10.賢者の森(1)
「お.....おっちゃん!?」
「よう兄ちゃん!久しぶりだな!」
男は先程まで俺を食おうとした赤色蛙<レッドグルヌイユ>を切り倒し、俺の方へ歩きながら声をかけてくる。
そこにいたのは、あの時協会で会ったおっちゃんだった。
「な......なんでここに...痛ッ!」
「落ち着け、とりあえずこれ飲め」
そう言っておっちゃんは俺に緑色の液体の入った瓶を渡してきた。
これは[回復の霊薬]と呼ばれるもので、傷を癒す効果のある液体だ。
ゲームで言えばポーションの様な物。
「あ、ありがとう......」
俺はおっちゃんからそれを貰い、飲む。
すると肩からの出血は止まり体の痛みも若干楽になってくる。
「おお!初めて飲んだけどさっすが異世界版ポーション!!あっという間に全回ふっ...いだだだッ!!!」
俺は回復してテンションが上がり起き上がってジャンプするとズキッと体に痛みが走り、悶えた。
「ばーか、あんな傷だらけの体じゃ一本で完治しねーよ....いや、その肩の傷じゃ何本霊薬あったって即治るわけねーだろ」
おっちゃんの言葉に、俺はため息と共に大人しく地面に座った。
「それでおっちゃん、なんでこんなとこに?」
「ああ、依頼で森に入ってたんだがよ、遠くから女の叫び声が聞こえてな。急いで駆けつけてみたらこの有様よ」
女の叫び声.....最初にエルフが俺に助けを求めたあの声かな。
「あれで来てくれたんだ.....他の仲間は、連れてきてないの?」
「いや、仲間も連れてきてたが.....兄ちゃん達の後を追ってたら罠に掛かった奴や、足を矢で撃ち抜かれてた奴がいたんでな。そいつらの介抱してもらってるよ。あれは兄ちゃんがやったのか?」
俺は小さく頷いた。
「へぇ.....大方盗賊だろうに、そいつら相手によく無事でいられたな。それに最後の剣捌き.....しっかり見させてもらったよ。ヘンテコな構えだったが良い一撃だったぜ!」
嬉しいと同時に自分なんかまだまだという卑屈な気持ちが混ざり合う、嬉し変な気分だ。
憧れの人に褒めて貰えるのはこんな感じの気持ちになるのか。
「んで、そっちの姉ちゃんが声の正体か」
おっちゃんの目が木の影に隠れ、こちらをじっと見ているエルフに移る。
「エルフ...か......」
俺はおっちゃんの反応を見て思い出した、おっちゃんの仲間の1人がエルフに殺された事を。
それにおっちゃんも帝国人.....エルフへの価値観は盗賊達と一緒なのかもしれない。
最悪......今ここであの娘を......。
「ま...待ってくれおっちゃん!!このエルフは害がない普通の.....「フーシュの事に関しては、別に恨んじゃいねーよ」
「...え?」
予想のしてなかった言葉が飛び、思考が止まった。
「冒険者ってのはモンスターや動物を殺すし、場合によっては亜人を殺す。特に亜人は知能があって言葉を話せる、大抵殺す直前に命乞いをするし子供だけは助けて....なんて言う奴もいる。それでも殺す奴を世間じゃ冒険者って呼ぶんだ。それなのに自分の仲間が殺さて許さない......なんて考えは持っちゃねーんだよ」
.....本当に憧れるよおっちゃん。
「んじゃ、俺はそろそろ行くぞ。あそこで伸びてる盗賊は俺の方で回収しといてやるから安心しろ」
そう言っておっちゃんは先程倒した盗賊を指差した。
「あ...ちょっと待って!図々しい願いなのはわかってる......けどこの娘を、エルフの森まで帰して欲しい!」
「そりゃ構わねぇが.....そこのエルフ!!」
おっちゃんが隠れるエルフを呼ぶ。
けどエルフは木の影から出てきそうになかった。
しかし別にその表情は何かを怖がっていると言うわけではなく、まるで見たことのない生物に接する時の様な表情だ。
「あー.....お前さん、エルフの森をどのくらい熟知している?あの森はかなり広いしモンスターも生息してる。俺たちは中に入ればエルフに問答無用で殺されるから入れん。連れてくんならエルフの森の手前までだが」
「......知らない、村の外...出たことない......」
エルフは警戒しながらも口を開いたが、内容は最悪だった。
「じゃ、じゃあ街に連れてっておっちゃんが育ててくれないか?」
「そりゃ無理だ、兄ちゃんも知ってると思うが帝国内ではエルフに人権がない。とてもあの国にはエルフは置いておけないんだよ」
おっちゃんは申し訳なさそうな顔で俺に話した。
わかってはいたがおっちゃんでもエルフは守れないってことか。
どうしたものかと俺が頭を抱えていると。
「......助けたのは兄ちゃんだ、後のことはしっかり自分で考えるんだな。それが男としての責任ってもんだ。んじゃーな!また会おうぜ!」
そう言うと、気絶している盗賊を持ち上げおっちゃんは去っていった。
俺は去り際に「....ああ!次会う時はもっと立派な男になってやらぁ!」と言ってやった。
森におっちゃんの笑い声が響き、やがて残響も消え、静かな森へと再び戻る。
エルフはおっちゃんがいなくなったのを確認すると俺に近づいてきた。
座っている俺と向き合う様に、しゃがみ俺の顔を見てくる。
「あぁ...えーっと......君の家のば.......「ごめんなさい.....!」
俺の言葉を遮りエルフは頭を下げ、突然謝罪してきた。
「私...あなたを見つけて.....助かりたいあまりに.....あなたを巻き込んでしまって.....」
声が少し震えている。
そりゃま、普通あんな盗賊達と強制バトルさせられたら恨み節の一つや二つ言いたくなるよな。
「いや.....別に気にしなくて良いよ、その後俺が逃げれる様に言い換えてくれてたし」
「で、でも.....」
「最終的にあいつらと戦おうと決めたのは俺の意思だ、君のせいなんかじゃ本当にないんだ」
なんとかエルフを励まそうとするが、かなり悲しんでいるようだ。
こういう時なんて言うべきなんだろうか。
「あー...っと、そうだなぁ..........こういう時は謝れるより、お礼でも言ってくれれば嬉しいかな!」
俺がそう言うと、俺の顔を見つめるエルフの瞳から雫が溢れた。
(え.....俺なんかまずいこと言った!?)
「ああ!いや別に言わなくてもいいんだよ!そうだよね助けたのは自分の意思とか言ってんのに何がお礼言えって感じだよね!ごめん!ちょっと調子乗ってました!!」
「...ぃがとう......」
「...え?」
「助けてくれて...ありがとう......」
「......どういたしまして!」




