17.至福は終わる
「な......てめ、冒険者か!!」
イスから立ち上がり、女に声を上げた。
仲間の死にこれが冒険者の襲撃と、剛児はようやく理解した。
だが少し気になるのは女の服だ。
まるで現代の女子高生の制服をモチーフにしたかのような服装であり、剛児に嫌でも現代を思い起こさせる。
すぐさまその女と戦おうと相棒のボルンは、ジャンビーヤという特殊なナイフを二刀を持ち、構えた。
そんな2人を見て女は、警戒という言葉が存在しないのか、気にせず堂々と2人に接近してくる。
間違いなくあの女は魔導士。
魔導士のくせに杖を持っていないのが引っ掛かるが、と剛児は女に手を向けて叫んだ。
「『魔力0』!!」
『力』を使うと、他者には見えない光のようなドーム状の壁が剛児を中心に現れ、広がった。
剛児のその言葉に少し眉が反応したそぶりを女は見せるが、構わず歩き続ける。
広がる光の壁は、女を通過すると空気に同化する様に消えた。
この壁を通過した者は、たとえ物だろうと魔力を全て失い、喋るだけの無力な人形となる......。
はずだった。
確かに壁は女を通過した。
だが、女は何事も無かったかのように、平然と歩いている。
魔力が無くなれば、体を支える力がなくなり、倒れるのが当然のはずなのに、女は歩き続けている。
目の前で起きた不可思議な現実を理解できず、剛児の思考は一瞬止まった。
そんな彼と同様、その『力』が絶対であると信じている相棒のボルンにも動揺が走っていた。
「お、おい兄弟!!あいつ魔力無くなったのか!?なんで平然と歩いてるんだ!!?」
「確かに魔力は空になったはずだ......まさか避けたのか......!!」
女が歩いているその理由、それは避けたからだと剛児は考えた。
あの女は俺にしか見えない光の壁をどうやってか見た、それが自身に到達する瞬間、見えない速度で避けた.....そう剛児は結論した。
かなり無理があるが、他に考えられないとそう決めつけるほかなかった。
だったらどうするか、答えは簡単だ。
「『拘束』!」
女の手足に手錠が現れ、口をガムテームで止める。
さらに縄で腕を体に固定させ、身動きができない様拘束した。
女は突然の事に、「んっ!?」と驚きの声を出す。
間髪入れず彼は、「『魔力0』!!」と叫び、再び光の壁が現れ、今度こそ間違いなく女を通過した。
誰がどう見ても移動できるような姿ではなく、剛児もボルンも今度こそ決まったと安堵の表情を浮かべている........が、すぐにその表情が消えた。
女は立っていた。
女は彼らの持つ絶対の理を2度も打ち砕いたのだ。
まるで得体の知れない生物か何かと対峙するかのような、未知の恐怖を剛児は感じた。
そしてようやく剛児は理解する。
この女はどうやってか、自分の持つ『力』の『魔力0』が効かないことを。
だが恐怖や動揺こそあれど、逃げるといった選択肢はまだ頭に出ていなかった。
なぜなら『拘束』の『力』は効いているからだ。
そのため、すでに身動きはできないだろうし、口がガムテープで塞がれ魔法を唱える事もできないはず。
女が本当に魔導士であれば、ほとんど勝ちが確定している状況なのだ。
「ボルン......トドメ刺せるか?」
剛児は動揺しながらもボルンに確認する。
「ああ......少なくとも拘束は効いている、詠唱ができなければ魔法は使えない。焦る必要はない......確実に殺すぞ......!!」
ボルンは手に持つジャンビーヤを強く握り締め、女にジリジリと近づく。
一方、女の方は拘束されているにも拘らず、焦りの色は一切見えない。
それどころか、まるで楽しんでいるかのように目を輝かしていた。
その目に気づいた剛児は、より一層の不気味さを感じる。
そしてその目に変化が起きた。
ボルンが恐る恐る近づいていると、目の表面に魔導士が魔法を使う際に現れる、魔法陣が浮かび上がったのだ。
目の大きさに合わせて小さいが確実に魔法陣、それに気づいた剛児と、そしてボルンにも緊張が走った。
「ボルン!!!早くトドメ刺せッ!!!!」
「う....うおおおおおおぉぉぉぉッ!!!!!」
ボルンはすぐさま女を殺すため走り出す.......が走り出した瞬間、魔法陣から赤い光線が放たれた。
先ほどの雷と違いただただ一直線に、目では捉えられないほどの速度で、ボルンの首に直撃した。
「......え」
首はその光線により切断され、胴体と切り離された頭が宙を舞う。
ボルンの体は、持っていたジャンビーヤを両方とも床に落とし、宙を舞っている頭は、前に構えていた手に落ち、自分の頭を両手で抱える姿を晒した。
やがてボルンの首からは大量の血が噴出し、剛児の顔に彼の血の飛沫が飛ぶ。
それに思わず剛児は腰が抜け、後ろに倒れ込んだ。
「っ....ボ......ボルン......!!!??」
信頼していた相棒のその無惨な姿に、最早戦意は完全に消え失せた。
次は自分の番だと戦慄し呼吸は乱れ体は震え、歯をガタガタと鳴らし、体中から凍てつく汗が垂れ、ただただ自分の無事を心中で神に祈ることしかできなかった。
生前の彼ならここまでの恐怖を味わうことはなかったのかも知れない。
女を食えば一時的に満たされるが、犯罪者すらも現代社会という鎖で縛られているが故の、真の満ちを味わえた事がなかった。
人生が永遠に満たされる事のない渇きを、生前の剛児はずっと感じていた。
だから死刑になろうと彼に恐怖などは一切なかったが、この世界で何者にも縛られず、自身の理想としていた生活、幸せの絶頂を味わっていたことで、彼に死への恐怖が芽生えてしまったのかもしれない。
「んー.......んんッ!!!」
女が何か叫んだ。
だがもはや何を言っているのか考える事もできないほど、剛児の脳は荒れていたため情けなく、「ひっ!?」と声が出た。
すると、空が見える天井の穴から鳥のような何かが降りてきた。
それは明らかに生物ではなく、何らかの機械部品と思われるガラクタを繋ぎ止めて鳥型にしている、恐らくは魔道具の一種だと思われる。
その鳥型の魔道具らしき物は、降りてくると女の左肩に乗り、ゆっくり嘴を開けた。
「いやー驚いたーっ!!!」
意味がわからない事に鳥が喋った。
さらに意味がわからないのは、その声は間違いなく最初に聞こえた、今目の前で拘束されて喋ることができない筈の女魔導士の声であった。
「なるほどなるほど!ただの山賊討伐でやけに高額だと思ったらそう言うことかぁー!!!」
鳥が興奮気味に、楽しげに喋る。
気のせいか、女もそれに合わせて体を揺らして楽しんでいるに見える。
すると女は自身の拘束された体を見て、「......いい加減邪魔ね」と鳥が喋り、突然女を拘束していた縄と手足の手錠が切れた。
手錠はアルミ合金製であり、そう易々と切れる素材ではないはずなのにだ。
何をやったのか、何で切ったのか、剛児にはさっぱりわからなかった。
女は拘束から解放され、体をグーッと伸ばす。
そして、口に貼られていたガムテープも剥がし。
「ん....んぅ....で、この明らかに現代の警察の手錠.....スキルや魔法とは明らかに違うさっきの『力』.....あなた......転生者ね!!!」
今度は鳥ではなく、女が喋り始める。
そしてその内容が、『転生者』。
「て......転生.....者.......?」
剛児は未だ恐怖で混乱し、か細い声で呟く。
だが、転生者と聞き辛うじて理解できたことがある。
こいつもあの女神に送られた転生者であると。
自身の『魔力0』が効かない女の持つ異常な体の正体は、自分と同じように女神からもらった何らかの『力』であり、異世界では見ない現代の女子高生のような服装も転生時に着ていた服を改造した物だとしたら合点がいくと彼は考え、答えに辿り着く。
そんな彼をよそに、女は身を震わせながら叫んだ。
「異世界転生者バトルきたあーーーッ!!!!」
女のわけのわからない発言に、剛児はただ黙って見ているが、気にせず女は喋り続ける。
「しかも、貴方も『覚醒者』なんでしょ?黙ってるから勝手に推測するけど、さっきの拘束の『力』が現代で持ってた『力』で、女神様から貰った権能が、最初に使ってた『魔力0』でしょ!当たってる?ねぇねぇこれ当たってる!?」
剛児が恐怖で喋れないことなど気にしない、というか気づいていなさそうな女の表情はこの上なく楽しそうだ。
「ちなみに私も転生者で『覚醒者』なんだぁ〜!ところで『魔力0』ってどんな権能なの?もしかして名前の通り相手の魔力を0にする......とか?」
剛児はその『力』の内容を言い当てられ、ドキッと心臓を鳴らす。
「ちなみに私は『魔力無限』、その名の通り魔力が無限にあるんだ〜!すごいでしょ!師匠から体も頭もおかしいって言われるレベルなんだから!女神様には本当感謝しないと!!にしても.....ふふ、ねぇどんな気持ち?目の前に天敵の権能を持つ奴が現れた今の気持ち!!!」
女は興奮のあまりか踊り始めた。
「私もいつか自分の天敵に会って見たいなぁ〜、死闘の末......遂に倒れる私......そしてまさに死の間際!素敵な勇者様に助けられてそのまま勇者パーティーの仲間入り!!勇者との恋....悲しき仲間との別れ......!!けど旅路の果てに遂に魔王を打ち倒す!!!そしてそこからが本当の王道冒険の始まりだぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!.........まぁ魔王なんてもういないんだけどね、ちくしょう!!!」
女が踊っている間に、剛児は心を落ち着かせ冷静さを取り戻しつつあった。
先ほどまで未知の存在と思っていた女が、自身と同じ転生者だと知れた。
つまりは強力な『力』を持つだけのただの女。
そして『魔力0』が効かなかった原因もわかり、冷静に対処し隙さえつければ殺せると、彼は考えた。
自分をコケにするかの様な、女の挑発的な言動に怒りを抑え、剛児はそのチャンスを静かに待つ。
一通り喋り終えた様子の女は辺りを見廻し、隅で倒れている裸の女の方を見つめた。
「......ん〜、同じ転生者だしできれば見逃してあげたかったけど、あなたは最低最悪の人間......最低最悪の山賊?いやファンタジー物の山賊ってそもそも最悪か。とにかく生きていてもこの世界の害にしかならなそうね」
女はよそ見をしている。
剛児は絶好のチャンスと思い、隠し持っていたナイフで女の首を切ろうと切り掛かる。
しかしそれは無駄だった。
ナイフで切り掛かる剛児に気付いていたのか女は、「<ノイズ・プロテクト>」と言い、ナイフが見えない壁に弾かれた。
「な......!?」
「じゃあバイバイ!」
彼が最期に見た光景は、女の手に現れた炎の玉が自分に向かって放たれる光景だった。
4年という長い年月の間にどれだけの人々が彼に恐怖し、悲しみ、命を奪われたかはわからない。
彼の行いは帝国の歴史に永遠に残り続けるであろう。
そして、女神によって異世界に送られてしまった凶悪犯は、同じく女神によって送られた転生者により、あっけない終わりを迎えたのであった。
◆
「いやーにしても、こんなところで転生者に出会えるとはなぁ〜!!これで2人目だし本当にあの女神様は何人も送ってるんだ〜、次はどんな転生者と出会えるのかな?できればゲーマーで一味違う戦いができる人が現れてくれると嬉しいんだけど.........そういえばこの人結局前世で『力』持ってたのかな?『力』を持つ『覚醒者』が転生者に選ばれるのかと思ったけど.......ま、いっか!ひとまずこの人以外は生き返らせて賞金もーらお!生け取りの方が依頼報酬高...い.....しって、あれ?この人もしかしてベルランド・ボルン!?やったぁー!!賞金首2人もいるじゃん!!そろそろ高級な魔法の杖がファッションで欲しかったしラッキー!......あぁ女神様!私は今、異世界を満喫しております!!!」
登場人物
【女魔導士[永遠の18歳]】
現代の女子高生の服を改造して着ている女魔導士。
女神によって異世界へ送られた転生者の1人で、前世では重度のゲーマーだった。
・力『???』
不明
・『女神権能:魔力無限』
どれだけ魔力を使おうと決して尽きることのない権能。




