6.トラウマ(2)
朱雀高校、都内に存在する名門校だ。
俺は家が近いからこの高校に推薦で入学。
中学に続いて剣道部に入るか、それともPC部に入るか....そんな事に悩む俺の輝かしい高校生活が始まった.....と思っていたが。
クラスでいじめられている奴がいた。
高校入学して間もないのに有名な奴で、何でも父親が連続強姦殺人事件を起こし、死刑宣告を受けたらしい。
親が重罪人と言うこともあり、偏見の目で見られ、あいつには味方がいなかった。
いじめっ子にはいいサンドバックだ。
殴られ蹴られ、机は捨てられ、体操着もズダズダに切り裂かれ....母親が作ったであろう弁当は床に撒かれ..........見ていて同情する。
いじめっ子の方も有名な奴で、学校に多額の寄付をしている家の息子だ、助けるべき教師も見て見ぬふりをしている。
名門校に入学したのに、腐り切ってる高校の姿勢に吐き気がしていたが、俺は何もしなかった。
ある時、そいつが教室でいじめられている最中、俺と目が合った。
その目は必死に助けを求める切実な目だった。
......けどあいつを助けたら次のサンドバックは俺だ、助ける訳が......助けられる訳がない。
俺はすぐに目を逸らした。
後日、そいつは自殺した。
それから頻繁に、夢にあいつが出てくるようになった。
あの時の目を俺に向けている。
何も言わずにただ俺に『目』を向けている。
もしあの時、俺があいつを助けてたらあいつは自殺しなかったかもしれない。
ずっとそんな後悔の念が頭に残る。
そんなの無理だろ。
(俺は悪くない...だって助けたら俺まで同じ目に合っていたかもしれない......)
自分に言い聞かせるようにただ心の中で言い続けた。
毎日通っていた教室に入ると、得体の知れない何かに見られている感覚を常に味わった。
(俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない......)
気持ち悪い.......。
俺は学校へ行かなくなった。
◆
俺は悪くない、今回だって俺は悪くない。
攫われたエルフが悪い、警備を怠ったエルフ達が悪い。
そう自分に言い聞かせていると足の震えが多少収まってきた。
俺はこのまま振り向かず帰ればそれで......
「助けてっ!!!!!」
女の、エルフの震えた叫び声が森に響き渡る。
「ばっ...!」
俺は急いで木の影に隠れた。
「っ...!誰だッ!!!誰かいんのかッ!!!!」
座っていた盗賊達は一斉に立ち上がり剣を抜き、ロングソードを装備している男はエルフの側に寄る。
「誰かいんなら出てこいッ!!!」
盗賊の1人が叫ぶ、どうやら俺はギリギリ見つからなかったようだ。
(あのエルフ...俺を巻き込みやがった......自分が助かりたい一心で俺を.......)
エルフに対し煩わしさに似た苛立ちを覚え始めるが......すぐにそんな気持ちは消えた。
......俺がもし逆の立場なら同じ事をしていたはずだ。
俺がもし向こう側なら、きっと俺も誰かに助けを求めた。
助けてくれるかも知れない、そんな人を見つけたら誰だってそうする。
俺は協会で会ったおっちゃんの言葉を思い出す。
『...んなの、今の兄ちゃんの目が...助けを求めてる様に見えたからだが』
それだけで、自分が危険な目に遭っても助ける奴なんている訳がない。
いる訳がないのに......。
もしそれを認めたら俺は.......。
あの時助けていれば少なくともあいつは自殺なんてしなかったかもしれない。
あの時助けていれば俺はこんな後悔を背負わなくて済んだかもしれない。
いや...もしもあの時なんて考えるだけ無駄か......。
俺は助けなかった、それだけが現実。
俺は人1人を見殺しにしたクズだ...。
「誰か助けてっ!!!!!」
エルフは再び叫ぶ。
「...!何だよ...ビビった...」
「何かと思ったら...こんな森の中で誰かに助けてもらうつもりだったのか?馬鹿だな、もし冒険者の奴らが近くにいてもお前はエルフだ、助けてくれるわけねーだろ!」
「っち!おい、これ以上叫ばれると面倒だ、口塞ぐぞ」
ロングソードを装備した男は盗賊の1人に命令し、盗賊は木箱から布を取り出す。
布を持った盗賊はエルフに近寄り始める。
エルフは俺が動きやすいように咄嗟に言い換えてくれたようだ。
後はこのまま音を立てずに落ち着いて逃げれば.............ってさっきまでの俺ならそう行動したはずなんだろうけど......。
あぁ...ダメだ、今考えてるのは自殺行為だやめろ、どうせ上手くいかない、俺は殺される......けど......。
(なぁ剣技のおっちゃん、あんたに貰った命、ここで使わせてもらうよ)
死ぬのは怖い...が、さらにトラウマができる方がもっと怖い。
見えないふりをして、そいつが本当に見えなくなって後悔するなんて......なんだその虫のいい話は。
俺は......覚悟を決めた。




