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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第二章『転生犯罪』

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16.欲望の山賊

 ここはとある山奥にある廃墟の修道院。

 そこまで大きくなく、誰がいつ建てたのかは分からない。

 中にはボロボロの木の椅子と机が並ぶだけで、ところどころ割れている窓ガラスがその不気味さを上げている。


 だがそんな廃墟の中から、複数の男達の汚い笑い声が響いていた。

 お世辞にも綺麗とは言えない小汚い服を着た、剣を腰に差す男達。

 品性のかけらもない男達は、酒を豪快に飲み、仲間達と汚く笑いながら肉を食べている。


 その隅には、悲惨な姿の若い女性が5人、鎖に繋がれた状態で座っている。

 どれほど酷い扱いを受けたのか、その目には生気が宿っていない。


 そしてその室内の奥、男達が座っていたボロボロの椅子に比べ綺麗な木の椅子に座る男が二人いる。

 男の名前は長崎剛児、かつて現代世界で死刑となり、この世界に転生してきた男だ。

 男は20人の部下と1人の腕の立つ相棒を持っていた。


 相棒であるベルランド・ボルンは剛児と向かい合うように椅子に座り、綺麗な机の上に置かれている肉と酒を共に味わっていた。


 彼らの正体は山賊。

 プレティー二郊外の山奥に住む集団であり、山道を歩く冒険者や商人を、場合によってはプレティー二に住む人々から金品食料を強奪し、時には若い女性を拉致する、野蛮な集団である。

 ここ数年プレティー二内では強姦・窃盗・殺人事件が頻発しているが、ほぼ全てこの男達の仕業であると言っていいだろう。


 この山賊達を当初は帝国軍が追跡していたが、1年ほど前に始まった、帝国の南に位置するブリスニア共和国との戦争で、プレティーニの兵士が手薄となり追跡が困難となったため、国は冒険者協会に山賊討伐を任せた。

 冒険者協会は山賊達の拠点が判明次第、冒険者達に手配書とは別で山賊の高額討伐依頼を出すが、すぐに逃げられ拠点を変えるため、彼らの確保ができていない。

 仮に山賊達と対峙できたとしても、返り討ちに合うのがほとんどだった。


 男の人生は至福に満たされていた。


 現代の世界では決して叶わない理想の生活を実現した彼の手元には、自身の命令を......どんなに非道で残忍な命令も絶対に遂行する部下達、そこらの冒険者よりも腕の立つ相棒、何よりも自身の持つ神からの贈り物、2つの『力』の存在が彼の人生を彩る。

 現代に残してきた家族だった者たちの事など疾うに忘れ、彼は異世界をこの上なく満喫していた。


 そんな彼と相棒のボルンは、今日も楽しげに話をしている。


「なあ兄弟、俺らの組織も.....もうだいぶ長いな」

「そうだな...あの事件からもう4年.......改めて俺について来て正解だっただろ」

「ああ、こんな汚い所ではあるが貴族に戻ったみたいな暮らしだ。全く最高だよ」


 そう笑みを浮かべながら、ボルンは酒を贅沢に溢しながら飲んだ。


「なんだ、まだ貴族とやらに憧れてんのか」

「いや憧れてるんじゃなくて俺は“元”貴族だからな!戻りたかったのよあの自由だった暮らしによ」

「はは、そういや最初に会った頃にそんな事言ってたっけな。じゃあ一つ聞くが、もし今貴族に戻れる権利を得たとして、戻るか?」

「はっは!そりゃ戻れるなら戻りてーが、あの皇帝のクソ野郎が死ぬまでは無理だな。それに....今の生活は結構気に入ってんだ.......なぁお前らー!!!」


 ボルンは酒の入った木のジョッキを掲げ、酒を飲む部下達に向かって声を上げた。

 部下達もそれに応えてジョッキを掲げ叫ぶ。

 その光景にボルンは勿論、剛児も口元が歪んだ。

 手足となる部下の存在は、自身に絶大な力があるのだと再認識させてくれる。


「ふー.....それに、俺は兄弟のことも気に入ってんだぜ」

「俺に?気持ち悪りぃな」

「そーいう意味じゃねーよバカ!兄弟のその力ってやつだ。未だにその力の原理がわからん。明らかに世界のルールを外れてるとしか思えん!それか......魔法を超えた権能の可能性も....」

「だぁから言ってんだろ.....俺はこの世界とは違う別の世界から転生して来たんだよ」


 剛児の言葉に、ボルンは今日一盛大に笑った。


「はっはは!!!ああ聞いた聞いた!転生だってな!はっは!!兄弟の力はその元いた世界で得たからこの世界のルールを外れているってな...!何度聞いても笑っちまうぜその話!」

「っち、いつになったら信じるんだお前は」

「死んだ時の肉体を持って、別の世界に生き返るとかいう話を信じろって方が無理ってもんだろ!」


 本来であれば自分をバカにする発言を許さない剛児だが、ボルンとは長い付き合いのためそんな言動も許していた....が、流石にイラッとしてきているのが彼の表情からも読み取れる。


「あーもういい、んな事よりも次の仕事だ」


 そう言って剛児は2枚の紙を机の上に出した。


「お?盗んだエルフの奴隷死なせて落ち込んでたのに、ようやく立ち直って仕事やる気になったのか?」


 ボルンは10日前に起きた、彼らがある富豪の家から盗んだ女エルフの奴隷で遊び、そのまま死なせた事件を思い出していた。

 当初はエルフの奴隷はそのまま別の富豪へ横流しする予定だったが、剛児がそのエルフを気に入ってしまい、三日三晩遊んでいたら壊れてしまった。

 売り物としての価値が完全になくなってしまったので、流石にボルンも頭を抱えた。


 そして次の日、エルフは死んでおり、お気に入りが死んだ剛児はしばらく落ち込み、仕事と仲間への指示を全てボルンに任せていたのだ。


「エルフってのがなかなか気持ちよかったから、ちょっと調子に乗っちまったんだよ。蒸し返すな」

「エルフって盗める機会少ないんだから.....次があったら気をつけろよ」

「ふん、いざとなりゃエルフの大森林とやらに入って攫えばいいだろ」

「ま、お前の力ならそれもいいかもしれないが........そういや少し前に聞いた話なんだがよ、隣街のリンスって所でよ、噂になってんだよ」

「あ、噂?」


 ボルンは肉を食べながら、何かを思い出そうとしていた。


「ん〜、確か.........あーそうだ、賢者だ。賢者って名乗る奴が1ヶ月ほど前に、オルレイアンの森で盗賊達からエルフを奪って、追いかけていった盗賊達を返り討ちにしたらしいぜ」

「賢者だぁ?」

「ああ、聞いたことない名前だが、確かにそう街で聞いた」


 ボルンの話を聞いた彼は、不気味な笑みを浮かべ舌舐めずりをした。


「つまりその賢者って奴は、エルフを持ってんだな?」

「金が目的なら既に横流ししてるかもしれねぇが、もしかしたらまだ持ってるかもな。けどこの賢者って奴がまた厄介な奴らしくてな。なんでも森の全てを把握してるらしいし、どうやってか、追ってくる盗賊達の持つスキルが全て見抜かれてたらしくてな、それに対抗するための魔道具を持っていたんだとよ」


 剛児はボルンの発言に鼻で笑い答えた。


「ふん、俺の『力』ならなんの問題もないだろ、この仕事が終わったら、その賢者ってやつに会いに行ってエルフ奪うぞ。今度は死なせねぇ様に気をつけなくちゃな.......」


 それにボルンは苦笑いをし、了承した。

 ボルンも、そして剛児自身も、剛児の持つ『力』はこの世界で無敵に等しいと確信しており、誰が相手でも勝てるという慢心に近い考えを持っていたため、賢者の噂を聞いても2人は全く恐れなかった。


「んで仕事なんだが.....」

 そう剛児が言いかけた時だった。



「おいおい嬢ちゃん、ここがどこだかわかってんのか?」

「わかってるわよ、あんた達山賊でしょ」


 部下と聞き覚えのない女の話し声が彼らの耳に入ってきた。


「それがわかって中に入ってくるとは、よっぽど俺らと遊んでほしいみたいだな!」

「ボスー!なんか知らない女が入って来たんですが?」

「あれ?というか見張りの奴らはどうした?」

「どうでもいいだろ!なぁ姉ちゃん、早速俺らと遊ぼうか.......」


 男はそう言い、女の胸を触ろうと手を伸ばす。

 しかしその手は、女が手で受け止め止まり、その手を優しく握った。


「お?」


 女は男に笑みを向けて静かに呟いた。


「<パイロ>」


 女がそう言うと、「熱っ!」と男から声が出た。

 男が熱を感じたであろうその手を見ると、自身の手が燃えていた。

 さらに男の手から広がるように、腕、肩、胸、頭、足の皮膚が次々と燃え始め、炎が上がった。


「ああぁッ...!!?ああああぁぁぁぁぁああああああああ水みずみ...ず......!!!!」


 火は瞬時に男の体全体を包み、一瞬で男は燃え尽きた。

 男が倒れると火はシュンッ...と消えた。

 男の体は、真っ黒な燃え滓の様な姿に変わり果てており、絶命した事が確認するまでもなくわかる。


「な......なんだて、てめー!!!!」


 山賊達は動揺しながらも、一斉に剣を抜き女を殺そうと迫る。

 女は少し考える仕草をし、何かを決めたのか、右の手の平を広げ、前に出す。


「<チェイン・ライトニング>」


 そう女が言うと、女の手の平から雷が現れる。

 蛇のように畝り、雷鳴を轟かせるその雷は、目の前の山賊に放たれ、山賊の体は白い閃光に包まれた。

 そのまま雷は、まるで意思を持ってるかのように動き、その山賊の近くにいた者から順に、連鎖して当たり、山賊達は全員閃光に包まれる。


 悲鳴の一つも聞こえず、白い光が消えた後に残ったものは、黒焦げとなり、異臭を放つ十数人の山賊達の死体だった。

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