ、そのまま死んでしまいました」


 言葉が出なかった。

 女神は淡々と私が死んだ事を告げてきた。

 信じたくなかった。

 あれは夢の中での出来事だと思いたかった。

 だが、女神にそう言われた瞬間、私の記憶の中にも撥ねられた後の記憶が蘇ってきてしまった。


「そ....そんなの....嘘だ......早く....私は家に帰らないと行けないんだ....娘の誕生日が.........」


 震える声で否定しながらも、どこかでそれが本当だと、現実だと理解できてしまう。

 今すぐにでも家に帰りたい、実は今も夢の中で、今この瞬間に夢から覚めるのではないか。

 私はそんな現実逃避をしている。


「信じたくない気持ちもわかりますが、現実です。受け止めてください。」

「ど、どうにか......なりませんか...?本当に女神様なら人1人生き返らせる事だって......」


 そう女神に震え声で請うも、残酷にも首を横に振られてしまう。


「ですが、そんなあなたにも希望はあります」


 絶望で俯いていた私はその言葉を聞き、まるで心に一筋の光が入ってくるかのような気持ちとなって、女神を見た。


「き....希望....ですか......?」

「えぇ、貴方は運良く転生特典を得た、選ばれし人なのです」


 そう言うと女神は何処から出したのか、先ほどまでなかったはずの椅子に座った。


「貴方にはこれから異世界へ転生してもらい、そこにいる魔王を倒してもらいます」


 急にドラハンのような世界の話をし始めた女神の内容はこうだ。

 その世界は魔王によって支配されており、人々を救うため、選ばれし者に特殊な力を与え転生させている。

 私はそれに選ばれたらしい。

 転生の仕方も様々あるようだが、今すぐにでも帰りたい私には、『転生転移』がおすすめと言われた。

 そして、見事魔王を倒したその時、願いを一つ叶えてくれるらしい。


 さらに、「本来なら魔王を倒すのが条件ですが、春を良い子に育てた事を讃えて、特例として魔王軍の幹部の者.....いえ、これから貴方を送る街の、そこに住む人々に危害を加える強大な魔獣、それを討伐すれば願いを叶えてあげましょう。勿論事故に合う直前に時間を巻き戻す......なんて願いも叶えられますよ」


 まるで詐欺師の手口だ。

 魔王なんていうからには恐らく強力な存在だろうし、それを最初に出す事によって、幹部や魔獣でも良いよと急にハードルを下げれば、どうしても叶えたい願いを持つ者は飛びついてしまう。

 事実、私も飛びつきそうになっている。


 今すぐに、「ふざけるな!私を家に帰せ!!」...と言ってやりたいが、他に選択肢がなさそうなのも事実。

 もしこれに激怒し、女神の機嫌を損ねれば、女神はここから消え、永遠に私をここに置き去りにする事だってできるかもしれない。


「わかった......転生します」


 私は半強制的に女神によって決められた転生を渋々承諾した。

 女神の言う事を全て信じるなら、すぐにその魔獣とやらを倒しに行けば、家族とまたすぐに会える。

 私はそれに全ての望みをかける事にした。


「では、こちらに」


 そう言って女神は座っている自身の元に近づいて来るよう私に手で指示する。

 それに従い私が女神の前に立つと、女神も立ち上がり私の顔に手を向けた。

 すると私は光に包まれ始めた。


 本当は行きたくない、娘に......妻に会いたい。

 そんな気持ちを押し留め私は目を閉じる。


「では、健闘を祈っております」


 女神がそう言うとより一層強い光が私を包み、そして消えた。


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