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五人の『覚醒者』は異世界へ~五つの物語~  作者: オルレアンの人
第一章『転生賢者』

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7.間抜け


 攫ってきたエルフが突然叫び声を上げた。


「誰か助けてっ!!!!!」


 エルフは座りながら再び叫び出す。


「...!何だよ...ビビった...」


 それを聞き、盗賊の1人『ウォン』がエルフに向かって震えた声で言った。

 彼は盗賊で人攫いをしているが、それに見合わずかなりのビビリだ。

 リーダーである、ロングソードを装備した『ゲン』からはかなり冷たい目で見られている......が、彼の持つ探知スキルは便利なため連れている。

 彼がいなければエルフの森に入ってエルフを攫うことはできなかったであろう事は全員が理解していることだ。


「何かと思ったら...こんな森の中で誰かに助けてもらうつもりだったのか?馬鹿だな、もし冒険者の奴らが近くにいてもお前はエルフだ、助けてくれるわけねーだろ!」


 仲間の1人『リンギット』はエルフに毒づく。

 エルフが誰かを見つけ助けを求めた訳ではないと気づいたリンギット達は、剣を鞘に納めて警戒を解いた。


「っち!おい、これ以上叫ばれてエルフがいるのがバレると面倒だ、口塞ぐぞ」


 リーダーのゲンは木箱の1番近くにいた『ルピア』に命令する。


 彼らが危惧するのは同業者の存在だ。

 エルフは奴隷として高額で取り扱われるため、移送中に同業者の盗賊にエルフを奪われる事はよくある。

 ルピアは木箱から布...猿轡を取り出し、それでエルフの口を塞ごうと近寄り始める。


「い...いや!」


 エルフは近づいてくるルピアから逃げようと立ちあがろうとするが、仲間の1人である『ペソ』が自身の腰に付けているベルトと繋がっているエルフの首輪の紐を引っ張り、エルフを倒れさせた。


「うぅっ...」

「おいおい今更逃げれる訳がないだろ。怪我させると値が下がるんだから大人しくしててくれよ頼むから」


 ルピアはそう言いながらエルフの顔に猿轡を近づけ、倒れたエルフをペソが逃げられない様、肩を掴み押さえ込む。

 尚もエルフは顔を必死に振り、抵抗の意思を見せてくる。

 その顔は、唇は震え目には涙を流し恐怖を浮かべている。


「.....さない」

「あ?」


 エルフは恐怖しながらも男達に怒りの表情を見せた。


「許さない...!母も父も...村の皆んなも......あなた達がいなければ今日も平和に暮らしてた....!!絶対に殺してやるっ!!!」


 それを聞きゲンは嗤う。

 いや、ゲンだけじゃない、ウォン以外の男達がエルフを嗤っている。


「安心しろ、すぐに家族の事も忘れる家畜になるんだお前は。俺らの事もすぐに忘れるだろうさ。おい、早く口を閉じてやれ」


 ゲンがそう言うとリンギットはエルフの口を開け、ルピアは猿轡を入れようとする。


 その時だった。


 ゲン達に向かって、手のひらサイズはあろう玉が、どこからか投げ込まれた。


「っち!なんだ!!」


 盗賊達が気づいた次の瞬間、玉は破裂し、中から大量の濃い煙が湧き、爆発的に周囲へ広がった。

 煙は1秒と経たない間に盗賊達と馬車を含む周囲約15メートルを包む。


「くそっ!!煙玉か!!!」

「何処のどいつだゴラァッ!!!出てこいッ!!!」


 リンギットが怒号を上げ叫ぶ。

 盗賊達は煙の中、再び剣を抜き敵に備える。


「っち!さっきので同業者にバレたか.....!!」

「ん...?あ!!しまったエルフの縄が切られたぞ!!」


 喋ったのはペソだ。

 彼の腰のベルトから、エルフの首輪に繋がる紐が何者かに切られたらしい。


「っち!何してんだ馬鹿が!!」


 ゲンはペソに怒鳴り、すぐに仲間達に指示を出す。


「てめーら散開して敵を見つけろ!!恐らく敵は1人だ!!!すぐに見つけ出してエルフを取り返せッ!!!!」


 この煙玉による奇襲、そして敵はエルフを奪うだけで自分達には何もして来ない。

 ゲンはその情報から敵は1人か2人と仮定した。

 指示を聞いた盗賊達は煙の中、北に南に西に散開する。


「んでウォン!てめーは何ぼけっとしてんだ!!さっさと探知スキルを使え!!!」


 動く盗賊達の中、ウォンだけが座ったまま動こうとしておらず、そんなウォンにゲンは軽く蹴りを与えた。


「た、探知スキルは使ってるけど、この煙のせいで探知が妨害されてて正確な位置がわからないんだ...」


 ゲンはウォンの無能さに苛立ち始める。

 実際に探知を阻害する煙玉は売られているし、今使われているのがそれの可能性はある。

 だがゲンはエルフを奪われた怒りと、日々ウォンのビビリな性格に苛ついていたことが、今爆発してしまい、ウォンの言う事を一切信じなかった。


「てめーは街に帰ったらクビだ、2度と俺の前に姿見せんな」

「え...」

「見つけた!!北の方角に逃げてる男が1人!エルフも一緒だ!!!」

「っち!てめーら追うぞ!!」


 突然の事に呆然とするウォンを無視し、ゲンと残る2人の盗賊は声を発したルピアの方へと向かう。


 ゲンと2人の盗賊は煙を抜けると、他の仲間よりも先に2人を追いかけ始めているルピアの姿と、さらにその先には男が1人と逃げるエルフの姿があった。

 すでにエルフの手足を縛っていた縄も切られているようだ。


 逃げている男の格好は街の一般市民にしか見えないが、持っている物は腰に差す剣と、腰に付ける袋....剣士の可能性がある。

 歳はおよそ20歳か少し下程度。

 とても同業者には見えない服装が脳裏に引っ掛かるが、そんな事を気にしてる暇はなく、ゲンは深く考えなかった。


「逃げられると思うなよガキが.....!!」


 さらに煙の中からウォンが出てくると、ルピアに向け叫んだ。


「ダメだっ!!その先に罠の反応がするから止まってっ!!」

「無視しろ!!さっさとあいつらを追え!!」


 ゲンはウォンの言っている事を無視し、ルピアに追いかけ続ける事を指示する。

 ルピアもそれを承諾してか男達を追う。


 その直後だった。

 走るルピアの足元の土が崩れ片足の膝までがスッポリと地面に埋まる。


「うぉ!?なんだこれ!!?」


 ルピアは慌てて足を抜け出そうとするが。


「いだだだ!!!だ、誰か助けてくれぇっ!足が挟まって抜けねー!!!」

「っち!間抜けが!!」


 足の抜けないルピアを無視して追い抜き、ゲンとペソとリンギットの3人は男を追い続ける。

 ウォンはルピアの元に駆け寄り、罠を調べ始めた。


「ザマァ見ろーー!!賢者特製の罠だーーー!!」


 すると遠くから男の声が聞こえる。

 逃げている男の声だ。


「っち!!クソガキがッ!!!!」

「おいウォン!早くこれどうにかしてくれ!」

「....足が埋まると中に設置している2枚の木の板が開いて、抜こうとすると2枚の板が返しとなり抜け出せない仕組みか.....板がしっかり穴の中で固定されてる!一度穴を掘らないと無理だ!!」

「じゃあ早く掘れよ!!」


 ウォンは男を追いかけるゲン達の方を向き、叫ぶ。


「リーダー!!!この森はあの賢者って人に有利かもしれない!!エルフは一旦諦めてここは......「黙れ!!!腰抜けがッ!!!!」

「ゲンさん!あんなの放っておいて追いかけようぜ!」


 ウォンの言葉を無視するゲンとそれに同調するリンギット。

 自身の叫びは徒労に終わり、ウォンはリーダー達の事を諦め、ルピアを助けるべく手で地面を掘り始めた。



「おいペソ!お前のスキルは使えるか!!」


 ゲンは隣を走るペソに確認をする。


「まだ中速は魔力が溜まってないから無理だが、小速ならなんとか!」

「使えんならさっさと使えよ間抜けペソ!」


 速度系スキル<小速>、自身の走る速度を少し上げるスキルだ。


「黙れリンギット!<小速>!!」


 ペソはスキル<小速>を使いスピードを上げる。

 ペソの走る速度は上がり、ゲンとリンギットを追い抜き、一気に逃げる男に迫る。


 逃げている男は後ろを振り向きペソが急接近しているのに気づき逃げる方向を北西に変えた。


「ふん、バカが!俺が猛進でも使ったと思ったのか!あんな真っ直ぐにしか走れないゴミスキル誰が持つかよ!!」


 ペソは男との距離が約5メートルまで接近。


「取ったぞノロマがっ!!!」


 ペソはさらに接近し、ついにエルフに腕を伸ばせば届く距離にまで近づいた....その時だった。

 男と、それに続く様にエルフはジャンプし、そのまま伏せる形で倒れ込んだ。


 ペソは2人の行動の意味がわからず、そのまま伏せているエルフを掴もうとする。

 すると先ほど2人がジャンプした位置に足が着くと何かが当たった.....細い何かが。

 ペソはすぐに理解し、自身の浅はかさを呪った。


「っ...!ワイヤートラップ...!!!」


 足に掛かったのは糸だ、ペソは動きを急いで止めようとするが間に合わない。

 ペソの足はワイヤーをプチっ...と千切る。


 すると左と正面から、仕掛けられていたトラップが作動し2本の矢が飛んできた。

 ペソは避けようとするも間に合わず直撃する。


「ぐああ...!!うぅ...くっそ...!!!」


 幸い矢は上半身ではなく下半身程度の高さに撃つよう仕掛けられており、ペソは左足の太ももと右足の膝に矢を受ける。

 死に至りはしないが当分満足に走ることのできない傷だ。


 男とエルフはすぐに立ち上がり再び北の方角に走り逃げる。

 去り際に男は、「賢者特製のトラップだ、毒とかは塗ってないから落ち着いて対処するんだな」と言い残していった。



 およそ10秒後、ゲンとリンギットはペソの元まで辿り着き、ペソが矢傷を負った事を、そしてトラップの存在を確認する。


「っち!ワイヤートラップか...!」

「す、すまねぇ...この足じゃもう俺は...」

「ったくペソは足の速さ以外本当間抜けだな」


 言ったのはリンギットだ。

 彼は仲間に対してだろうが基本口が悪い。

 そのせいで口論になることがしばしばあった。


「あぁ?痛っ...くそ...!リンギットてめー後で覚えてろよ...!!」

「お前は一生そこで立ってるんだな!」

「いいから行くぞリンギット」


 ペソを置いて2人は男を追いかける。

 あの男が俺を見て北西に逃げたのは、俺をこのトラップに嵌めるためだったと思い知り、その咄嗟の判断力にペソは身震いした。


「賢者...か、一体何者なんだ.........」


登場人物紹介:盗賊団

 ・ウォン 

くそビビリの盗賊。親も盗賊をやっており、両親が仕切る盗賊団で雑用をしていたが、突如襲撃して来た学生服っぽいのを着たイカれ魔導士に盗賊団が潰され、流れ着いて現在の盗賊団へ。冒険者で言うなら職業『トラッパー』寄りのスキルを習得している。


 ・ルピア 

警戒心皆無の盗賊。特に何も考えずに行動する癖があるお馬鹿さん。保有スキルは三つあるが盗賊として役にたつスキルではない戦闘向けスキルのみ。


 ・ペソ 

この盗賊団の中で1番盗賊らしい盗賊。冒険者で言うなら職業は『盗賊』寄りのスキルを多く持っている。リンギットの事は本気で嫌っており、いつか殺したいと思ってたりする。

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